廓舟
高田"ニコラス"鈍次
第1話
(綾瀬)吉野。無沙汰であった。
(吉野)綾瀬様! お待ち申しておりんした。
(綾瀬)どうだ? 息災であったか?
(吉野)そんな意地悪いいなんすな・・とんとご無沙汰で、主の顔忘れるとこでありんした。
(綾瀬)それはかたじけないことよ。
(吉野)綾瀬様・・
(綾瀬)なあ、吉野・・
(吉野)ん? なんですの?
(綾瀬)実は・・お上に追われる身になっちまってな。
(吉野)ほんだんすかえ?…
(綾瀬)どうも嵌められっちまったようだ・・ちょいと羽振りがいいと、悪どい奴が近寄ってきやがる・・・
(吉野)綾瀬様・・・大丈夫でありんすか?
(綾瀬)なあに、心配はいらねえよ。でもなあ、吉野・・・。
(吉野)あい・・・
(綾瀬)ここにいるのもそろそろ危ねえ。お前さん巻き込むわけにもいかねえしな。
だから、しばらくは身を隠すつもりだ。当分顔は出せねえよ。
(吉野)ほんにお久しゅうございんしたのに…
これで・・・おさればえ?
(綾瀬)違うんだ、吉野。ほれ。
SE(金子を置く音)
(綾瀬)どうだ。一緒に来るかい? ここを出て。
もっとも、こちとら追われる身だ。まあ、悪いこたあしてねえから、命取られるまではねえとは思うが・・
それでもしばらくは大手を振って生業はできねえからな・・苦労掛けるぜ?
(吉野)綾瀬様…ぬしはわっちの間夫なんす…
そないな苦労・・こんな鳥かごに閉じ込められてるのと比べたら・・
主様。わっちの愛すお人は綾瀬様、ただ一人でありんす…そのときから、覚悟は決めていんす。
(綾瀬)吉野・・・・・(引き寄せ抱きつく)
(吉野)あっ♡・・・嗚呼、嬉しゅうおす。
(綾瀬)舟に乗ってよ、誰も知らねえとこへ、一緒に逃げようじゃねえか。なあ、吉野。
(吉野)あい・・・
SE(階段を駆け上がる音。ふすま
開く音。ガヤ音。)
―捕り者が複数名入ってくるー
(綾瀬)おいっ! 離せ!離しやがれ!
(吉野)綾瀬様! ちょいと! やめなんし!
(綾瀬)吉野! 必ず、必ず迎えに来る! だから待っていろ! いいか、必ずだぞ! 吉野・・
(吉野)綾瀬様! ちょいと! よしなんし!
綾瀬様ああああああ・・・・!
―数年後―
(吉野)綾瀬様。
今年も、庭の桜が綺麗に咲きんした。
あれから何年になりんしょう。わっちにも、身受け話も、幾つか頂きんした。
ほんに、恵まれていんす。
されど、嘆きの壁の向こう側へ行きんせんのは、
(綾瀬)吉野! 必ず、必ず迎えに来る! だから待っていろ!
(吉野)ぬしはは嘘つきかえ?
わっちは間もなく年季を迎えんす。
花魁としての盛りは、もう過ぎんした。
(間)
(吉野)綾瀬様、
わっちは、明日この廓をを出ていきんす。
でも・・・
どんなにお客人と枕を交わそうと、綾瀬様への想いは尽きんせん。
綾瀬様…
ぬしはほんにずるうございんす。
恋することを教えてくださんしたんは、ぬしでありんす。
ならば、忘れることも、どうか教えてくんなまし・・・
SE(扉開く音)
(綾瀬)吉野・・・
(間)
(吉野)主様! おかえりなさいまし。
廓舟 高田"ニコラス"鈍次 @donjiii
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