3 disappointment and hope

7階の窓から見える今日の空はほんとにどす黒い。三が日こそ過ぎたものの新年早々雨が降りそうだ。


今日は1月4日。堀総の病棟で新年を迎え、3日経った。入院生活が始まってからは4日。早くても3日と言われていたけど、三日じゃ無理だったみたいだ。特にもう辛いとかはないんだけどな。大事を取って一週間は入院させるのかな。



「大谷さん、失礼します。」

「はい。」


回診かな。いやでもそれはさっき終わったか。じゃあいったいどうしたんだろう。


「あ…修斗君、お父さん、お母さんも少しいいですか?」

「ええ…」


少しいいですか、なんて何か怖いな。少し心臓が速くなってるのが自分でもわかる。


「修斗君の肺炎ですが、改善してきました。ですが…」


あまり言いたくない?お医者さんの目に迷いがあるのが見えた。


「依然として白血球の数値が高いままです。我々は肺炎による一時的な上昇と考えていましたが、肺炎が快方に向かうなか、ここまで白血球の数値が高いと別の可能性を考えなくてはなりません。」


「別の可能性って…?」


「白血病の疑いがあります。となると当院では治療が難しく転院s…」


まるで頭に戦車が降ってきた感じがした。目の前が暗くなる。白血病。僕、いや僕が通っている学校のひとならよく知っている。最近白血病で娘を亡くしたという方が命の大切さだなんだで講話にきた。その時は命の大切さなんて感じられなかった。代わりに感じたのはその人が話すその病気への底知れぬ恐怖だった。

嫌だ…怖いよ…僕もあんなんになるの?体中が浮腫んで、髪の毛も抜けて…怖い、怖いよ…そんなの嘘だよね?

もうお医者さんの言葉は耳に入らなかった。


「大丈夫だ。まだそれと決まった訳じゃない。」


恐怖と絶望でグチャグチャになった僕に力強く語りかけたのは父だった。


「まだそれと決まった訳じゃない。自分はきっと大丈夫だと信じていなさい。次の病院に行かないと分からないんだから。」


そういえば転院がどうとかって言ってたっけ。それに確かにそうだ。疑いがあるってだけだ。まだ希望が見えるじゃないか。あれだけ怖い父もたまにはいいことを言ってくれる。きっとまだ大丈夫。


それから荷物をまとめ次の病院に向かう準備をした。次の病院は藤原保健衛生大学病院というところらしい。…確か僕の学校に命の大切さだなんだの講話をしに来た人の娘さんもここに入院してた気がする。若干の縁起悪さを感じるのは失礼かな…でも病院では人は死ぬ。そして人間は死を恐れる。これは間違いのない真理なんだ。じゃあ縁起悪さをかんじるのは仕方ないよね。きっと大丈夫。僕は白血病なんかじゃない。僕は信じてるよ。




描いていた希望が打ち砕かれるのに、そんなに時間はかからなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

suffer 僧侶uyu @uyu607

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ