第11話 刀対棒

 俺とサライは向かい合い、互いに礼をする。その距離は五メートル。互いに間合ではない。そして二人とも静かに審判の合図を待つ。


 審判が始めと言った瞬間に俺は前に飛び込み棒を振り下ろした。が、サライの木刀に柔らかく受け止められ流される。しかし、正中線を保った俺は流された棒を途中で止めて、そのままサライの顔を目掛けて先端を上げる。

 しかしそれも難なく躱されてしまう。躱された先端をクルリと回して反対の先端で中段を突くが、木刀で逸らされ、刀の間合に入られてしまう。

 そして、俺の小手を狙って鋭く、小さく振られる木刀を、俺は持ち手の幅を広げる事で塞いでみせた。

 ここまでの攻防が凡そ五秒の間に起こったので、見ている観客達からは何が起こったか正確に把握出来た者は少ないだろう。

 只、木刀が棒を、棒が木刀を受けるカンカンという音が響いていたので、互いに攻防があった事は分かった様だ。


 ザワザワとざわめく観客達。だが、俺達二人はそれを気にする余裕は無かった。互いに相手のすきを探り、牽制をして、次に打つ手を考えながらジリジリと含み足で間合を少しずつ詰めて行く。


 俺は棒を逆手に持ち、先端を下にしている。サライは木刀を正眼に構えている。そうして互いに向き合っていたらサライが言った。


「師匠から聞いていたけど、今のが柔剛術の【夫婦手めおとで】なんだね」


「そうだ。手は二つある。どちらかが攻防では無く、どちらも攻防だ」


 俺の返事にサライは答えた。


「うん、その考えはクデウ刀術の【扇手せんしゅ】と同じなんだね」


 そう、俺は先程の攻防で感じていた。一本の木刀を両手で持って攻防をしているが、サライの動きは【夫婦手めおとで】と同じだと。


 そうしてまた俺達は睨み合う。俺は下段に構えた先端をサライの股間に向けて振り上げた。

 サライはそれを待っていたかの様に右前にスルリと進んで、又も俺の小手を狙ってくる。俺は躱された棒を振り上げるのを止めずに、左手一本で持ってクルリと回して、反対の先端で木刀を叩いた。

 そう、受けたのではなく叩いて逸したのだ。思わず木刀を後ろに持って行かれそうになったサライは、そのまま飛び下がるが俺はソレを狙って棒を突き出した。が、体を捻って躱される。


 何という動きだろう。普通は長い得物を持つ俺の方が有利な筈だが、そんな余裕は俺には無かった。寧ろ押されているのは俺の方だ。ソコで俺は作戦を変えた。とにかく持てる技を全て出して、攻撃を続ける事にしたのだ。


 俺が作戦を変えたのに気がついたサライは、俺の攻撃を尽く捌きながらも、肩や腕に攻撃を入れてくる。ソレを急所ツボだけを躱しながら、あえて受けて攻撃を続ける俺。俺の攻撃もサライの腕や、腿に入ってはいるが、決め手にはなっていない。

 互いに小さなダメージを蓄積していってる状態が五分は続いていた。


 観客達は目を奪われ、そして大歓声を上げていたそうだ。後からミヤがそう教えてくれた。が、当事者の俺達は全く聞こえていなかった。


 俺も連続しての攻撃に疲れ、サライも捌ききるのに疲れた時に、互いに余分な力が抜けて最高の一撃が互いに入ってしまった。

 俺の棒はサライの左首筋に入り、サライの木刀は俺の左首筋を叩いた。


 同時だったとのちに目覚めたサライが言ったが、俺には分かっていた。サライの木刀の方が早かった事を。


 試合は両者が気絶した為に引分となり、またダメージも申告な為に両者棄権となったので、俺達の後の試合が最終戦となった。


 【タヅナ槍術】対【ソウキ薙刀】は槍術が勝ち、優勝と決まったが、後からその二人が俺達の見舞いに来て、お前達が凄すぎて盛り上がらなかったよと愚痴を言ってきた。


 そう言われてもどうする事も出来ないけどな。


 結局、俺達は時間一杯まで休ませて貰い、サライとその連れ合いであるキョウカさん、そしてキョウメイとリンさんを連れて俺とミヤが住む家に来て貰った。家に帰ると何故か師匠が勝手に風呂に入っていたが。


 それから俺達は楽しく食事をしながら話し合い、更には風呂にも入って貰って、師匠も交えて朝まで語り合ってしまった。

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