第8話 教える

 初日が終わったので、観戦していたミヤの元に向かうと、師匠が居ない。ミヤに聞いたら飽きたから帰ると言って先に帰ったそうだ。しかも、俺の初戦が始まる前に。

 師匠、ソレは無いでしょうよ…… 俺はガックリ来たよ。むしろ試合よりも心が疲れてしまった。だが、ミヤが嬉しそうに俺に話しかけるから、ソレに癒やされていた。


「初戦は凄く早くて、見ててもタイキがどうやって勝ったのか分からなかったよ」


 とか、


「二試合目は最初、ボーってしてる様に見えたけど、アレも作戦だったの?」


 とか一所懸命に見た事を伝えてくれた。そして、一緒に家に帰りながら、


「タイキ、私も武術を学んでみたいなぁ…… なんてダメかな?」


 って言うからそのまま師匠の家に行って聞いて見る事にした。師匠は寝ていた。大イビキで。


 起こすのも悪いと思ったけれど、折角きたから聞くだけ聞いてみようと思い、声をかけた。


「師匠、起きて下さい。今日の試合は終わりました。少し相談があるんです」


「ん? うーん、フゥワァー。寝てしまってたか? おお、ミヤも一緒か。どうした?」 


 起きた師匠がそう聞いてくれたので、ミヤが武術を学びたいと伝えた。そしたら、師匠の返事は


「おお、それは良いな。なら今夜からタイキに習えば良い。タイキ、人に教える事によって気づいてない事に気がつく時がある。ミヤに型を教えてみたら良い」


 だった。えっ! 俺が教えるんですか? だがミヤが期待した眼差しで俺を見ている。俺はこう言うしか無かった。


「はい、師匠。ミヤに教えます」


 俺の返事にミヤがパッと笑顔になった。まあ、俺が師匠から教わった様にやって見よう。でも今夜からか…… 明日も試合があるけれど、まあ良いか。


 そして家に帰り、食事前にミヤに型を教えてみた。師匠と同じ様に先ず俺が型を見せて、覚えている限りで良いからと言ってミヤにやらせてみる。

 そしたら、何と一回見ただけで動きは覚えてしまった様で、通してやり切ったミヤ。

 俺は思わずミヤを褒めた。


「凄いな、ミヤ。一度見ただけで覚えているなんて」


「小さい頃から見て覚えるのは得意だったんだよ。でもタイキ先生みたいに、パシッって音が出ない……」


 うん、ソコまで出来たら逆に怖いからな。それはこれから続けて行けば出来る様になるから。

 俺はまたミヤに型を繰り返す様に行った。ミヤは素直に繰り返し始める。

 見ている内に気がついた箇所を、正しい動きになる様に伝える。五十回も繰り返しただろうか、ミヤの動きからだいぶ疲れているのが見て取れた。

 コレは筋肉痛になるなと思い、今日はここまでとミヤに伝えたら、もう一回だけと言う。


 最後の一回を見ている時に俺は気がつく。疲れからか余計な力を抜いた状態で型をやっていると、風切音が良く出ている事に。そう言えば師匠からも早く突こうとして余計な力が入っていると注意されていたなとも思いだした。

 今の状態で突いている感覚を、普段から出来る様になる為に、繰り返し型をやる事に気がついたから、ミヤに最後の型はかなり上手だったと伝えて、先に風呂に入ってきたらと言った。

 

「風呂で筋肉を少し揉んで解しておくんだ。明日は多分だけど筋肉痛になるだろうから、少しでも痛みをおさえる為にもゆっくり入ってきたら良い」


「でも、ご飯の準備もあるし……」


 そう言って遠慮しそうなミヤに、今日は俺が作るよと言って、風呂に入ってもらった。 

 風呂から出たミヤと一緒に食事をする。ミヤは武術を学ぶ事が楽しかった様で、いつもよりテンションが高かったが、慣れない事をしたからだろう。食べ終えたら眠たそうにしていたから、無理せずに部屋で寝ておいでと伝えた。

 ミヤも素直にごめんねと言って部屋に寝に行った。


 俺は後片付けを済ませて風呂に入り、明日の試合について考えていた。明日は【天地あめつち流】との対戦になる。柔剛術を元にゴウシが工夫した武術だ。俺の手の内は全部バレてしまっているだろうし、どうするか…… 

 考えていたが、結局は稽古した事しか出来ないんだから、胸を借りるつもりで愚直に攻めて見ようと結論づけた。

 そうしてスッキリした気持ちで俺も部屋でぐっすりと寝た。



 翌朝、ミヤは腕が痛い、太腿が痛い、腰が痛いとヨロヨロしながら起きてきたので、師匠から教えて貰った鎮痛効果のある塗り薬を渡した。

 塗って暫くすれば効いてきたのか、ミヤは畑仕事を終えたら試合を見に行くね、と言って送り出してくれた。


 よし、今日も学んで来よう。俺は試合を通じて学べる事も多くあると知ったので、そう思いながら試合会場に向けて出発した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る