冬の下

俺も運転する親友も焦っていた。

ならべく近道をしても、この日は連休初日。

車がいつもより多く、道は混雑していた。


《 今どの辺?車多いでしょ。》


「…狙ったな。」


《 来られたら困るもん。》


「よくやるよ…お前が警察を選んだのは復讐の為だな?」


《 そ。警察関係なの知ってて、使わない手はないわ。》


その為に警察学校に入ったのか。

俺は思わず窓を殴った。


《 荒れてる荒れてる。》


「ふざけてる場合かよ…!」


《 殺した理由、なんだと思う?》


「…分かるわけねぇだろ。」


《 子供の理由だよ。》


ー偉い人の子供って、何処まで許されるのかな?ー


《 そんな理由で私の家族殺されたのよ。そんな理由で幼馴染に罪を擦り付けた。そんな理由で親は子供を守る為に事実を揉み消した…そんな奴が今の警視総監?やってらんないっ!!》


「……」


《 あのタヌキ!名前が同じだからって私事勝手に調べやがって!!呼ばれたから行ってみたら息子はどうだ、出世街道間違いなしだぞ、ですって!!監視する気満々じゃない!!何よ!誰が犯罪者と結婚するもんか!!気持ち悪いったらありゃしない!!》


あの時だ。俺は酷く後悔した。

もしあそこで話をちゃんと聞けば、アイツの側に居てやれば、何かが変わったかもしれない。


《 罪をちゃんと認めて、世間に公表すれば、私はそれで良かった。なのに、そんな事言うから!!幼馴染が、あの家族が身をもって知らしめる為に!!知らない、どうでもいい、そればっか!!!》


「他殺じゃないのか?!」


《 違うわよっ!!あの晩、連絡がきたの。鍵も渡されてた。行ったらあの様よ…だから、他殺に見せるためにやったの。捜査が長引くようにしたの!!あの事件と関連付ける為にやったの!!》


「そんな…」


《 そうすればアイツらが何かしてくるんじゃないかと思ってね。けど、介入して来なかった。アイツら、証拠が見つからないと思って安心してるのね。本当、馬鹿よ。私の執念舐めんじゃないわよ。》


「………」


《 アイツらの罪は消えない。消えさせない。一生、人生全うするまで生き地獄よ。それが私の復讐。》


「そこにお前が必要なのかよ…そこにお前はいらないだろ…!」


お前の未来に俺はいないのか。

俺の未来にお前はいてくれないのか。


《 ……私、》


「?」


《 貴方の煙草吸ってる姿が好きだった…》


「えっ…?」


「っ!!おい、あれっ!!」


耳元で、パチパチと燃える音が聞こえた。


ーーーーーーー……


《 ー……次のニュースです。警視総監……》


《 事件の隠蔽をした件に対し、警察側は…》


《 酷い話ですよ!国民を守るのが警察の仕事じゃないんですか!》


《 目撃証言をお金でねじ曲げる…警察が1番やっちゃいけないことですよね?》


《 当時犯人と言われた方はお亡くなりになられたんですよね…なんて可哀想に…》


《一軒家の火災の原因は煙草の不始末とみられ…》


《 真実を掴んだ刑事さんは退職させられたとか…》


《 しかしまぁ、そのコピーやらを持っていたのは幸運だったのかもしれないですねぇ。》


《 辞めさせてもなお、圧をかけ続けるって言うのはね、非道ですよ!全く!》


《 …警察側は、このような悲劇を繰り返さない為にも、内部調査を徹底し、再発防止に務める、という事です。》


ー私、貴方の煙草吸ってる姿が好きだったー


「…お前が居ねぇと、吸えねぇだろ。」


煙草はまるで、呪いだ。


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煙草、呪い 二階堂由美 @ykhm-0530

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