モノリス
古川
五時間目
「それなんなん?」という私の質問に「モノリスっす」と後輩光村は答えた。
すごくさらりとそう答えたので、重ねて「モノリスってなんなん?」と聞くのも癪に思えて「なるほど、モノリスな」と私は返した。
モノリスと呼ばれるそれは厚めの鉄板的なやつで、それを使えば分厚いステーキを超火力とかに晒してめちゃくちゃ美味しく焼き上げることができそうななんかそういう鉄板だった。
「ここに現在を刻んでいくんすよ。ずっとずーっと刻み続けて、地球が滅びる時まで続けるんす。でもこれは地球がどんなふうに滅びたとしても砕けないし溶けないし穴すらあかない素材でできてるんで、全てが死んだ後にも残るんすよ。で、これを未来の知的生命体が発見してくれれば、地球でどんなふうに俺らが生きてたのか、その記録を読み取ってもらえるんす」
死ぬほど猫背の光村はその鉄板に釘的な物で何かを彫り付けながらべらべらしゃべった。早口でキモかった。もともとキモかったけど余計キモくておもしろかった。なので聞いてみる。
「光村、地球滅びるまで生きてる予定なん? それ彫りながら」
「いや、これは代々受け継がれるんすよ。俺はこれをじいちゃんから受け継いだんす。俺の次は姪っ子のサナちゃんに引き継がせるつもりっす。今3歳なんすけどね、もうリンゴを英語で言えるんすよ。あぽう、あぽう、つってかわいいんす」
「いやなに光村もう叔父さんなん?」
「そうっす。姉ちゃん9こ離れてるんで」
すでにおっさんみたいな外見の光村が名実ともにおじさんやってるとか、突然すべてがしっくりきて笑った。たぶん世界はそういう必然で成り立ってるんだと思った。知らんけど。
「へぇ、それが光村の使命なんか。まぁ学校のくだらん授業よりは大事かもしれんね」
「まぁそうっすね。先輩はなんの使命があっていつも授業サボってるんす?」
聞かれて考える。私には引き継いで受け渡すべきモノリスなんてない。ただいろいろ面倒だし疲れるから授業に出ず、校庭の隅の木に自家製ハンモックを吊り下げて昼寝しに来ている。意味はない。だからそう答える。
「別に、意味は無いわ」
「そうすか。ちなみにこれ地球上に無数に存在してて、今あらゆる場所で現在が刻まれてるんすよ。だから未来の知的生命体は各地からこれを集めて本にして、そしてめくって読むんす。俺がやってるのはほんの1ページってわけっすよ」
へぇ、と私はハンモックに揺られながら言う。シルバーに輝くそれが束ねられて、未来の存在に解読されるのはまぁ確かに希望だなと思った。
「先輩がハンモックで寝てるってのも刻んどくっすね」
「まじか」
笑うと、光村は振り返って悪そうな顔で笑い返してきた。
無意味な現在が刻まれて未来に届けられるとか、人類っぽくていいやんと思った。
〈了〉
モノリス 古川 @Mckinney
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます