第14話 新たな薬草を求めて
お茶を飲みながら先ずは町長からの手紙を読む。そこにはアメリアちゃんが快方に向かっている事に対するお礼が書かれていて、そして俺が知らなかった生前の両親からの土地拡張申請書の写し、それに対して許可する承諾書が同封されていた。
土地は家の畑側を町の防壁の一メートル手前まで広げる申請になっていて、目的は薬草栽培になっている。そう言えば母が生前に言っていたなと思い出す。薬草を畑で栽培出来たらもう少し効能を高める事が出来そうだと。そのメモ書きも確か取っておいたはずだ。後で探しておこう。
土地を広げられるなら、防壁側の囲いを取り除いてから自分達で広げようとミヤと話し合った。ボチボチとやって行く事を決めた。
それからスチャンさんの手紙を読んでみた。ソコにはアメリアちゃんの病気を完全に治すには、今のクレイ草ではなく、ヤクマ草を元にした薬が必要らしいと書かれてあった。そして、出来れば俺にヤクマ草を採取して、乾燥、粉末にして薬師ギルドに卸して欲しいとも書かれてあった。それはスチャンさん個人のお願いで、町長夫妻には言ってないそうだ。ヤクマ草は草原ではなく森に入れば採れるのだが、今は森に縄張り争いに負けたと思われる若いオスの熊がいる。中々、ハードな状況なので俺もおいそれとハイとは返事が出来ない。
明日の朝に師匠に相談してみるよとミヤと話し合った。出来ればアメリアちゃんの為にも薬草は手に入れたいとも話をした。
それからは囲いを取り除いて、土地を広げる準備をして、ミヤの稽古を行いその日は早めに寝た。
翌朝、俺はいつも通りに師匠の元に出かけた。そして稽古を終えてから師匠にヤクマ草採取について相談をした。森には今は熊がでる事も含めて話をしたら、途端に師匠がニヤニヤと笑い出す。
あっ! イヤな予感が……
「タイキ、良い条件じゃないか。実戦が出来そうだなぁ。これは対獣の本当の実戦を行える良い機会だなぁ。なあ、タイキもそう思うだろう?」
はい、予感的中でした……
俺は素直に師匠に返事をした。
「はい、そうですね」
「そんな棒読みで返事してんなよ。ワシは本当に良い機会だと思ってるぞ」
「はい、けれども最初の実戦が熊なのはハードかなとか思いますが……」
「バカ言うなよ。怒ると立ち上がって二の腕を振り回してくる熊が最初の方が良いんだよ。早い猪や、怒れる鹿よりもよっぽど安全だ。熊の間合を正確に図れたらだけどな。良し、今回は年若い熊だろうって事たから、殺さずに痛めつけて縄張りから追い出せ。それが今日の課題だ」
「えっと…… 師匠。随分と課題が難しいようなんですけど……」
「ん? そんな事ないだろう? 熊が立ち上がったら、内膝を打てば倒れるし、倒れた熊の耳後ろや鼻面を正確に棒で叩いてから五歩下がれば、若い熊なら負けたと思って去って行くぞ」
何でも無いように師匠は言うが、俺は不安もあった。が、師匠に言われて出来ないと言うのは、普段の稽古が出来てないって言う事のような気がして、俺はハイと返事をして、森に出かけた。愛用の棒と薬草を入れる袋を手に持って。
草原を抜けて森に入った俺は周囲を警戒しながら薬草を探した。森は熊がいるからか、他の獣の気配がない。鹿や、猪、猿なんかは姿を見せなかった。栗鼠や野鼠、蛇なんかは見つけたが、俺を確認すると逃げていくので放っておく。
そろそろギルドから聞いている薬草の群生地に着くが、小川の辺りだから熊がいる可能性が高い。縄張りに入った俺を見たら攻撃してくる事は間違いないが、出来れば遭遇したくないと思っている俺。
稽古通りに出来れば撃退出来るとは思うが、熊の威圧に耐えられるだろうかとも思っていた。熊は縄張りから俺を追い出そうと必死になり、威圧してくるだろう。その威圧感は恐らく試合で対戦相手から感じた威圧とは比較にならないぐらい強いと思っている。その威圧にビビってしまうと、稽古の成果なんて出やしない。俺はそう思考しながらユックリと群生地に近づいて行った。
そしたら、居ましたよ。熊はまだコチラに気がついてないが、薬草を採取していたら当然、気がつくだろう位置に居る。俺は意を決して、わざと音を立てて歩いて行った。
さあ、稽古の成果を試す時だ。俺は今までの不安な気持ちを忘れ、少し高揚しながら熊へと近づいていった。熊も俺に気が付き一声吠える。それで咥えていた川魚が口から落ちたが、目は俺だけを見ている。俺は熊から八メートル離れた場所で止まった。
実戦が始まる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます