020 エピローグ
謁見の間に着いたアルベルト公爵は、正当な手続きを踏んで王位を継承した。そして、そのことは直ちに国民へ知らされた。もちろん先代の王が涼介によって銃殺されたことも。
アルベルトが新たな王となることに異論を唱える者はいなかった。国民は諸手を挙げて喜んだ。国中に蔓延る汚職が消えるのだと。涼介の人気も後押しになった。
これまでアルベルトに敵対的だった侯爵や伯爵といった大貴族も賛同した。そればかりか早くも媚びへつらい自らの地位を脅かされないよう奔走していた。新王家と旧王家のどちらに味方するのが得なのかを考えての行動だ。日頃から権力闘争に明け暮れているだけあり、この手の嗅覚は鋭い。
「王位を継承したことで公爵の席が空いた。涼介、公爵になってくれないか」
アルベルトが行った最初の人事がこれだ。しかし、涼介は頑として首を縦には振らなかった。
「俺はまだまだ若造で一つの場所に落ち着ける程には成熟していません。公爵になって領内から出られなくなるのは耐えられない。気持ちはありがたいけど、公爵の座はもっと相応しい人に与えてください」
アルベルトはそれを承知しなかった。
「君より相応しい人間はいない。ではこうしよう。公爵の座は空けておく。その気になったら声を掛けてくれ。君が公爵になるその日まで、公爵領はこれまで通り私が統治しよう」
その後、アルベルトは涼介の力を借りて大改革に乗り出した。「官は国民の模範であれ」を国是とし、国中に蔓延る汚職を一掃したのだ。小さな賄賂すら許さず、見つけた際は厳罰に処する。
これによってアルベルト以外の大貴族が勝手に徴収していた税は消滅。事実上の大減税となった。そこに涼介の作る工業用機械の数々が加わり、王国は僅か数ヶ月で未曾有の好景気、俗に言う「黄金時代」を迎えるようになった。
涼介が王城の居住塔を吹き飛ばしたことで「内乱の兆しあり」と捉え密かに侵略の機を窺っていた他国は、急激に発展する王国を前に方針転換。王国との融和路線に乗り出した。
そして、半年後――。
「ようやく解放されましたね! 涼介様!」
「本当だよ。この半年は休みがなくて大変だったぜ」
「今後はもう自由なのですよね?」
「ああ、全ての仕事が終わった。晴れて自由の身だ。シャバの空気は美味い!」
涼介とシャーロットは手を繋いで王都を歩いていた。かつては一般人と公爵令嬢だったが、今では国の、いや、世界の最重要人物と王女という関係だ。
「シャーロットのほうこそ大丈夫なのか? ネギオンかディアッサで城主をしているんじゃなかったか?」
「そのことなら問題ございません。お父様、いえ、国王陛下より城主の任を解いていただきましたので。涼介様と同じく自由の身です」
シャーロットは両手を伸ばし、「空気が美味い!」と笑った。
「それならよかった。なら久しぶりにクエストでも受けにいくか」
「いいですね!」
「いやいや、全然よくないから!」
話に割り込んできたのは赤髪の女コネットだ。めずらしく馬車に乗っていない。
「コネット、久しぶ……いてぇ!」
涼介の頭をコネットの拳が襲った。
「何するんだコネット!」
「それはこっちのセリフよ! 半年間も放置するとか酷いよ! おかげでこっちは商売あがったりなんだから!」
「あ……」
涼介はすっかり忘れていた。コネットとの取引を。
「もしかして他の冒険者も……?」
「そりゃもうかんかんよ! ステンガーがないからドラゴンを狩れないし、周りが好景気になっていくものだから相対的に景気が悪く感じるし! 私もステンガーほど美味しい商売はないから前より稼げてないし!」
「すまないことをしたな」
「本当だよー」
コネットは「ということで」と笑顔で取引申請を行った。涼介は承諾し、その数秒後には驚愕した。
「お、おい、なんだよこの材料数は……」
「何ってステンガー1000万個分だけど? お金もばっちり1000万個分でしょ?」
「国家予算を超えそうな規模だな……。どうやってこれだけの材料とお金をかき集めたんだ?」
「それは独自のルートなので教えられないよん。それより早く承諾! 承諾!」
「はいよ」
涼介は材料を受け取り、1000万個のステンガーを送り返した。
「ありがとねん、涼介マン! シャロ太郎もまたねー!」
「はい! またです、コネット様!」
「王女様に様付けされるたぁコネット姉さんも立派になったなぁ!」
コネットは「がはは」と上機嫌で乗り物を召喚する。それは涼介に憧れるどこぞのクラフターが作った自転車だった。王都の一部でプチ流行中だ。
「かっこいいでしょ、これ! 時代は自転車よん!」
「自転車なら俺も作れるが……」
「じゃあ今度作ってよ! ステンガーだけじゃ心許ないと思っていたんだよね。涼介マンが前に乗ってた勝手に動く鉄の塊とかも量産しよ?」
「自動車か。かまわないが1台につき1億はかかるぞ」
「ならだめだー! ま、今後ともよろしく! 次の取引は1年後ねん!」
「おう! って、1年後!?」
「これだけのステンガーがあったらしばらく困らないもん」
「なるほど」
コネットが「じゃーねー」と去っていった。
「俺達がどれだけ有名になってもあいつだけは変わらないな」
「不思議な方ですよね、コネット様って」
消えゆくコネットの背中を見つめながら二人はクスクスと笑った。
「コネットの話によると冒険者はお怒りのようだからクエストはまた後日にしよう」
「じゃあクエストを受けずにダックマンを狩りにガーガー湖へ行きませんか?」
「ダックマン? あんなザコの中のザコをどうして今さら?」
「私達が初めて出会った場所だからです」
「そういうことなら成長した姿を見せてもらおうか。初めて会った時は驚くほど弱かったからな、シャーロット」
「ふっふっふ、お任せください。今回は私が涼介様をお守りしますよ!」
「それは頼もしい」
二人は仲良くテレポート屋に向かうだった――。
【完】
元最強冒険者、新たな世界でも最強になる ~かつてゴミ職扱いされていた【クラフター】が覚醒! 何でも作れるようになったので現代兵器で無双することにしました!~ 絢乃 @ayanovel
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