第16話 エピローグ㈠

 それからの話をしよう。


 俺とミヤは頑張って家の土地を拡張していった。時には師匠も手伝ってくれたし、また友人も手伝ってくれた。お陰で広くなった庭では野菜も種類を増やして、薬草園も始める事が出来た。

 薬草園は師匠の知識と両親が残してくれていた研究ノートが本当に役に立った。

 薬草園が形になった時にはミヤも成人を迎え、俺と名実ともに連れ合いとなっていた。

 

 町長さんの娘、アメリアちゃんはヤクマ草の薬で病が完治し、スチャンさんがお礼をしたいと言って百万ヤールを持ってきたが、丁寧にお断りをした。スチャンさんはそれでは私の気がすまないとゴネたが、俺は十分に二人で生活していけるだけのお金を稼いでいたし、そんな大金を貰っても困るからとスチャンさんを説得したのだ。そもそも、何故スチャンさんがアメリアちゃんの病気が治った事を感謝するのか聞いて見たら、何と主筋ではあるが、初孫でもあると言う。マリーさんはスチャンさんの実の娘だそうだ。普段は仕事なのでアメリアちゃんを【お嬢様】と言うが、プライベートでは【じいじ】と【リアちゃん】と呼ぶ仲の良い爺孫関係らしい。

 ソコで俺とミヤはスチャンさんに提案した。ウチの薬草園や農園で働く真面目な方を二名、そのお金で探して欲しいと。そして、ウチの近くにその二名が住む家を建てて欲しいとも伝えた。

 広くなったから、俺とミヤだけでは手が回らない。けれど五人も雇うほどは広くない。そこで、スチャンさんのお眼鏡に叶う人を探して欲しいと頼んでみたのだ。スチャンさんは快諾してくれた。


 翌日にはウチから十メートル離れた場所に大工達がやって来て家を建て始めた。アレよアレよと五日で出来た家に、スチャンさんが男女を連れてきた。

 女性はマリーさんによく似ている。男性は朴訥そうだが手を見たら長く農作業に従事してきた人だと分かる。


「タイキ様、こちらはマリー様の妹御でナーセリー様です。隣の男性はナーセリー様の連れ合いで、ゴックスと申します」


 うん、ややこしいから自分の娘とその連れ合いだと素直に言って欲しいな。俺はスチャンさんにそう言って、ゴックスさんを見て聞いてみた。


「今まで農作業をされていたと思いますが、そちらはよろしいのですか?」


「はい、坊っちゃま。実は今まで働いていた所をクビになりまして、そしたらお義父さんが坊っちゃまが募集中だから応募してみろと言ってくれたので」


「坊っちゃまは止めて下さい。俺は平民ですから、ゴックスさんと同じ立場ですから。今まで幾らぐらい月に貰っていたかお伺いしてもよろしいですか?」


「はい、タイキ様。今までは月に十八万ヤールでした」


 正直に言おう。ゴックスさん、いい様に使われてましたね。手や腕、足腰を見たらどれだけ良く働いていたか分かります。俺はゴックスさんに言った。


「ウチでは月に二十八万ヤール出します。それと、年に一回は働きぶりを見て昇給も考えてます。家はそちらに住んでいただく事になります。それでよろしいですか? ナーセリーさんも?」


「は、はい。あの、本当に二十八万ヤールもいただけるんですか? 私達二人は働いても十八万ヤールしか貰えなかったんですけど」


「えっ! ちょ、ちょっと待って下さい。一人十八万ヤールを貰っていたんですよね? まさか、二人で十八万ヤールだったんですか?」


 ミヤが驚いて二人に聞いている。そして、二人の返事は、


「勿論、二人で十八万ヤールでしたよ」


 だった…… うん、何故に放っておいたのかな? スチャンさん。俺はスチャンさんを意味ありげに見てみた。すると、オホンとわざとらしく咳をしてスチャンさんが言った。


「スミマセン、初孫で浮かれておりました……」


 …… はい、そうですか。まあ、気がつくのが少し遅かっただけで、ちゃんと気がついたんなら良いのかな。俺はゴックスさんとナーセリーさんに契約内容をちゃんと話した。


 二人が同じ時間に同じだけ労働してくれたなら、一人、二十八万ヤールを支払う事。そして、ナーセリーさんが長時間の労働をせずに、短時間だけ働いてくれた場合はその時間で時間給を支払う事。

 妊娠して、働く事が困難になっても、支援は行う事。

 それらを説明したら、二人とも即座に是非とも働かせて下さいと言ってきたので、採用した。


 それからは基本的な事を教えながら、二人に任せられる所は任せて、薬草も野菜も順調に売上が上がっていった。

 




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