019 最終決戦

 次の日の正午、涼介は予告通り王都の前に現れた。シャーロットの操縦する装甲車で。


「公爵の予想通り全面対決のつもりみたいですね」


「王はそういう人だからな」


 王都の城門前には様々な兵科からなる軍隊がずらりと並んでいた。その数150万。全都市から召集された王国軍の最大戦力だ。


「小細工をしなかった点は評価してやらないとなぁ」


 涼介は車から降りる前に伏兵等がないかくまなく調べていた。テレポートスキルの出入口ポータルが生成されようとしている兆しもないし安全だ。


「シャーロットと公爵はここで待機を。あとは俺が一人でやる」


「本当に大丈夫なのか?」


「問題ありませんよお父様! 涼介様ならこの程度楽勝です!」


「この程度ってお前、王国の全軍を相手に一人で挑もうとしているのだぞ。いくら涼介がすごいとはいえ、この数は……」


「涼介様なら大丈夫です!」


 涼介は「なるようになるさ」と笑いながら車を降りた。王国軍と涼介が300メートル程の距離を隔てて向かい合う。彼の視線は王国軍の奥へ向かい、城壁の上にいる国王を捉えた。


「王城に隠れなくていいのか? 王様よ」


「ぬかせ、お前がどのような兵器を使おうがこの軍勢には勝てん。戦いで最後に物を言うのは数だ」


「なら試してみるか?」


「言われなくても――全軍かかれ! 奴等を討ち取れ! もはや生け捕りなどしなくてもいい! 首だけ持って帰ってこい!」


 王の命令によって王国軍が突撃を開始した。


「中世の軍隊がどれだけ頑張っても現代では通用しないことを教えてやろう」


 涼介は右手を上げた。事前に作っておいた3万機のドローンが現れる。これまでのドローンと違い自動小銃が取り付けられていた。


「行け」


 涼介の合図でドローンが一斉に突っ込んでいく。先頭を走っていた敵の騎兵隊が止まった。


「弓とスキルで迎撃だ! 後続は涼介に突っ込め!」


 王国軍はドローンを抑えつつ涼介を狙う作戦だ。


「そうはいかねぇよ」


 ドローンが一斉射撃を開始した。銃弾は的確に王国軍を捉える。涼介の課した制約「致命傷を与えることはできない」によって、命中箇所はもれなく急所から外れていた。なので死ぬことはない。しかし、激痛によって無力化されるので戦闘を継続することもできなかった。


「あの小さい飛行物体の一体一体がとてつもない戦闘力だ!」


「こっちの攻撃は軽やかに回避されるし……」


「無理だ! こんなの無理だぁ!」


 瞬く間に王国軍が崩壊する。美しさすらあった陣形が崩れ、全ての兵科がごちゃ混ぜになった。


「何をしている! 怯むな! やれ! 相手は一人だぞ!」


 国王の叱咤激励は届かない。


「おい、よく見ろ」


「どうした?」


「俺達、誰も死んでないぞ」


「あ、本当だ」


 ほどなくして王国軍は気づいた。涼介に殺す気がないことに。


「そういえば公爵の救出に来た時も死者はいなかった」


「昨夜の王都襲撃にしたって攻撃前に警告していたぞ」


「アイツ、手加減しているのか?」


「これで手加減だと……」


 涼介の底知れぬ強さが王国軍の士気を下げる。所詮は一人だからどうにかなるという思いが完全に消えた。


「化け物だ……」


「格が違いすぎる……」


 絶望している間にもドローンの攻撃は続く。最終的に全ての兵士が無力化された。


 それは戦争とは名ばかりの蹂躙だった。1人のクラフターによる一方的な蹂躙だ。


「まだ戦うか?」


 涼介が問いかけると、全ての兵士が武器を捨ててひれ伏した。


「ご自慢の軍隊はこの通りだ。王様、あんたはどうする?」


 涼介が国王を睨む。


「もうおしまいだ……」


 国王はそう呟き、城壁から下りた。


 ほどなくして城門が開き、国王を乗せた馬車が出てきた。城門の向こうでは冒険者を中心に大勢の国民が成り行きを見守っていた。その中にはコネットの姿もあった。


「ワシの負けだ」


 馬車から降りた国王は涼介の前で膝を突いた。それを確認すると公爵が近づいてきた。国王は正座した状態で公爵を見る。


「お前の勝ちだ公爵。涼介を手懐けるとは恐れ入った」


「それは誤解です。私は涼介を手懐けてなどいません」


「馬鹿を言うな。自分を王にするよう涼介に頼んだのだろう」


「違います。それは涼介が私に提案したのです。私は彼こそ王になるべきだと反対しました。今でもそう思っています。私は王に向いていませんので」


 昨夜、涼介が「新たな王にならないか」と提案した時、公爵は断固として拒否した。王には力強さが必要だが自分にはそれがない、というのが公爵の考えだった。そして、新しい王を据えるのであれば涼介こそ相応しいと返した。


「公爵を説得するのに三時間もかかったよ」


 涼介もまた自分は王に相応しくないと思っていた。王になると好き放題に動けないからだ。彼は一つの場所で大人しくしているのが苦手だった。それに国民の声に耳を傾けられる程の器量は持ち合わせていないと自覚していた。


「で、降伏したからには認めるのだな? 公爵に王位を譲ると」


「ああ、そうだ。だから命だけは助けてくれ。そういう約束だっただろ。禅譲すれば命だけは取らないでくれると」


 涼介は「そうだな」と笑い、拳銃を召喚した。そしてそれを国王に額に当てる。


「お、おい、何の真似だ……?」


「たしかに禅譲すれば命は取らないと言ったが、それは昨夜の話だ。俺はそのあとにこうも言ったはずだ。拒めば次は容赦しないと」


 次の瞬間、涼介は引き金を引いた。無情な銃声が響き、国王の額に穴が空いた。即死だ。


 やり取りを見ていた王国軍や野次馬は愕然としている。開いた口が塞がらなかった。


「戦いが始まった時点で禅譲の話は終わっていた。俺達は簒奪さんだつに来たんだよ」


 涼介は自身の上空にドローンを浮かせ、王都に向かって言う。


「王は死んだ。今この時をもってこの国は公爵が治める。公爵こそ次代の王だ。それについて文句のある者はかかってこい。公爵に代わって俺が相手になってやる」


「「「…………」」」


「決まりだな。行きましょう、公爵」


「うむ」


 涼介と公爵は装甲車に乗り、堂々と正面から王都に入った。

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