昭成裔5  拓跋儀 終

拓跋燾たくばつとうが産後のいちばん危うい時期を抜けると、拓跋珪たくばつけいは大いに喜び、夜中に拓跋儀たくばつぎ呼び寄せた。


「なぁ、この泣き声を聞いてくれ! やっべえだろう?」

「臣はこれまで誠心誠意陛下に仕えてまいり、そのご明察に常々恐れを取り除いていただけました。いきなり呼ばれて何事かと思いましたが、確かに、なんだテメェとは思いましたけれど、怖くはないです」


拓跋珪は拓跋燾の誕生を大いに宣言、それを祝うため、拓跋儀は歌い、踊った。それから二人で向かい合って飲み、歓談する。やがて群臣が招き入れられると、拓跋儀には御馬、御帶、縑錦などが下賜された


これより以前のこと、上谷じょうこく人の侯岌こうきゅう張兗ちょうだだい郡人の許謙きょけんらがときに名を馳せていた。彼らの学問は今古に及んでいた。はじめて彼らが平城に到着したとき、拓跋儀が人士をよく歓待すると聞いていたので、,はじめに拓跋儀と面会をした。拓跋儀も彼らに礼儀正しく応接、そして昨今の様々なテーマについて語り合う。このとき拓跋儀は指で山河を描き、城や村の位置を示し各地の戦略的な要請などをつぶさに語ってみせる。許謙らは感嘆し、互いに見合いながら、言う。

「拓跋儀様の軍略、そうは世にお目にかかれぬほどの大才でいらっしゃる。このお方に付き従うべきであろうな」


拓跋珪は拓跋儀の才能を高く評価し、その待遇も極めて重んじられ、しばしば拓跋珪の私邸に、家族であるかのように招かれた。しかしそういった寵遇から驕り高ぶるようになり、ついには穆崇ぼくすうとともに謀反を計画、兵士を伏して拓跋珪の命を狙おうとした。拓跋珪はこの計画を察知、すぐに人をやって拓跋儀を捕えさせ、殺した。その葬礼は庶人のものにしたがった。




世祖之初育也,太祖喜,夜召儀入。太祖曰:「卿聞夜喚,乃不怪懼乎?」儀曰:「臣推誠以事陛下,陛下明察,臣輒自安。忽奉夜詔,怪有之,懼實無也。」太祖告以世祖生,儀起拜而歌舞,遂對飲申旦。召羣臣入,賜儀御馬、御帶、縑錦等。

先是,上谷侯岌、張兗,代郡許謙等有名于時,學博今古,初來入國,聞儀待士,先就儀。儀並禮之,共談當世之務,指畫山河,分別城邑,成敗要害,造次備舉。謙等歎服,相謂曰:「平原公有大才不世之略,吾等當附其尾。」

太祖以儀器望,待之尤重,數幸其第,如家人禮。儀矜功恃寵,遂與宜都公穆崇謀為亂,伏武士伺太祖,欲為逆。太祖使人追執之,遂賜死,葬以庶人禮。


(魏書15-5)




https://kakuyomu.jp/works/16816927860605786408/episodes/16817139556989319681

この辺の流れを見てると、「驕り高ぶる」って表現はアレですね、「拓跋珪の視点に則って」語られているのが感じられます。もろもろの史料がない中、魏収ぎしゅうさんとしては拓跋珪をある意味で神扱いしないとどうしようもなかったんだろうなあ。全部崔浩さいこうが悪い。(突然の流れ弾)


いや、拓跋儀これ、拓跋燾誕生のシーンでたぶんめっちゃ皮肉ってそうよね、拓跋珪のこと。鮮卑語ではもっとあけすけな言葉だったんでしょうね。

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