第6話 仲間

ニヤは気がついた。

ふわふわとカールした赤毛を二つにまとめたかわいい少女が心配そうに覗き込んでいた。真っ黒く、スカートがふんわりとしてリボンのついたゴスロリ服を着こなし、肩に小さなムクドリを乗せている。


「よかった、気がついた?」


と聞かれ、びっくりしているニヤを見て


「あ、ごめん。私はエマ。ハクナ様に言われてあなたの看病してたのよ。」


「エマ、ありがとう。僕はニヤ・ク・・・」


「ニヤ、名字は王族しか持ってないのよ。ここではただのニヤでいた方がいいわ。」


「わかった、ありがとう。」


「翼のこと、驚いたでしょうね。」


「うん、ちょっと…」


エマと話していると、ニヤの寝ている部屋にミオとリオが走って入ってきた。


「あ、ニヤ気がついた!」


「やったねー!」

「ニヤ、羽根生えたねー。」


「ハクナ様が言った通りだー。」


「あ、ニヤ、ハクナ様が呼んでるよ。」


「ハクナ様は大楠の間にいるよ。」


双子がよく喋るので、ニヤはちょっとホッとした。


「みんなで一緒に行きましょ。」


とエマが連れて行ってくれることになった。


翼は、今はそれほど大きくはないが、伸びをしたら膨らんで大きくなった。

翼のことは、今は考えないことにした。ハクナが何か知っているかもしれない。


先に立って歩いているエマとミオとリオを見てふと思った。赤毛と金髪、ニヤは今までこんな色の髪の毛の子に会ったことが無かった。


あんなに目立っていた自分の髪の毛が少し気にならなくなって、安心だった。


天井の高い階段と廊下を通り、前にニヤが倒れた大楠の穴がある部屋に着いた。

部屋に入ると、ハクナがニヤの肩くらいの高さでフワフワ浮いていた。


「ニヤ、目が覚めたか。よかった。」


「はい、ハクナ様。」


「ニヤ、翼のこと驚いたじゃろう。エデンには何世紀かに一度翼を持つ鳥人類が生まれるのじゃよ。皆はそれを『運命の子』と呼ぶんじゃ。ただ、運命の子が2人というのは、わしの前世にも例のない事態でな・・・」


ハクナがそこまで話すと、トントンと大楠の間の大きな扉をノックする音が聞こえた。


「入りなさい。」


ハクナが返事をすると、ガチャリと音がして、あの夢に出てきたのと同じ、白銀色の髪の毛に金色の目をした、背中に白い翼が生えた少女が入ってきた。


「ハクナ様、お呼びですか。」


「おお、モナよく来た。ニヤが目覚めたぞ。」


「黒き翼、ですか。」


モナと呼ばれた少女は、ニヤの方をちらりと見て言った。

モナは天使のようなその見た目とは裏腹に冷たい目をしていた。

ニヤがジッと見ていると、モナはそっぽを向いた。


「モナは前世の記憶があるのじゃ。辛いこともあったじゃろうな。」


とハクナが誰に言うでもなく言った。


「あとはユキじゃな。ユキ、そこにいるんじゃろう?」


ハクナが大楠に向かって呼びかけると、急に薄紫色の髪の毛の青年が現れた。

ニヤより少し年上のようで、真っ黒の細身のスーツを着ていた。


「はいハクナ様、ここに居ります。」


「ユキ、穴はどうじゃった?」


「はい、やはりそろそろかと思われます。」


「そうか。みんな、大楠の穴を見てくれぬか。」


とハクナが言うので、皆大楠の前に集まった。

すると、大楠に開いた穴が淡く光を放ち始めていた。


「皆、時が満ちた。穴にありったけの属性魔法を打ち込んでくれぬか。」


とハクナが大楠に向かって魔法を撃つように言った。


「じゃあ、まずオイラからー!」


「あ、ズルい、オイラもー!」



ドドーーーーーーーン!!



双子がほぼ同時に雷属性魔法を大楠に撃つ。

何も起きない。


「では、私も…。」とユキが毒素の塊魔法を撃つ。



ドローーーーーーー!!



だが、何も起きない。

「次は私ね。」とエマが炎の魔法を撃つ。



ドカーーーーーーーン!!



すごい音はするが、何も起きない。

煙は立つが、火はついていない。


その様子を見て、モナがスッとエマの横に並び無言で片手を前に出し、



ピカーーーーーーーー!!!



美しく輝く聖属性魔法を繰り出した。

それでも、何も起きない。


「ニヤも撃ってみるのじゃ。」


ニヤは5歳のあの日以来暗黒魔法は出したことがなかった。

どうやって出したらいいのかも分からない。

とりあえず、回復魔法を出すように、そっと気を込めてみた。


ヴァン・・・


何かが出た。


「ニヤ、その調子じゃ!」


ハクナにそう言われて、ニヤは思い切り気を込めてエネルギーを放出してみた。



ドーーーーーーーーーーーーーン!!!!



撃ったニヤがびっくりするくらいのすごい魔法が炸裂した。



すると大楠の穴の部分が淡く光り出した。


「モナ、ニヤと一緒に撃つのじゃ!!」


「嫌です。」


「モナ、エデンを真の姿に戻すのじゃ!」


「・・・」


「モナ!!」


モナは頑なに嫌がっている。


「あの、モナ・・・さん、一緒に撃って頂けないでしょうか?」


思わずニヤは言った。


王子として何不自由なく育ってきて、人にお願いをすることなどほとんど無かったニヤが一生懸命に頼んだのだ。


モナにもそれが伝わったのか、何か言いたそうにしたが、口をつぐんだ


「では、せーの!」



ドーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!




「いいぞ、ついに大楠が・・・!」




ゴゴゴゴゴゴ・・・




「わー、揺れるー!」


「オイラ怖いよー!」



凄まじい音と振動だった。

大きな地震のように地面が揺れて立っていられなかった。


地面と大楠が同時に揺れていた。

今や大楠全体が眩いばかりに光っていた。




ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・




揺れていた大楠は、宮殿ごと大地から解き放たれた。

そして、残ったエネルギーを穴に溜めたまま、だんだんと浮かび始めた。



「宮殿が浮く!?」




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・




宮殿は大楠ごと空に浮かび、宮殿のあったところは大きな穴となった。


エデンの民たちはそれをみて、『エデンの天空宮殿が運命の子によって開放される。』という伝説が本当になった、と大騒ぎした。


これはエデンの歴史に残る大きな出来事となった。










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天使と悪魔 水無瀬神楽 @minase_kagura

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