第12話 試合を終えて

 翌日である。皆は昼まで仮眠をとり、昼食を食べてからそれぞれが帰った。

 因みに今朝の稽古は俺、キョウメイ、サライがそれぞれの武術の型を見せ合い、互いに相違点を話し合った。非常に充実した時間を過ごせた。

 昨夜はミヤの稽古にリンさんやキョウカさんが加わったりして、それを師匠が見たりしてと楽しく話をしながらも稽古だけは休まずにちゃんとやった。


 そして、皆が帰りミヤが畑仕事に行ったタイミングで師匠から質問があった。


「それでタイキよ。どうだった? 試合を経験してみて」


「はい、師匠。メリット、デメリットの両方に気が付きました」


 俺の返事に師匠は嬉しそうな顔で言葉を続けた。


「ほうっ! メリット、デメリットの両方か。それなら、先ずはメリットから教えてくれるか?」


「はい。メリットは自分の間合が図れた事です。実際に師匠との稽古でも自分の間合は分かっていたつもりですが、実戦さながらの試合だと少し稽古の時とは間合が違いました。ソレを知る事が出来ました」


「うんうん、それでデメリットは何だ?」


「デメリットは良くも悪くもお互いに本気の打ち込みが出来てない事と、審判がいて始めの合図で始まる事です」


「互いに手加減するは良いとして、何故審判がいて合図で始まるのがデメリットになるんだ?」


 師匠は聞きながらも嬉しそうな顔をしている。俺は思った事を素直に言ってみた。


「実際にはコチラが準備万端な状態で始まるなんて事は無いからです。不意打ち、体調不良、常に相手に対して正面を向いていたりなんてまれだと思います。そういう心構えは試合ではつちかえません。試合に慣れてしまうとソコが怖いです」


 俺の返事に師匠は笑って言った。


「ハッハッハッ、良く分かってるじゃないか。タイキよ、ソレを忘れてはダメだ。今、お前が言った通りで、実践の感覚や間合を図るのには試合は良いが、実際にはお互いに構えて【始め】で始まる戦いは少ない。獣相手なら特にな。だから、自身の今の動きや間合を知る為に試合を利用するのは良い。だが、試合を実戦だと認識しないように心して置けば良い。しかし、ソコに気がつくとは大したモノだよ」


「師匠が良いですからね」


 俺が珍しく軽口を叩くと、師匠にポカリと叩かれた。笑いながら。


「師匠が良いのは当たり前だ!」


 俺と師匠は笑いながらユックリとお茶を飲んでいた。




 師匠が暫くして帰った後に、畑仕事を終えたミヤが家に戻ってきたので、俺はミヤに休んで貰い薬師ギルドに納品に行った。そしたらいつも受付をしてくれてるサドールさんが真剣な顔で言ってきた。


「タイキくん、いつも有難う。それで何だけど、領主様の三男で、このカーナンドの町長をしているクレッグスさんがこの薬を卸しているのは誰だって聞いてきてるんだけど、タイキくんの名前を教えても大丈夫かな?」


「ええっ! いやいや、町長さんなんかに教えないで下さいよ。それにしても何で卸してる人間の事なんて知りたがってるんですか? あっ、まさか不良品が出ましたか!?」


 俺が不安になってそう聞いたらサドールさんが苦笑いしながら否定した。


「違う、違う。逆だよ、タイキくん」


「逆? 逆って……」


「実は町長さんの二人いる娘さんの一人が、生まれつきの病に侵されていてね。まだ、三歳なんだけど半年前からウチの薬に変えたんだけど、娘さんが快方に向かってるそうなんだ。ベッドから起き上がる事も出来ない状態だったそうだけど、今ではベッドから降りて歩いて、食事も普通にとれるまで回復されたらしい。そこで、町長さんが薬を卸している人に礼を言いたいからって、コチラに問い合わせて来たんだよ。だけど、守秘義務があるから本人に確認してからって、返事を保留したんだ」


 俺は説明を聞いてホッとした。卸す際には全て確認しているが、万が一という事もあるかもと思ってしまったので。逆に良くなった方で良かったよ。


「出来れば、俺だと言う事は教えないでいただけると有り難いですけど」


 俺はサドールさんにそう言った。


「うん、タイキくんならそう言うと思ったよ。けど、タイキくんが誤解してるといけないから言っておくね。今のクレッグスさんは町長になってまだ五年しか経ってないんだ。あの流行り病の後に、町を立て直そうと町長に名乗りを上げて、頑張ってくれてる人だからね。あの時に逃げ出した町長とは別人だからね」


 サドールさんは俺にそう教えてくれた。が、俺は出来ればそんな上の立場の人と関わりたくないので、やっぱり教えないで欲しいとお願いして、薬師ギルドを出て家に帰った。


 コレで関わらなくて済むと思った俺の考えが甘かったと知るのは、家に帰って直ぐだったが……




 


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