全校生徒の前で幼馴染に告白したらごめんなさいと言われました。

紅狐(べにきつね)

幼馴染に長年の想いを伝える


 校庭に集まった全校生徒。

校舎の屋上に一人立っている女子がいる。


「三年一組 大山さつき! バレー部部長!」

「「おぉぉーーーー」」


 屋上で叫んでいる大山さんは、校庭に集まっているみんなに向かって大きな声で叫んでいる。


「私は部長ですがぁー後輩の指導には厳しい!」

「「そうだー!」」

「「きびいしいぞぉー」」


 同じバレー部の部員からヤジが飛んでいく。


「部員からは恋愛禁止をなくしてほしいと声も上がっている!」

「「そうだーー!」」

「全国を目指すにはー! 恋愛なんてしている時間はない! 彼氏よりもボールに情熱を向けてほしい! そう話してきた! そんな私は部長失格になってしまいました!」

「「なんでーー?」」


 彼女は大きく息を吸い、こぶしを強く握りしめている。


「恋をしてしまったぁぁぁぁぁ!!!」

「「きゃぁぁぁぁぁ!」」


 校庭にいる女子から歓喜の声が上がる。

そして、男子はなぜかみんなそわそわし始めた。


「三年一組のぉぉぉぉ」

「「おおおぉぉぉぉぉ!」」

「三上智也君! あなたの事が好きになってしまいました!」


 名前があがった三上先輩、どの人だろうとあたりを見回す。

どうやら眼鏡をかけた、少しひょろっとした人に違いない。


「私はいつも赤点ギリギリで! レギュラーから降ろされそうなとき、三上君に勉強を教わった! 全教科赤点じゃなかった! 一生懸命私に教えてくれるあなたに、私は恋をしてしまいました!」


 三上先輩、周りから指差しされている。

確か、三上先輩は掲示板に名前が載るくらい成績がいい人だよな。


 すると大山さんの隣にもう一人女子が現れる。


「副部長の北川です! バレー部は今日から恋愛解禁になりました! 好きな人への想いをバレーにもぶつけ、優勝を目指します!」

「三上君! 県大会優勝したら私と付き合ってくださーい!」


 はたして三上先輩は……。


「こんな僕で良かったらお願いします!」

「「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」


 三上先輩が胴上げされ、校庭の彼方に消えていく。

そして──。


「優勝目指して頑張るね、ダーーリーーーーーン!」


 こんなことはめったにない。

テレビの撮影で、俺の通っている高校が映るなんて……。

でも、こんな機会がないと言えないこともある。

 

 俺もずっと言えなかったことがある、心の声を今日叫ぶんだ。


 屋上に続く階段、こんなに胸が痛くなるのは初めてかもしれない。

俺は今日、小学校からずっと一緒にいた幼馴染に、想いを伝える。

きっと、大丈夫。今日この日まで、何度も探りを入れてきた。


 彼氏はいない。好きな人はいるっぽい。

でも、関係を壊したくないから想いを伝えられない。

好きな奴は同じクラス。多分、俺の事だ! いける、絶対にいける!


 屋上からみんなを見下ろす。

おぉぉぉ、思ったよりも高い。そして、怖い……。

彩音はどこにいるんだ? あ、いた。


 長い髪をなびかせ、俺の方を見ている。

俺は、お前に想いを届ける! しっかりと聞いてくれ!


「二年二組! 青木勝! お、お、俺にファーーーー!」


 噛んだ。校庭からクスクスと笑い声が聞こえる。


「ゴフン……。俺には! ずっと! 好きな人がいる!」


 仕切り直しだ。


「ずっと一緒にいて! ずっと好きだった! だから、俺の想いを今この場で伝えたい!」

「「だーーーーれーーーー!」」


 言うぞ、言うぞ! 俺の想いよ、届け!


「同じクラスの! 高山彩音さん! ずっと好きだったー!」

「「きゃぁぁぁぁぁ」」

「俺と付き合ってください!」


 言った! 言い切った! どうだ、俺は言ったぞ!

彩音は手を口に持っていき、大きく息を吸い込んだ。


「ごめんなさい! 夢があるの! だから、今はごめんなさい!」


 桜散る。


「ありがとうございました!」


 俺はうっすらと涙を浮かべ、校舎内を通り、校庭の隅に腰かける。

ダメだった。明日、いや今日からどんな顔してあいつとい会えば……。

死のう。無理だ、全国ネットで恥を出す。いや、死んじゃだめだ、転校しよう。

そう、田舎の高校に転校だ……。俺はもう、この学校に通えない……。


 肩を落とし、空を見上げる。

今日も空は青いな。俺の心は空っぽになっちまったよ。

ずっと、好きだったのに。ずっと一緒に、隣にいる事ができると思ったのに……。


 ふと、屋上の方に視線を向ける。

彩音が立っている。あいつも何か言いたいことがあるのか?


「私にはーー! 夢がある! ずっと叶えたかった、たった一つの夢が!」

「「なーーーにーーーー!」」


 生き生きと声を上げる、彼女の声。

こんな声を聞くのも、もう最後なんだな。さようなら、俺の青春。


「好きな人に! 放課後! 教室で! 好きって告白されたい!」

「「きゃぁぁぁぁぁ!」」


 あいつの好きな奴。誰だ? 殺意を抱く。


「同じクラスの! 青木勝君!」

「「えぇぇぇぇぇ!」」


 俺? 今俺の名を呼んだのか?


「さっきはごめんなさい! でも、私はみんなの前じゃなく、二人っきりで告白されたい! 今日の放課後、もう一度言ってもらえませんか! 夢なの!」


 夢、それが彼女の夢?

だったら叶えるしかないだろう!


「彩音の夢、俺が叶える! 任せてください!」


 そう叫んだ瞬間、同じクラスのやつらが俺のことろにやってきて、めちゃクチャにされた。

ついでに胴上げされ、俺自身空に向かって飛ばされる。


──


 放課後、誰もいなくなった教室。

夕日の光が差し込み、俺たちを照らしている。


「ずっと、好きでした。俺と付き合ってもらえませんか?」

「喜んで。ごめんね、こんな形になっちゃって」


 彼女の手が俺の手と重なる。


「彩音に断られたとき、一回死のうと思っちゃったよ」

「だ、ダメだよ! 絶対に死んじゃダメ!」

「大丈夫だよ、今はそんな事考えてないから」

「これから、彼女としてよろしくね」

「彩音の隣に立って恥ずかしくない男になるよ」


 そんな言葉を交わしながら俺は彼女を優しく抱きしめる。

約十年、俺の想いは彼女に伝わった。


 たった一つ気になることがある。

それは……。


 廊下からこっちに向けられているレンズだ。

隠れることもなく、堂々と撮影している。

まさかとは思うけど、こんなシーン放映されないよね?


「私たち、全国デビュー間違いなしだね」


 微笑む彼女はきっと全国のお茶の間を沸かせるだろう。

俺はちょっと恥ずかしいけどな。




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全校生徒の前で幼馴染に告白したらごめんなさいと言われました。 紅狐(べにきつね) @Deep_redfox

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