世界を闇に包もうとする大魔王がいたので、やめないかと説得してみた

コータ

やめろ! そのような儀式……ってあれ?

 クククク。勇者よ、まさかこの祭壇までやってくるとはな。


 大魔王たるわしの元にたった四人でたどり着くとは、いやはや恐れ入る。まさか部下の四天王まで蹴散らしてしまうとは想定外であったぞ。


 だが勇者よ、何故そうまでして生き延びようとするのだ?

 生きとし生けるものは必ず死ぬ。ならばこそ美しい最後にこだわるべきであり、我が魔王城はこれ以上ない終焉を飾るに相応しき舞台であろう。


 なに? わけ分からんことを言ってないで、世界を闇に包もうとするのをやめろだと?


 ククク! 何を申すか。ワシの悲願が今こそ達成されようというのに、やめるはずがなかろう。我が祭壇に供えた闇のオーブ……これさえあれば貴様らの世界全てが漆黒に包まれるのも時間の問題よ。


 おっと! まあ待て勇者どもよ。焦るな、まずは落ち着け。

 お主達の人生で最大の大一番だというに、何をせかせかとしておるか。ラスボス戦の前には、心が燃え上がる前菜が必要じゃ。


 まあ、よくよく考えてみれば勇者よ。お主はここにたどり着いた時点でもう既に胸熱の展開ではあったな。なにしろ、道中で実の父と再会できたのだからのう。残念ながら事切れてしまったようじゃが、志を引き継ごうというお主の叫び、誠に男であった!


 だがな。故人に対してあまり失礼なことは言いたくないのだが……なんというか。


 あのお父上はなかなかに個性的な格好をしておったな。全身タイツで顔にはマスクをして、目を血走らせながら斧を振り回すあの姿は、まるで変質……ごほんごほん! やはりやめておこう。気にするな勇者よ、立派な父上であったぞ。


 あの父の息子であるお主は、やはり強者。この城にたどり着く数日ほど前、森で野宿をしておったことをワシは存じておるぞ。焚き火にあたりながらそこにいる女賢者と肩を寄せ合い、今までの冒険の日々を回想していたのう。


 しかしな勇者よ。ワシは一つお主の回想トークに違和感を覚えていたのだ。まずはじまりの国を出て、故郷からワープをして大陸へと渡り、船を手にして世界中を駆け回ったというお主の語り、実に熱い! しかしだ、抜けているものがあったではないか。


 なに、覚えていないだと。勇者よ……あの砂漠の素晴らしき街を覚えていないと申すか、ええ? そこのアホな戦士が定価10Gのポーションを2,000Gで購入したことを知って、雄叫びを上げながらどつき回していた姿は衝撃だったが、もっと刺激的な思い出があったはずだ。


 む! どうした勇者よ。剣を構えおったか。落ち着け落ち着け。途中からお主のパーティに加わった女賢者が、興味津々で我が話を聞いておるではないか。


 ぬぬ? どうしてお前がそこまで知っているのかだと? ククク! 甘い、砂糖菓子の如く甘いぞ。我らが魔族の情報網は伊達ではない。


 とにかく話を戻すぞ、最後まで聞け。お主は確かそこでとある女に声かけをされたはずじゃ。若くてピチピチの弾けるボディに魅せられ、怪しきピンクの灯りに照らされた店内に足を踏み入れ、そして……ぬおぉおおー!?


 これ勇者よ! まだ話の途中というに、なぜ閃光魔法などという物騒な攻撃に出るのだ。ははーん、さてはお主あれじゃな? 女賢者に『この汚らわしい男! この旅が終わったらアンタとはお別れよ!』なんて展開を恐れているのか。


 ちょ、ちょっと待て。女賢者よ、その魔法はまずい。まさか……我が四天王の一人である魔道士色違い四色目を、一撃で屠りさったあの技か!


 すまんかった。勇者はともかく、いよいよ女賢者も本気になってきたな。だが安心せい。この男はまだ童貞のままじゃ! なに? そこを気にしてるんじゃないだと。


 まあとにかく、あの店でなにが行われたのかは語らせてもらおう。


 まず全身を丁寧にマッサージだ。流石にプロのテクだけあって、リラックス感が半端ではない。心も体もほぐしきって、さあいよいよ始まっちゃう、キタキタキタ……イェーイ! ってなったところで部屋が急に明るくなり、身の毛もよだつほどの大胸筋と腹筋、熊の如き剛毛を併せ持つマッチョが姿を現すというわけよ。


 あれは酷いものだ。肩を落として帰るしかなかったワシは……って違う!

 お主は哀れで仕方なかったわい。


 さてと、もう長話もこの辺で良かろう。お主達も十分に気合が入ったことじゃろうて。では始めるとしようか。


 クク……ククククク……ハーハッハッハ!

 たわけめ! 貴様らは勇者の風俗体験に耳を傾けすぎて、たった一つの勝機を失ったぞ。この杖の先端に輝く魔法を見るが良い!


 名うての冒険者ならば、なんの魔法であるか一目で分かるであろう。

 なに? 分からないだと。


 まったく。このやり取りをするのはお主達で三度目だぞ。一度目は今から三百年前、ワシが魔王として姫を攫ったりしておった頃に戦った勇者。

 二度めは辛くも帰還したワシが、邪神をエロ本で復活させちゃった時に戦った勇者。


 まあ、二人ともお主の先祖なわけだが。ククク! このワシは二度までも絶体絶命の危機を乗り越えておるのだ。


 なに? それでなんの魔法がかかっているのか教えろだと。勇者よ、お主はなんの感慨も持たんやつなのか。世代を超えた激闘だぞ、世代を!


 まあよい。これはどんな存在をも必ず死に至らしめると言われる万能即死魔法よ。この魔法が完成した今、貴様らの勝機など毛程もないわ!


 クハハハ! 焦っているようじゃな勇者よ。おや、どうした? 先ほどからずっと黙っていた女僧侶よ。まるでどこぞのモブのように存在をかき消していたようじゃが。


 む? お主、しくしく泣きながら道具袋から何かを取り出しおったな。ふぅむ、少々大きめの石のように見えるが、どうやら魔物か。


 ……ちょ、ちょっと待て。そ、それは!? 半径数十キロを跡形もなく吹き飛ばす自爆魔法を操る、ダイナマイトストーンではないか!


 こ、これ! なぜ杖でポカポカと叩いておるか! そんなことをしたら魔法を放たれてしまうぞ!

 なに? 勇者と賢者が恋仲になったと知った以上、生きていても仕方ないじゃと?


 ぐぬぬ! 迂闊だったわ。そういえばお主は勇者の幼馴染ポジションでありながら、途中参加の女賢者に全てを持っていかれたことを失念していた。相当に思い詰めていたようじゃわい。


 しかしな僧侶よ。気にすることなど何もない。確かにこの勇者めは、賢者にぞっこんのようだが。男は他にも沢山いるではないか。例えば隣であわあわしとるアホ戦士とか……。


 あ! ま、待て待て! 激しく叩きすぎじゃ! ダイナマイトストーンの顔が真っ赤になってきおったわ。このままではマジで大爆発するぞ。


 これ勇者、なんとかせい! 今すぐ女賢者と別れて、幼馴染僧侶と王道の恋愛を成就させるのだ。


 よし、なんとか説得を始めたようじゃな。ふぅむ、女賢者が睨んでいるのが不安だが、なんとかなりそうな空気感があるのう。


 いやー、まったくもってけしからん連中じゃわい。おっと! そうであったそうであった。奴らが慌てふためいて話し込んでいる隙に、この万能即死魔法で仕留めてしまえば……。


 む? どうした勇者よ。もう話がついたのか。なに、説得しても聞いてくれないだと。流石はコミュ力ワースト一位の男だけのことはあるな。一分も経たずに諦めおってからに。


 一体どういう説得をしたのだ。ワシに言ってみろ。

 なに、第二夫人にするからやめてほしいと説得しただと? こ、このたわけが!

 いつから一夫多妻の話になったんじゃアホ!


 ええい! こうなっては致し方ない。僧侶よ、もはやこの際、このダンディーな大魔王と健全なお付き合いをおおおお!? ダイナマイトストーンが、ダイナマイトストーンがぬわーーーーっ!!?

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世界を闇に包もうとする大魔王がいたので、やめないかと説得してみた コータ @asadakota

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