第13話 薬師ギルドにて

 家に帰ってからミヤに薬師ギルドで言われた事を伝えた。


「うわー、やっぱりタイキの薬草の乾燥は凄いんだね。だってそんな病も快方に向かうんだから」


 と俺を上げてくれたけど、俺は嬉しそうな顔をしながらも否定しておいた。


「いやいや、ミヤ。どんなに丁寧に乾燥させようが、俺が卸してるのは薬になる前の状態だから。俺が卸した粉末薬草を病に効く様に調合している薬師さんが凄いんだよ」


 俺がそう言うと、ミヤは更に言う。


「えー、でもどんなに凄い薬師さんでも、元が悪かったら良い薬になんかならないでしょ? だから、タイキはやっぱり凄いんだよ」


 ソコまで褒めてくれるから俺は素直に有難うとミヤに言った。その時、家の外から声が聞こえた。


「御免ください。こちら薬草を卸しておられるタイキさんのお宅で間違いないでしょうか?」


 俺は嫌な予感がしながらも外に出た。そしてビックリしてしまった。家の真ん前に馬車が止まっていたからだ。そして、俺の目の前にはこれぞ執事だという佇まいの人がいた。

 驚いて固まっている俺にその人が声をかけてきた。


「タイキさんでお間違いないでしょうか?」


 問いかけに思わず素直に頷いてしまった俺。あっと思った時には遅かった。


「良かった。私はカナードで町長をしておりますクレッグス家の執事でスチャンと申します。以後、お見知りおきを」


 ホッとしたように話すスチャンさん。俺は驚きからまださめずに呟いてしまった。


「何で? 薬師ギルドは教えないって……」


「はい、左様でございます。薬師ギルドでは教えていただけなかったので、私の部下に調べさせたところ、タイキ様の卸された粉末薬草が、お嬢様の病気に良く効いたと確認が取れましたので、お忙しいとは思ったのですが、こうしてお伺いさせていただきました」


 俺の呟きを拾ったスチャンさんがそう説明をしてくれたが、俺の耳にはあまり入ってこなかった。そんな俺の後ろからミヤが顔を出した。


「あの、それでタイキに何の用でしょうか?」


 それだ! 俺が驚いて聞きそびれていた事をミヤが聞いてくれた。ミヤの問いかけにスチャンさんは馬車に行き、扉を開いた。そして、小さな女の子を抱いた女性をエスコートしている。

 そのまま馬車を降りた女性が俺とミヤの前に来た。そして、女の子を抱いたまま頭を下げた。


「私はクレッグスの妻でマリーと申します。この子はあなた方のおかげで元気になった、娘のアメリアです。この度は娘の命を救って下さり、心より感謝いたします」


 いや待って下さい。と俺は慌てて言葉を絞り出した。


「あの、お嬢さんの病気が治ったのは薬師ギルドの優秀な薬師さんのおかげです。俺は薬の元になる乾燥し、粉末にした薬草を薬師ギルドに卸しているだけですから」


 俺はそう言ってマリーさんの誤解を解こうとしたが、マリーさんは首を横に振って言葉を続けた。


「確かに、タイキさんが仰る通り薬を作った薬師さんのおかげでもあるでしょう。けれどもお礼を伝えに行くとその薬師さん自身から言われた言葉があります。自分達が良い薬を調合出来るのは、素材が良いからだ、とその薬師さんは仰いましてここ数年で非常に良い粉末薬草を卸して貰えてるからこそ、娘の病に効く薬が出来たとも教えていただきました。ですので、タイキさんが娘を救って下さったというのは間違いじゃないんです」


 そうマリーさんが言った後にマリーさんに抱かれたアメリアちゃんが、俺とミヤに向かって


「おニータン、おネータン、アリガトー。あのね、アメね、歩けるの。ネンネしたままだったけどね、歩けるの!」


 と可愛らしく教えてくれた。それには俺もミヤもヤラれてしまった。思わずアメリアちゃんの頭を撫でて、


「そうかぁ、歩けるか。良かったね。もっともっと元気になれるようにお兄ちゃんもお姉ちゃんも、一所懸命に良い薬草を見つけるからね」


 そう言っていた。ミヤもニコニコしてアメリアちゃんを撫でていた。そんな俺達にマリーさんが言葉を続けた。


「主人が来てしまうと大袈裟になり、お二人にご迷惑をかける事になると思いまして、コチラに主人からの手紙を預ってきております。主人も本当はお二人にお会いして直接お礼を述べたかったそうなんですけど、遠慮してもらいました」


 そう言ってクスッとマリーさんは笑った。それから、言葉を続ける。


「今回は、お礼としてタイキさんのご両親が生前に、前町長に申し込んでおられました土地の拡張申請を、条件無しで受理しています。本来なら拡張した分だけ一平米につき幾らかの税金を支払って頂く決まりなのですが、その税金は私共夫婦で負担致します。ですので、安心して拡張して下さいね。それと、コレは断られると私達夫婦が無駄にお金を支払った事になり、書類作成などがかなりややこしくなり、役人達から恨まれますので、どうかそのまま素直に受けて下さいね」


 とニッコリ笑ったマリーさん。だが、その笑ってない目からの圧が尋常じゃ無かったので、俺とミヤは素直に有難うございますと言った。ソレを聞いたマリーさんが、今度は目も含めてニッコリ笑い、


「詳細は主人からの手紙に記載されていますから、読んで確認して下さいね。ソレでは、お忙しいなか、お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。失礼致します」


 そう言って馬車に戻っていった。そして、最後にスチャンさんが俺達に頭を下げながら、もう一通、手紙を渡して早口で俺に、


「申し訳ございません、図々しいとは思いますが、私からの頼みがあります。コチラに書いておりますので、読んでご検討いただけますか? お返事は明日の午後にでもお伺いさせて頂きますので、その時によろしくお願い致します」


 そう言って馬車の馭者席に足早に向かい、馬車を動かして帰って行った。


 俺とミヤは家に入り、取り敢えずスチャンさんと町長からの手紙を読みながらお茶でも飲もうかと言って、お茶の準備を始めた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る