第18話 エピローグ(完)
かつて貧乏だと馬鹿にされていた少年は、今では町にとって居なくてはならない存在になっている。
タイキの名前は町中どころか近隣の町や村をも飛び越えて、王都にまで届いていた。
タイキはどんなに要請されても王都に行く事は無かった。そして、そんなタイキを国王も良しとした。近衛見習いの騎士達は王都からはるばるタイキの町までタイキに武術を習いに来ていた。
が、タイキは同時に三人以上に稽古をつける事をしなかったので、長い者で三ヶ月。短い者は一ヶ月だけ武術を教わって帰って行く。
そんな短期間では身につく筈もなく、王都ではタイキの武術は役に立たないと言われていた。
ある日の事である。庭の畑でミヤとタイキ、その長男と連れ合いが薬草の育ちを確認していたところ、立派な馬車が家の前に止まった。何事かとタイキが表に出ると、王都の伯爵夫人になったアメリアが孫を連れて来ていた。
「タイキ様、お元気そうで何よりですわ」
「アメリア様、私に様は止めて下さい。ただの平民ですので」
「まあ、タイキ様がただの平民なら
アメリアが笑いながらそう言うと、タイキも参ったように笑ってしまう。
「
「何をおっしゃいますか、
そんなやり取りを表でしていたら、ミヤがやって来て、
「あなた、何時までも表で立ち話はないでしょう。アメリア様に失礼ですよ」
とタイキを窘めた。
それから家に入り、中で座って話を聞くとどうやら孫をタイキに弟子入りさせたいらしい。孫はまだ七歳になったばかりだが、これから成人までの九年間で教えられる事を全て教えてやって欲しいと頭を下げた。
タイキは悩んだ。王都での自分の武術の評判は知っている。そんな中で何故アメリアは自分に頼んできたのかを。
「アメリア様、私の武術は王都では評判が悪いでしょう。何故、それをお孫さんに?」
素直にそう聞いたタイキにアメリアは笑いながら言った。
「だってタイキ様。今や王都で知らぬ名のない【覇軍】のキョウメイ様と【クデウ刀術】のサライ様から、九年間も学ぶ期間があるならタイキ様から【柔剛術】と【薬草学】をミッチリ教えて貰うのが一番だって言われましたもの」
何と二人が推薦してくれていた。更にアメリアは続けて言った。
「お二人とも未だに、我らはタイキに及んでいないと公言なされてますわよ。ただその言葉を信じて学びに来させた近衛見習いの親たちが、我が子が成長してないのを見て、ある事ない事を王都で言っておりますの。キョウメイ様やサライ様は、【柔剛術】をさわりだけでも理解するには二年は必要だと、そんな噂を流した方達におっしゃってましたわ」
何とも離れていても友とは有り難いものだとタイキは感動した。そして、アメリアの孫の顔を見た。
「名前を教えてくれるかな?」
「は、はい。師匠。
「私から武術を、そして薬草の知識を本気で学びたいかい?」
「はい、敬愛するお祖母様と父上が師匠なら間違いないとおっしゃっておりました。そして、実際にお会いして
何とも七歳にしては礼儀正しい子だと思ったが、そう言えばこの子の父親も期間は四年間と短い間だったが師弟関係になったなぁと感慨深く思い出す。
「良し、それなら今日からロードンは正式な弟子とする。稽古は単調でつまらないと思うかも知れないが、続けていけば必ず強くなれる。そう、私よりもな」
その言葉を聞いたアメリアが驚いた。
「まあ! タイキ様より強くなりますか? 我が孫が!?」
そこでタイキは言った。
「弟子を自分よりも強くさせるのが師匠なんですよ、アメリア様。自分よりも強い弟子を育てられないなら師匠になんてなれないんです。まあ、コレは私の師匠からの受け売りですがね」
そうタイキは良い笑顔で言い切ったのだった。
完結。
貧乏な俺を導いてくれたのは格好良い爺さんでした しょうわな人 @Chou03
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます