第5話 成人
翌朝、俺はいつも通りに稽古に向かった。そして師匠に報告する。チャンスをモノにした事を。
「ハッハッハッ、やったな。タイキ。やけに朝から大きな声が出ていると思ったが、そうか。遂にチャンスがやって来たか。そして、逃さずにモノに出来たんだな」
そう言って師匠は俺を褒めてくれた。そして、更に言葉を続けた。
「良いか、タイキ。守るべき者がお前には出来た。コレから更にお前は強くなる。良く、守るべき者が出来たら弱くなるなんて言うヤツが居るが、それは違う。守りたい気持ちの分だけ強くなれるんだ。それは間違いないからな」
「はい、師匠!」
俺の返事を聞いて頷く師匠が今日からの稽古は対獣を想定した稽古も加わると教えてくれた。師匠は言う。
「良いか、タイキ。人は弱い。無手では猫にすら負けるだろう。だが人には他の獣にはない知恵と器用な手がある。それを利用して獣にも勝つんだ。棒、杖両方に対獣の技がある。四足獣、又は熊のように立ち上がって攻撃してくる獣に対しての技があるんだ。それらを成人までに教えて行くぞ」
「はい、よろしくお願いします」
その日は午後から役所に行き、昨日ミヤの家に来ていた役人を探した。そして見つけた俺はその役人を連れて税務部署に向かい、昨日の話をした。
税務部署の偉い人が頭を下げてくれて、役人の部署の責任者に言って、この男は処罰しますと約束してくれた。俺は男に次にミヤの前に現れたら容赦しないと脅しておいた。
そして、序に払われてなかったミヤの母の税金を払って帰った。ミヤが成人したら一緒になるんだし、という事は家族になるんだからと思ったからだ。
そうして、また午前中を稽古に費やし、午後からは薬草採取に向かう日々が続いた。嬉しい事に薬師ギルドが乾燥薬草と、打ち身薬の買取価格を上げてくれた上に、月に十日だった納品を十五日にして欲しいと言ってくれた。
乾燥薬草は七千ヤールだった買取額が九千ヤールになり、打ち身の薬はギルドでレシピ通りに作った物よりも俺が作った物の方が効能が良いので、作って納品していたが、四リッターの壺が一万二千ヤールになる。更に、売れた代金の二割も俺に入って来ているから、今や
そして、俺が成人を迎えた日にミヤの母親が亡くなった。その日はいつも通りに稽古をして、庭の野菜を持ってミヤの家に向かった。ミヤの家では人が多く出入りしていた。俺は顔見知りのミヤの隣に住むサトリさんを見つけたので声をかけた。
「サトリさん、何かあったんですか?」
「おお、タイキか。実はサーミさんがな、心の発作で亡くなったんだ。つい半刻前のことだ」
俺はソレを聞いてミヤの家に入る。ベッドに寝ているおばさんは死んでいるとは思えないぐらい、穏やかな顔をしていた。その体に項垂れて泣くミヤがいた。
「ミヤ、大丈夫か?」
「…… タイキ…… うん、大丈夫だ、よ。コレ、お母さんからタイキ宛に手紙が、ある、の…… 読んで、ね……」
俺はミヤが差し出す半分に折られた紙を受け取りながら、おばさんの顔を見ていた。目が霞んでいく。涙がボロボロと俺の頬を伝っていたが、それにも構わずに俺は立ったまま泣いていた。そしたらミヤが、一番悲しい筈なのに俺を抱きしめて、
「大丈夫、大丈夫だから、タイキ。お母さんはここにも、ここにも居るよ」
と言って自分の胸と俺の胸を指差して微笑んだ。ソレを見て俺の涙は更に溢れていった。両親が生きている頃から、常に俺の味方をしてくれたおばさんがもういなくなったのかと思うと、俺は打ちひしがれてしまっていた。
暫くして落ち着いた俺はミヤに聞いてみた。
「おばさん、何処か悪かったのか? そんな素振りは無かったけど……」
「うん、そうだよね。私も知らなかったけど心臓が悪かったんだって。本当はいつ発作が起こってもおかしくない状態がずっと続いてたらしいんだけど、薬師ギルドからの薬とタイキがくれる野菜のおかげかな、ずっと調子が良かったんだって。でも、やっぱり元が治らないから…… でも良くもったって先生が言ってた」
「そうか…… それじゃ、手紙を読ませてもらうよ」
俺はおばさんからの手紙を読んだ。そこには俺がミヤと一緒になるのが楽しみだと言う事。そして、二人の子供が見れたら良いなとか、でもコレをタイキくんが読んでるなら私はもう居なくなってる筈だから、ミヤの事をよろしくねと書かれていた。そして、最後に俺が薬師ギルドに納めている薬草と、偶に持って来ていた野菜のおかげでここまで生きられた、有難うと書かれて手紙は終わっていた。
手紙を読み終えてからミヤに言った。
「ミヤ、おばさんの供養塔を俺の家に建てたいんだ。そして、今日からミヤは俺と一緒に住んで欲しい。この家は借りている状態らしいから、役所で退所手続きが必要らしい。おばさんの供養が済んだら一緒に手続きをしに行こう」
「うん、タイキ。有難う。頼りにしてるね。でもエッチな事は私が成人するまでダメだよ!」
まだ悲しい筈なのにそんな冗談を言ってくれるミヤにホッとしながら、俺は素直に頷いた。
そして、師匠にも知らせてウチにおばさんの供養塔を建てた。近所の人からも好かれていたおばさんの供養祭には沢山の人が来てくれた。皆でワイワイと喋りながら、おばさんの思い出を話し合って供養した。
そして、皆が帰ってからミヤに教えた。ウチには風呂があると。ソレを聞いたミヤが驚いた。
「エッ! 何でお風呂があるの?」
「実は風呂場自体は両親が生きてた頃に作っていて、浴槽なんかは買えずにいたから、ずっと使ってなかったけど、俺も薬草が売れて今はかなり余裕が出来たから、思い切って浴槽を買ったんだ。偶に師匠も入りに来るよ」
「凄い、凄い! タイキ、有難う!」
そして、ルンルンになったミヤがイソイソと風呂場に向かった。風呂は皆がいた時に水をはって沸かしてある。今なら丁度四十度くらいになってるだろう。俺は少し冷たいくらいが良いので、ミヤの後に入ろうと思う。
それから、俺は朝に稽古に出向き昼からミヤと一緒に役所に向かった。借りていた家の退所手続きは直ぐに終わり、俺はミヤが成人したら夫婦になる事を伝えた。そしたら住民部の受付のおじさんが、
「それなら、コチラの住民票にその旨を記載しておきますね。ミヤさんが成人されたら、その時点でコチラで手続きしておきますから、来られる必要が無い様にしておきます」
と親切に言ってくれた。俺とミヤは有難うございますとおじさんに礼を言って役所を後にした。
そして、翌朝からミヤは午前中に庭の畑の世話をしてくれて、昼からは俺と一緒に薬草採取に出かける事になった。採取した薬草の乾燥の仕方を教えたり、打ち身薬の作り方を教えて日々を過ごしていた。
ある朝、稽古に行くと師匠が言った。
「タイキ、今度町である武術大会に参加するぞ。お前も興味があるだろ? 他の武術を見るのも大事な修行になるからな」
「は、はい。師匠、分かりました」
そして、1ヶ月後にある武術大会に参加する事が決まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます