第10話 クデウ刀術のサライ

 三試合目を見ていた俺に近づいてくる人が居た。そう、対戦相手の【クデウ刀術】の選手だった。彼は俺の側まで来ると、軽く頭を下げて声をかけてきた。


「次にあなたと対戦する事になった、【クデウ刀術】のサライと言います。よろしくお願いします」


 それだけ言って黙って俺を見るサライ。えっと、コレは俺も挨拶した方が良いんだよな。


「柔剛術のタイキです。サライさんとの対戦では無手ではなく、棒を使わせて貰います」


 そう言って頭を軽く下げた俺を見ていたサライだが、堪えきれないように笑い出した。


「プッ、アーハッハッハ、まだ気が付かないかな? タイキ、もう忘れられたなんて僕は悲しいよ」


 大声でそう笑いながら言うサライだが、俺には全く覚えがない。俺の不思議そうな顔を見て、サライはハッと気がついたように言葉を続けた。


「ああ、ごめん。名前がそもそも違うから分からないよね。僕は幼い頃はダイキという名前だったよ」


 ダイキ! ダイキだって! 俺は驚愕してサライの顔を見る。しかし幼い頃の可愛らしい顔しか出てこなかった。今は精悍な顔つきをしている目の前の男があのダイキだとは思えないと、良く顔を見ていたら左耳の少し前にあるホクロに気がついた。

 ああ、アソコにホクロがあるならダイキだなと妙に納得してしまった。


「アハハハ、思い出してくれたかな? でも、ホクロで気がついたでしょ? 本当にタイキは変わらないねえ。背はだいぶ伸びたけど。僕より高くなってるとは思わなかったよ」


 俺はまだ何も言えずにサライダイキの顔を呆けて見ていた。


「おーい、タイキ。帰っておいで」


 サライダイキがそう言って俺の顔の前で手を振っている。


「お、おま、な、何で、サラ、ダイキじゃ……」


 俺がやっと絞り出した言葉を直ぐに理解したようで、サライダイキは教えてくれた。


「ああ、名前はね、今の師匠の養子になったから序に変えたんだよ。格好良いでしょ、サライって。だから、これからはタイキもサライって呼んでね。それじゃ、改めて。久しぶりだねぇ、タイキ」


「あ、ああ。本当に久しぶりだな、サ、サライ!?」


 俺が言いにくそうに名前を言うと笑いながら、早く慣れてねと言うサライ。実を言うとサライは五歳まで家の隣に住んでいた。だが、サライの両親が亡くなり遠い親戚だという男性が引取りにきて、離れ離れになった。

 話を聞くとその時にサライを引取ってくれた男性こそが、【クデウ刀術】の開祖にして総帥だそうだ。そして、サライも引取ってもらってから学び、メキメキと腕を上げて、師範代になったそうだ。養子縁組はその前にしたそうだけど。そして、俺の初めての友でもあったサライは、あの頃と変わらない笑顔で言葉を続けた。


「タイキ、まさかタイキが武術を学んでいるとは思ってなかったから、本当は大会が終わってからタイキの家に顔を出すつもりだったんだ。けれど、図らずもタイキと対戦する事になったからね。それでちゃんと名乗っておこうと思って来たんだよ」


「そうか、有難う。そうだ、サライ。ミヤを覚えてるか? 実はミヤと俺は一緒に暮らす事になったんだが」


「ええーっ! そうなのかい! おめでとう、タイキ。アレ? でもミヤちゃんは一つ下だったから、まだ成人前だよね?」


 そう言うサライに事の経緯を話して、大会が終わったらゆっくり話そうと言って別れた。

 そして、話してる間に三試合目も四試合目も終わっていた。しまった、見逃した。



 そうして、俺はサライとの試合に望む事となった。俺は棒を手に持ち試合場所に上がる。後に事実上の最終戦だと言われる試合が目前に迫っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る