018 警告
「この辺りなら問題ないな」
涼介が運転する装甲車は国王の直轄領にある森で止まった。レベル8のゴブリンが大量に棲息する森でゲームの頃は初心者に人気のエリアだったが、この世界では不人気なので人っ子一人いなかった。
「これからの事なんですけど」
「待ってくれ。それより大丈夫なのか? 外が凄まじいことになっているが」
公爵が窓の外に目を向ける。数十体のゴブリンが装甲車を囲んでいた。ゴブゴブ吠えながら殴る蹴るの暴行に励んでいるものの、装甲車にはかすり傷すらついていない。
「問題ないけどちょっと騒がしいな。シャーロット、頼む」
「お任せください!」
シャーロットは〈妖精召喚〉を発動。四匹の可愛らしい妖精が召喚された。
「妖精さん、お願いします!」
「「「「ぴぴーっ!」」」」
妖精たちは微かに開いた窓から飛び出してゴブリンの相手をする。涼介の指示によって〈妖精召喚〉と〈妖精強化〉に特化しているため、シャーロットの妖精は獅子奮迅の働きを見せた。瞬く間にゴブリンが灰と化していく。
「これで静かになったな」
涼介は改めて話した。
「これからのことなんですけど、公爵は何か策とかありますか?」
「いや、それが何も……」
「念の為に訊ねますけど、公爵とシャーロット以外の身の安全は確保されていますか? 例えば俺の脱獄に協力してくれた騎士の方々とか、ディアッサを治めているシャーロットのお姉さんとか」
「それは問題ない。狙いは元より私だけだ。シャーロットは自分から首謀者だと名乗り出たから捕まったに過ぎん。何も言わなければこの子も無事だった」
「それなら心置きなく動けますね」
「動く? 涼介、君は既に何か考えているのか?」
涼介は「はい」とニヤリ。
「公爵、新たな王になる気はありませんか?」
「「えっ」」
公爵とシャーロットの目が点になった。
◇
その夜――。
「ええい、まだ見つからないのか!」
「申し訳ございません」
「見つけたら必ず生け捕りにして連れてこい!」
「ハッ、失礼いたします……」
王城の居住塔最上階にある居室で、国王は苛立っていた。逃亡した涼介たちの足取りが掴めていないからだ。怒った公爵が涼介を
「ようやく処刑の大義名分ができたというのにみすみす逃がしおって」
国王は前々から公爵のことが気に入らなかった。貴族でありながら国民からの支持が高く、汚職を嫌うなど融通が利かないからだ。国民の多くが「王に相応しいのは公爵」と言っていることも知っていた。なので前々から公爵を排除したかったのだが、今までは大義名分がなかった。
そんな時に現れたのが涼介だ。しばらく前から探していたステンガーの発案者であり、しかも公爵の三女と親しい間柄にあるときた。これを活かさない手はなかった。
故に国王はどちらでもよかった。対人用ステンガーの提供を涼介が受け入れるかどうかは。ステンガーを提供するのであれば素直に領土拡大の戦争を始めるだけだし、拒めば公爵を排除するために利用するだけだ。処刑すると言えば公爵が止めに入ることは分かりきっていた。
「それにしても、まさか脱獄の手助けまでするとはな……」
地下牢へぶち込まれた涼介に対し、公爵が何かしらの動きを見せることは国王も予測していた。しかし、公爵の動きは国王の想像以上に大胆だった。
「陛下、大変です!」
一人の騎士が部屋に駆け込んできた。
「ノックもせずに失礼な奴だな」
「申し訳ございません!」
「それでどうした?」
「外に涼介が作ったと思しき謎の兵器が飛んでいます!」
「なんじゃと!?」
国王は部屋の窓から外を眺める。そして「なんじゃあれは!」と声を荒らげた。
それは涼介が〈クラフト〉によって作り出した戦闘機だった。フロントのライトが国王のいる窓を照らした。
「この戦闘機にはステンガーよりも強力な武器が積んである」
涼介の声が響く。
「それを使って今から居住塔を破壊する」
「なんじゃと!?」
「2分やるから避難しろ。嘘だと思うならそこで死を待つがいい」
涼介がカウントダウンを始める。
「早くあの戦闘機なるものを潰せ!」
公爵は傍にいる騎士に命じた。
「無理です! こちらの攻撃が届かな距離にいます!」
「何かしらあるだろ! 攻城用の
「そんなことをして外れたら街に被害が出ます!」
「ならスキルはどうだ! 火とか雷とかなら届くだろ!」
「届きますが通用しませんでした!」
「ならどうすれば……」
呆然とする国王。
「残り1分だ」
「陛下、とりあえず避難しましょう!」
「しかしそれでは奴に屈したようなもの……」
「ですが此処にいてもできることはありません! 今はひとまず身の安全を確保するべきです!」
「ぐぬぬ……」
国王は渋々ながら了承し、騎士と共に避難する。
そして、1分後――。
「攻撃を開始する」
涼介の言葉と共に戦闘機からミサイルが放たれた。それはステンガーとは比較にならないスピードで飛び、居住塔の最上階に直撃。強烈な爆音と共に命中箇所が吹き飛んだ。
「な、なんという威力じゃ……」
国王の顔が絶望に染まる。圧倒的な恐怖によって体が支配された。
「国王に告ぐ。お前は公爵に王位を禅譲し、一切の権力を放棄して引退しろ。そうすれば命だけは取らないでやる」
「なんじゃと!?」
「明日の正午まで待つ。今回は警告だが、拒めば次は容赦しないからな」
そう言い残し、戦闘機は空の彼方へ消えていった。
「陛下……」
国王のもとへ騎士が集まってくる。
「ガキが! このワシを愚弄しおって! 明日の正午まで待つだと? いいだろう、その油断が命取りになることを教えてやる!」
国王は騎士に向かって言った。
「急いで戦争の準備を整えろ! 国の総力を挙げて国賊涼介と公爵を潰すぞ!」
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