勇者パーティーに追放されてから魔王を倒すRTA

護良 利毅

第1話 勇者パーティーから追放され魔王を倒すRTA、はじまるよ

 さあ今スタートを切りました、勇者パーティーから追放され魔王を倒すRTA。実況解説はお馴染みの私、神でお送りします。

 今回の走者は、教会から派遣された26歳の神官男。自らの試練と鍛えられたその肉体はまさに筋骨隆々。回復魔法と防御技能には定評があります。なお操は神に捧げられているため、もちろん童貞、未婚であります。ご安心ください。

 まずは教会から街道を歩き街へ向かい、勇者に会う必要があるのですが、ここでいきなり退屈ポイントです。道中の魔物からは全て逃げ、戦闘は回避していきますので、ここからしばらくはただ筋肉ムキムキマッチョマンの神官が歩いたり走ったり立ち止まったりするだけになります。

 この時間が長いため、皆様のために本RTAのルールを説明させて頂きます。

 旅の目的は当然世界を魔物の脅威から守ること。本RTAでは最終的に魔王を倒し、最後の言葉を聞き終え魔王が死んだことを確認出来たところでクリアとなります。ただし今回のレギュレーションでは、ただ魔王を倒すだけではなく『勇者パーティから追放される』というルールが追加されます。これにより通常のクリアではおよそ3カ月がクリアタイムとなるところ、大幅にタイムが伸びることが予想されます。閲覧者の皆様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご了承願います。

 なおこのレギュレーションにおいて、本走者は最初のチャレンジャーとなります。つまり本RTAのクリアタイムがそのまま世界一位のタイムになります。事前に走者に話を伺ったところ、通常のクリアチャートを参考にチャートは組んでいるものの、ところどころでアドリブを入れなければならないと話していました。ガバが発生したときにどのようなオリジナルチャートでリカバリするのか、こちらも目が離せません。

 そんなことを喋っている間に神官が街に着いたようです。さすがの筋肉神官、息一つ乱れず余裕の到着です。

 勇者パーティには街の酒場に行けば会うことができます。定番、王道、お約束は非常に大事です。ここで最初の乱数調整が入ります。本RTAでは勇者パーティから追放されるというルールが課されているため、一度パーティに参加し、後に勇者パーティ側から追放される必要があります。この際、自分からパーティを離れてしまうとレギュレーション違反になるため、この後に続く走者の方々は十分にご注意ください。

 では酒場に入り、勇者パーティーの面々を確認しましょう。この際、入口の扉は半開きにしておいてください。

「あ、あの、ボクこの酒場で仲間を探すと良いって言われて……」

 ダメです。どう見ても勇者になり立てのお子様です。きっと王様からはこん棒と布の服程度しか渡されていないのでしょう。このような勇者を確認したときはすぐに酒場から出てください。酒場に入り切る前に出てしまえば勇者センサーに引っかかる事はありません。だから扉を半開きにしておく必要があったんですね。

 今回のようなレギュレーションの場合、お子様勇者は選定外となります。頼れる神官と勇者の成長物語。実にいいものですが、その分旅の中で強い信頼が生まれてしまい、パーティーから追放される確率は著しく低くなります。これではいけませんね。

 しばらく酒場の外で屈伸運動をした後、再度酒場に入りましょう。

「ねぇマスター? この酒場にいるって聞いたんだけど。私と釣り合うナ・カ・マ」

 ボツです。気の強そうな大人の色気漂う女勇者。神官に色目を使ったとしても効きはしないでしょうが、逆にそれが相手の興味を引き付けることになりかねません。勇者からの精神的依存は他パーティメンバーからの追放はあるかもしれませんが、パーティから抜けても勇者に追い回される可能性が出てきます。後の安定を取るためにも、ここは見なかったことにしておきましょう。

「えーと、遊び人と、遊び人と、遊び人と、遊び人と……」

 これもダメです。これはむしろ別のレギュレーションで走っている走者とみるべきでしょう。彼にも守るべきルールがあります。お互い邪魔してはなりません。生暖かい目で見送りましょう。次。

「魔王なんざオレが倒してやる。仲間に求める条件はオレを補助できる奴だけだ」

 いました、理想形の勇者です。このような攻撃すなわち防御と考えている猪勇者の多くは自分の背後を軽視しがちです。神官としても回復魔法で勇者の当面の需要に応えられる上、パーティーが安定し、戦闘でさほど傷を負わなくなった辺りで不要メンバーとして切り捨てられる確率が非常に高いです。今回のレギュレーションとは相性抜群。お互いにWin-Winの関係と言えるでしょう。よかったらそのまま酒場に入り、勇者にパーティに入れてほしい旨を伝えます。この際、防御技能には触れず、回復魔法が得意とだけ伝えておきましょう。勇者パーティーに全ての能力を見せる必要はありません。これもまた追放される確率を上げるポイントです。

 酒場に入るまで4回出入りというロスが発生しましたが、全体から見れば軽微なガバです。ここから多くの知らないガバポイントもあるので、これくらいは誤差でしかないでしょう。

 さて、パーティメンバーが決まったようです。勇者(男)、補助魔法使い(男)、攻撃魔法使い(女)、そして神官(男)の4人です。こう人が増えてはそれぞれの呼び方も考えなければいけませんね。ここは神の一存で勝手に呼び方を決めさせてもらいましょう。

 勇者(男)はユウ君、補助魔法使い(男)はバフ男、攻撃魔法使い(女)はボム美、神官(男)はさっちゃんです。呼び方は大事ですね。

 これから魔王を倒すための旅に出かけるのですが、道中様々なイベントが待っていることでしょう。ただし時間のロスになるため、変なフラグは立てないよう慎重な立ち回りが要求されます。果たしてさっちゃんは最後まで無事に走り切ることができるのでしょうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者パーティーに追放されてから魔王を倒すRTA 護良 利毅 @toshiki_moriyoshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ