遺品屋【1話完結】

るぅるぅです。

「遺品屋」

カラスが鳴いている。

夏の終わりを色付けた葉、木々の何処かこちらを見ている様な雰囲気の中に壁が所々剥がれてる廃校がぽつり。

管理はされているのだろう、周りにゴミなどは全く無い。その代わり物置が半開きになって、砂色になった古い跳び箱や運動会に使う道具などが顔を覗かせていた。


「俺の中の表現力とオリジナルキャラクターが溢れかえりそうだ。だがそれを放出させるにはノートやスマホに執筆だと腱鞘炎になる。そして出版社の公募データが作れない。つまりパソコン。パソコンが欲しい。

だが金が無い!」


そう言ったら友人が「知り合いのおじさんが短期のバイトを探していたよ」と時給が妙に高い仕事を紹介してくれてここに来たのだ。


せっかくサイクリングがてら郊外に来たのだ、と廃校を覗く。


「こんにちは〜」


廃校の雰囲気に恐ろしく合わない、垂れ目のクルクル癖っ毛で小柄な男性が迎えてくれた。短髪で無個性な俺とは天と地の差の顔立ちだったが、そういうのは気にしなさそうなのほほんとした笑顔だった。


「ようこそ。品物はこちらです」


「あ〜いえ。俺はバイトを紹介されて…」


事情を話すと男性は

「わーい。これで溜まった事務仕事を片せるぞ」

と喜び、面接も無しに採用が決まってとりあえず今日一日だけ来客の相手を頼むと言われた。

なんて適当な!

だが前払いで諭吉様を2枚もいただいたら俺は何も言うまい。



「ところでここは何の店なんですか」


「ここは遺品屋だよ」


「いひん…?それって亡くなった方の物ですよね?どういう…」


「遺族の意思でここに展示し、欲しい方がいたら販売して良いと言われている。委託だから預かったお金は遺族へ。その代わりここを軽く支援して貰ってるんだ」


「法律的にどうなんですか?それ」


「リユース店も黙ってるだけでそういう物が沢山あるだろう。ここはハッキリ言ってるだけ良心的だと思うよ」


そんな事まさに知らぬが仏だと思うが、知っておきたいタイプの人もいるのだろうか…


とはいえ、俺はさらっとパソコンが近くなるこの仕事の道を捨てるわけも無く持ち場の遺品展示室へほわほわ店主について入った。


そこには教室の黒板を前に、八つの机と椅子のセット。

前の四つには服を来た人体模型…?とにかく全身骸骨が座っていた。

その後ろの席にガラスケースがあり、遺品であろう高級な時計や指輪、薄汚れたマフラーや文房具、手袋などがあった。


異様な空間だ。

この全身人骨はレプリカだよな。黒ずんで少し欠けてる人もいるけどレプリカじゃないと法律的におかしい。

そうこれはレプリカだ。何も聞くまい。

一日だけのバイトで本当に良かった。


「お饅頭とみかん、ポットのお茶を置いておくから、この廊下の受付場所で適当に接客してね。廊下からしか人は入れないし、ネット見て暇つぶししても良いよ。16時までね」


なんて適当なんだ。

要はこの遺品と人骨レプリカを見張る係なのだろう。食欲など湧く筈も無いが、俺は愛想笑いで頷いた。


朝の10時に来てから15時まで誰も来なかった。


それはそうだろう、こんな場所知られてないし知ったところで来たくも無い。他の部屋に何があるかわかったもんじゃないからウロウロする度胸も無い。

充電器持って来てて良かったな。


展示室は後ろからたまに異常が無いか覗き、なるべく人骨レプリカを見ないように過ごしていたら饅頭とみかんを食べる事が出来た。



もう誰も来ないんじゃないかと考えていたら、最初で最後だろう客が来た。


痩せている女性で妙に寒そうだった。彼女は遺品展示室を見て少し驚いたようだったが、一つのガラスケースに駆け寄った。

マフラーと、指輪がある女性のものらしき遺品のガラスケースだ。


ほわほわ店主を呼ぼうかと思ったが冒険しなかった俺は彼のいる場所を知らない。女性が諭吉様を出してこのケースの中を全部買いたい、と言ってくる。

幸い金額は書いてあったしガラスケースも開いた。だが袋が無い、と慌ててると女性はその遺品を何の気なしに身につけて頭を下げて帰っていった。


手にお代を持ったまま頭を下げて入り口まで何とか見送ると、女性はオシャレな赤い車で去って行った。


夕日に照らされてる廊下に戻ると、ほわほわ店主が微笑んで俺を迎えてくれた。


「お疲れ様」


「あ、はい」


俺がすぐさま受け取った代金を渡すと、店主は「気が向いたら、またおいで」と言ってくれた。


受付場所に鞄を取りに行くと、遺品展示室の人骨レプリカがひとついなくなっていた。

遺品が売れたガラスケースの前にいたものだ。



帰り自転車で大通りを走っていると、事故があったようで救急車やパトカーが集まり、ものすごい騒ぎになっていた。

紙みたいにぐしゃぐしゃになった車はもう原型が分からず、ただ、赤だなと思った。



翌日、朝のニュースで事故の報道を見た。

女性の顔は遺品屋に来た人にどことなく似ていたが、それよりずっと美人だった。


「……さんは、数年前にひき逃げで亡くなった被害者……さんの遺品を何故か身につけており、警察ではその関係性を調査しています。遺族は黙秘を貫いており詳しい事は分かっておりません」



思う事はある。

でも確証が無い。

俺に何が言えるわけでもない。




リユースに複雑な気持ちを抱いた俺は、数日後少し奮発して型落ちの新品パソコンを買った。


友人にお礼を言うと

「おじさん、またいつか来て欲しいって言ってたよ」


色々な意味で悩ましい。

金欠の時は助けてもらおうか?


いいや、俺はもう行きたくないかな。


新しく買ったパソコンに、一番に書いたのがこの話なのはそういうわけだ。

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遺品屋【1話完結】 るぅるぅです。 @luuluu

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