第8話 凱旋 謎の男
ゴゴゴ…と音をたてながら、地上にいる仲間の元に戻るエッジと神威。
着陸し、飛空艇から降りると…
仲間達から激励された。
「エッジやったな!魔物倒すなんて大したもんだぜ‼︎」と最初に絡んできたデオン。エッジの肩を腕で組んで大げさに褒めた。
「えへへへ…」恥ずかしそうに頭をかくエッジ。
「ほんとあんたは何人分の体力と運動神経持ってんだよー」とナナエ。
「エッジはおつむは弱いが、戦闘能力は群を抜いて高いからな!」とオーディオが茶化す。
「おつむが弱いってなんだよー‼︎」
みんなは笑い合った。そして…
「エッジ…良かった…無事だったんだね。」
フレアが優しく話しかけ、エッジは振り向く。
「フレアー!」
空チームとの合流。エッジは嬉しくなって仲良しのフレアに飛びつく。
「もうあんたはいつも心配ばかりかけて!でも、無事で良かったわ…。」
怒り口調で話しかけるメリル。その目には少し涙が滲んでいた。
「ごめん…でも、メリルやフレア達の仇は取ったから‼︎」
「仇ってお前…別に俺たち死んだ訳じゃねえのに…」
「だから"おつむが弱い"って言われるんじゃないのー?」
「もうひどいやー‼︎」
ファイとティナにいじられて再び笑いを起こす訓練生達。
「うわーん。みんな怪我してなくて良かったよー。」とリリーナは泣きじゃくり…
「だから言っただろ。僕達は大丈夫だって!」トマが優しく励ます。
その訓練生達の様子を神威は遠目で見守る。
それと同時にエッジが言ってたコクールン兵と魔物の出現の因果に考え、悩みつつあった。
(コクールン兵と魔物は何故…あいつらは何が目的なんだ…。)
辺りはすっかり夜になっていたが、聖者の森からローデル教会まで戦車や飛空艇で帰還する。
市民からは「任務を終え、無事帰ってきたんだ」と戦車からは誰かが顔を出したり、飛空挺からは上空を緩やかに旋回しながらアピールした。
それを見るとアーデル市街の人々は安心し、花びらを舞わせたり、ラッパを鳴らしたりして歓迎してくれた。勿論エッジは戦車から顔を出して街中の人々に笑顔で手を振っていた。
ローデル教会に着くと、保母のアリサ先生が笑顔で迎えてくれた。
「みんな〜おかえりなさい。大変だったわね。」
訓練生達のアイドル、アリサ先生は愛も変わらず癒しを与えてくれる。
「アリサ先生ー俺もうはらペコペコだよぅ」大食いのグルドはお腹空かせたように訴えた。
「おいおい!戦前にじゃがバターとチキンさんじん食ってたじゃねえか‼︎」とファイは変わらずツッコミを入れる。
「はいはい。みんな疲れたわね。今日はとっておきの夕食だから、お風呂入ってきたら頂きましょうね〜」とアリサ先生はおっとりと諭す。
「はーい‼︎」と訓練生みんなが返事を返した。
浴場で汗と疲労を流しながらエッジは考えていた。
(あのコクールン兵は何を言いたかったんだろう…。でもなんかどこかで聞いたことあるような…懐かしいような…)
記憶のないエッジ。親も兄弟もいたか定かではないのに何故かコクールン兵の独特の言葉に何かを感じ取っていた。
「…エッジ…エッジ‼︎」
「っは‼︎フレア⁉︎どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!ぼんやりしてて…のぼせたらどうするのさ!折角の英雄が台無しだよ。」
「ごめんごめん…ちょっと考え事してて…」
エッジは苦笑いしながら濡れた髪をかいた。
「へーおつむが弱いエッジが考え事かよ〜。ありえねぇって!」
「おつむが弱いって言うなー‼︎」
不良少年デオンにからかわれ、お湯をバシャバシャ掛け合った。
「ちょっと!ここはプールじゃないんだからね!」とトマが注意をする。
その光景をフレアはやさしく微笑みながら見守っていた。
お風呂から上がり、さっぱりした後、食堂へ向かうと…
牛肉を焼いた香ばしい匂いにじゃがいもを蒸した匂い…これはみんなの大好きなステーキにポテトサラダ、そして焼きたてのパンも付いていた。
「わーいやったー!ステーキなんてそんなに食べる機会ないもんね!」エッジは大いに喜んだ。
戦争が続いて食糧にも限度が生じてきているこのご時世、肉類はご褒美の時や特別な日に食べる物になりつつある。
「沢山仕入れといたからたーんと食べな!」ガタイの良い食堂のおばちゃんは威勢よく言った。
「やったー!おばちゃんでかした!」とファイ。
「よだれが止まんないよー」とグルド。
「それじゃあ皆さん、神様にお祈りをしてからいただきましょう!」
アリサ先生の言葉にみんなは手を組み、祈りを捧げる…。
マスティカルの風習で、食事をする前に神に祈りを捧げるのがある。それは、マスティカル神話で、暴飲暴食をしていた神アファイスが、使いである龍に食事を与えなかった事で怒りをかってしまい、呪いをかけられ、食することが出来なくなった。飢えていくアファイスを見た大聖女アーネスが龍に謝り続けた事で、呪いを解いてもらい、アファイスも作物や食物を大事にしようとしたという習わしから、食事の前は祈るという風習がついた。
「我らに恵みを」
食事の挨拶をし、みんなは各々ご馳走を堪能していた。
「うんめぇ!やっぱ肉は最高だな!」
「そうだね!エッジが手柄を立てたおかげじゃない?」
「え?そうかな?えへへへ…」
食事が全体的に終わったところで、アリサ先生特製のパンケーキが出てきた。
「うわー美味しそう」とリリーナ。
「アリサ先生のパンケーキは格別ですよね。」とユウリ。
「今日はみんな頑張ったから私からもご褒美よ。」
みんなは「やったー」と喜んだ。
そしてエッジの所にも来て…
「うわぁぁぁ!アリサ先生のパンケーキだぁ‼︎ウヘヘ…いただきまーす…」パンケーキをほうばろうとした瞬間…
「エッジ!お前はまだ反省文50枚まだ終わってない。よってこのパンケーキは俺が貰う。」
「えっ?えぇ⁉︎」
突然の神威の行動に戸惑いを隠せないエッジ。しかし、時間を遡ってみると…
「あっそういえばエッジ今日寝坊してきて反省文50枚明日の朝までに提出しないといけなかったよね⁉︎」思い出したかのように話し始めたフレア。
「その後出陣命令が来たから慌ただしくなったけど、戦で手柄立ててもあんた朝やらかしてるのよ⁉︎」とメリルが言った。
「ええー‼︎そんなの戦があったから忘れてたよー‼︎パンケーキぃぃ‼︎教官‼︎今日俺がいなかったら誰か怪我してたかもしれないから勘弁してくださいよぅ〜」とエッジは懇願するが…
「それとこれとは別だ。いいか!明日の朝までだぞ!今どこまで行った?」
「…30枚…」
「まだまだだな。メリルやフレアに手伝ってもらうのも禁止だ。そうとなりゃお前は部屋に戻って仕上げてこい!」
「ふぁぁい…」
皆んなからの哀れみの視線を背中で感じながらトボトボ1人で自室に戻る。
(んのぁぁの鬼教官ー‼︎ムカつくー‼︎俺のパンケーキがぁぁぁ‼︎)心の中で憤怒するのだった。
ここはコクールン。科学技術が著しく、宙を走る鉄道や、エッジ達が使っていた飛空挺とは比べ物にならない程立派な飛空艇が走っていた。
その中心にそびえ立つ塔。今日戦闘で負傷したコクールン兵がその塔によろよろと登っていった。
「貴様、このコクールンの文明を持っても傷を負ったのか…」
円台に居座る謎の黒ずくめの男が言った。
「は、はい…誠に申し訳ございません。本日戦った者は年齢はそんなにいかないものの、かなりの戦闘能力があるようで、予想をはるかに超えた攻撃をしてきました。」
「まぁよい、下がれ!」
「はい‼︎」
負傷兵は言われた通り下がって暗闇の中へ消えた。
「エッジ…お前はそこにいたのか…」
黒ずくめのその男は静かに呟いた。
Lost of children’s 夢兎 @dreamroom105103
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