第6話 武術大会

 ひと月なんてアッという間だった。俺は少し、いやかなり緊張していた。が、ミヤも応援に来てくれるし、師匠からは課題を出されている。

 俺は浮ついた気を鎮めようと思い、他の出場者がやっている様に初めて学んだ型を繰り返していた。

 そんな俺に声をかけてきたヤツが居る。


「お前がタイキか…… 何だ? ソレは型か? そんな型を学んで戦えるのか?」


 失礼な事を言うヤツだから俺は当然の様に無視をした。知らないヤツだしな。


「オイッ、何とか言ったらどうだ? 俺はお前の初戦の相手だぞっ! 俺は【豪拳】の総帥の息子でライガンだ!」


 何とカークの通う道場が初戦の相手らしい。って、もう対戦表が出ているのか。見に行こう。

 そう思って歩き出した俺の前にライガンが立ち塞がる。


「オイッ、俺からわざわざ声をかけてやったのに無視するとは良い度胸だな。ココでヤッてやろうか?」


 何て言ってくるから、俺は無視を諦めて返事をした。


「そんなに慌てなくてもあと少し待てば対戦するんだ。どうせヤるなら皆が見ている前の方が、お前の実力も示せて良いんじゃないか?」


 俺がそう言うと、鼻白んだ様にライガンは言った。


「フンッ、何だ。分かってるじゃないか。まあ、頑張って俺の見せ場を作ってくれよ」


 そう言うとライガンは俺の前から去って行った。コレで対戦表を見る事が出来る。俺は対戦表を見て、初戦以降の相手になるだろう者をチェックした。試合を見れるなら見ておきたいからだ。師匠からは見る必要は無いと言われていたが、出来れば見ておきたい。ソレに課題もあるしな。

 初戦、二回戦、三回戦までは相手が武器術の武術でも無手で試合する事を義務付けられたのだ。四回戦準決勝五回戦決勝は棒の使用許可が出ている。

 まあ、五回戦まで残れるかどうか分からないが。じょうの使用許可は出なかった。こういう大会で全てを見せるのは良くないと師匠が言っていた。技を見せると言う事は相手に研究させると言う事になる。


「まあ、タイキは若いから自分の力を知りたいだろう? ワシも若い頃はそうだったしな。けれども自分の持つ力を全て出すのは良くない。だからじょうは今回は封印だ」


 師匠の言葉が蘇った。そんな中、俺の横で対戦表を見ていたヤツがボソッと呟くのが聞こえた。


「柔剛術、まだ伝えられていたのか……」


 俺は思わずその男を見た。年は俺よりは上なのは間違いない。三十代に見えるその男は、俺の視線に気付かずに対戦表の前から去っていった。


 まあ、良い。先ずは初戦からだ。俺はかなり落ち着いた気持ちになっていた。そういう意味ではライガンに感謝しても良いなと考えながら、試合会場に向かった。


 俺の初戦は五回目にある。一試合目、二試合目が終わり、今は三試合目だ。無手同士の試合で、【柔拳道】対【豪拳】だった。【豪拳】はどうやら息子以外も試合に出ている様だ。

 試合は【柔拳道】が勝った。見事な中段突きが決まり、【豪拳】の選手は気絶していた。


 そして、四試合目が始まる。【クデウ刀術】対【かいな短棒術】の対戦だった。クデウは木刀で、かいなは全長七十センチの棒を両手に構えている。

 クデウはスルスルと滑る様に進み、間境まざかいを超える手前でピタッと止まった。しかし、かいなの選手はそれに気付かずに前に出て行ってしまう。ソコにクデウが木刀を一閃させた。

 かいなの選手の両手から棒が飛んで行く。次の瞬間には、眉間スレスレに木刀が止まっていた。審判が勝利宣言をする前にかいなの選手が大声で、

 

「参りました! 完敗です!」


 と叫んだ。コレには他の選手達からも拍手が起こった。クデウの選手は静かに木刀を下げて、かいなの選手を見たまま後ろに下がる。残心まで完璧だな。


 そして、俺の初戦が始まった。


「逃げずに良く来たな、タイキ。お前にヤラれたビンノは西方に行ったぞ。新しい武術を学びにな。ウチの【豪拳】ではお前に勝てないなんてほざいてなっ! 俺がソレは間違いだとココで教えてやるっ!」


 ああ、そう言えばそんなヤツも居たなぁ。なんて思いながら俺はライガンを無視していた。俺が気になっているのは、対戦表の前で柔剛術について呟いた男だった。今は俺からも見える位置で座って俺を見ている。黙ったままの俺にライガンが更に挑発してきた。


「何だ、ビビッてるのか! 今なら許してやるぞっ!」


 この大会では駆引きも勝負の内に入るので、挑発しても注意等はされない。しかし、良くもまあベラベラと喋れるもんだな。俺は感心してしまったよ。


 審判が始めと試合開始を告げた。ライガンは構えもせずに一直線に俺に向かって来た。と思うと、俺の間合いの少し手前で、俺の左に回り込み突きを放つ。俺は慌てずに突きをギリギリまで引き付けておいて体を左に回して、ライガンの居る場所に半身で踏み込み、がら空きの中段に掌底を放った。

 

「ハッ、そんなヘナチョコな攻撃がき……」


 言葉の途中でライガンの目が白目になり、その場に崩折れた。審判が俺の勝利を宣言した。


まさに柔剛術」


 俺は男の口がそう動いたのを確認して、試合場所から降りた。すれ違う六試合目の対戦者が俺に、


「君は強いね。でも僕も負けないから、良く見ててほしいな」


 そう声をかけて試合場所に上がる。俺は試合を見てみた。


「次! 【覇軍はぐん】対【おぼろ忍術】!」


 俺に声をかけた男が【覇軍はぐん】ていう流派の様だ。忍術の方は短刀サイズの木刀を持っている。

 審判が始めと言った瞬間に忍術が【覇軍はぐん】の後ろに立って木刀を振っていた。

 が、皆の予想を裏切り木刀は空を切り、【覇軍はぐん】の掌底が忍術の中段を叩いていた。派手に吹っ飛び、試合場所から落ちた忍術は気絶していた。


 勝った【覇軍はぐん】の男は俺の所まで来て、


「次は君との対戦だ。どっちの技が上か、じっくり比べ合いしようね」


 そう言うとニッコリ笑って会場を後にした。俺はゾクゾク、ワクワクしてしまい早く試合をしたいと逸る心を抑えるのに必死になった。  

 

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