冬の上
雪がチラつく季節だった。
「んー…ここまで何も無いのはなぁ…」
迷宮入りかなーと、親友が背伸びしながらそう言った。周りも半ば諦め状態。
生き残ったという姉の連絡先も、親族を訪ね回っても誰一人知らなかった。
あの事件とは無縁なのだろうか。俺は思わず溜息がでた。
「大変です!!」
すると慌ただしく入って来た若い男が、息を荒くこう言った。
「警視総監に、こんな手紙が届いたそうです!!」
「見せてみろ。」
その手紙のコピーだと思われる物を引ったくり内容を見た。そこにはただ一言。
ー罪は消えないー
「罪は消えない?」
「どういう意味だ…?」
警察という立場は恨みを買われやすい。
悪戯電話も脅迫文も、それを本物だと思って出動するのはよくある話。
「悪戯?」
「今回もその可能性…おい、アイツは?」
周りを見渡しても、アイツがいない。
見たやついるかと問えば、皆首を横に振った。
「あれー?今日休み?」
「いや、出勤だったはずだ。」
「じゃあ体調でも崩したのかな?連絡してみる?」
「そうだな…」
そう言った途端ポケットが震えた。
取り出したら、話題になっていたアイツからだった。
「お前今どこに、」
《 ねぇ知ってる?苗字って裁判所から許可がおりれば変えられるんだよ!》
「は?」
《 つまりは他人として生きられるってわけだ。》
嫌な線が繋がった気がした。
俺は親友を引っ張り飛び出した。
「ちょ、なになに急に?!」
「車出せ!早くっ!」
「って言われても何処に行くのさ?」
「……お前、今何処にいる?」
《 事故物件だった家を買い戻したんだ。》
一家殺人事件があった一軒家が、事故物件として出されていたのは調べてあった。
当時の話も、その家を扱う不動産屋に聞いていた。しかし、まだその時は買い手がついてなかったはず。何時買い戻したんだ。
親友に事情とその場所を伝えれば、法定速度ギリギリで車を走らせた。
「その家買い戻して何する気だ?」
《 ちゃんと分からせるためだよ。》
「…罪は消えないってか?」
《 おや?知ってたの。》
「お前…!俺らの1番偉い上司だぞ。そりゃ騒ぎになる。お前もわかってんだろ。」
《 そうだね。今頃ビビってんのかな?》
「知るか。知りてぇなら何処にも行かずそこで待ってろ。」
《 んー…それはちょっと無理かな。》
「ざっけんな!いいから待ってろ!」
今までこんな緊張したことはない。
何でこんな時までいつも通りなんだよ。
何でこんなに嫌な予感がするんだよ。
《 私ずっと、復讐したかった。》
「……警視総監にか?」
《 と、その馬鹿息子。》
「…何があった。」
《 簡単に言えば、中学の頃にあった一家殺人事件犯人、私の家族殺したのは警視総監の馬鹿息子。》
「ーーッ!」
《 刑務所から出てきた幼馴染の彼とソイツは友達だった。私も何度か会ったことがあった。当時は次期警視総監と言われていたの。》
「……何故殺された。理由は?」
《 せっかち!皆で学校終わりに私の家に集まろうって約束して、でも私その日学校に忘れ物したから取りに帰ったの。それを家にいた母と弟に言ったわ。そしたら父も今日は早く帰ってくるって。夜は皆でご飯食べましょうって…言ってたのに……》
声が、震えてるようだった。
《 …家に帰ったら家の周りに人がいた。警察が居た…抵抗されながら連れて行かれた幼馴染を見た。警察に聞かれた。この家の子かと。はい、と言ったわ。そしたら、御家族と居合わせたお友達が殺されましたって…!》
「……」
《 私の家族は皆居なくなった。あの馬鹿息子は刺されたものの命に別状無し。幼馴染は凶器についた指紋と、近所の通報してきた人が凶器を持っているのを見たとの証言もあり逮捕…何でって思った…でもね、全部その馬鹿息子のでっち上げ。》
「でっち上げ…目撃者を買収したとでも?」
早く、早く着かなければ。
話を伸ばせ。こんな胸糞悪い物を何時までも持っていられない。
アイツはそう!といつもと変わらぬテンションで言った。
《 その人はね、良くも悪くも近所で有名なおばさん。その日家の前を通りかかったそのおばさんは悲鳴を聞いたんだって。何かと思って家を訪ねた。けど、インターフォン鳴らしても出ないし、庭の方からリビングを覗いて見たら、凶器を持って幼馴染を刺そうとした馬鹿息子と、それを止めてる幼馴染を見たんだって。》
ー目が合ってね、私殺されるんじゃないかと思ったの!そしたらね、その人が私のところに来て鞄から束になったお金を渡したの。僕はあの男に殺されそうになった、そうだよね?って!もう、警察のお偉いさんの息子だって、話したらわかるだろ?って…ー
《 幼馴染と面会したときあのおばさんがいたって言ってたから、苗字を変えてから会いに行ったの。見習いの占い師です、貴方のことを占ってもいいですか?って。隠し事がありますね?って言ったらベラベラ喋ってくれたの。》
馬鹿よねー、電話越しに聞こえる笑い声。
アイツが、アイツじゃないみたいだった。
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