幽霊退治

咲輝

第1話

僕は生まれつき、お化けという分類が見えていた。

もちろん、お化けを見えることには最初は驚いたが今は慣れ、驚かなくなっていた。

そんなある日のこと。

学校の下校中に見知らぬ、白髪の女性が話しかけてきた。

「貴方、うちに来ない?」

「えっ……えーと。」

狼(らう)が戸惑っていると、女性は狼の手を取り、名刺を渡した。

「私達ね、幽霊退治みたいなのをしてるのよ。君の能力をいかしてみない?」

「僕の能力ですか??」

初めて必要とされている気がした。

周りからも結局両親からも兄弟からも不気味がられた僕は、一人だった。

「こんな、僕は必要とされるのでしょうか?」

女はニヤリと笑った。

「そんなの当然よ。必要とされない人間なんてこの世にはいないわ。」

狼は、その言葉を聞いて鳥肌を立てた。

初めてそんな言葉をかけてもらったからだ。

「名乗るのが遅くなっちゃったけど、私は谷崎沙奈よ。よろしくね」

沙奈は狼に手を差しのべ、ニコッと微笑んだ。

「よろしくお願いいたします!」

(次こそは……人の役にたってみせる。)

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

「ただいま」

狼は恐る恐る、沙奈の後をついて行き事務所の中へと入っていった。

「おっ、おじゃまします……」

狼はバックを胸に抱き寄せて、周りを伺っていた。

「狼くん、そこに荷物置いてね」

周りを伺ったが、誰の気配もなかった。

ドアを勢いよく開けて、誰かが入ってきた。

狼は体をビクつかせながら、小さくうずくまっていた。

「ただいま戻りました!沙奈さん。」

「ちょうどいい所に戻ってきた♡」と沙奈がご機嫌そうに、赤髪の男性に近づいた。

見るからに人相が悪そうで、顎マスクをして片手にはコーヒー。そして、左耳にはピアスを付けていた。

狼は絡まれるのが嫌で目を逸らしていた。

「嫌っすよ!俺、素人嫌いなの知ってますよね?それもハンターじゃねぇ。見えるだけなんてただの人間だろ?」

赤髪の男が、社長である沙奈と揉めていた。

「そこをなんとか。ねぇ、お願い。」

「いくら、沙奈さんのお願いでも……」

男は後ろの髪をかきながら、そっぽを向いた。

「じゃあ、給料を今月から上げるってどうかしら?」

上目遣いで男の様子を沙奈は伺っていた。

「乗った!約束っすからね!」

沙奈が持っていた書類を受け取り、狼の首根っこを掴み、事務所から出ていった。

「社長、あのバカに任せて良かったんですか?」

「いいのよ。魁ちゃん腕は確かだから。」

スマホをイジりながら、違う部屋から茶髪で横髪にピン留めをした男が出てきた。

「社長が言うならいいんですよ。」

「その、社長っての堅苦しいから沙奈でもいいのよ、そろそろ。」

「目上の人間は敬えってあのバカに教わってるんで。そこはきっちりしないと」

「ふふふっ。結蘭(ゆうら)は真面目ね。」

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「あっ、あの……」

「つべこべ言わずに俺様についてこい。」

ガハハっと笑いながら、狼を連れ去った。

「……おい。オオカミ!そこに居ろ」

急に男は止まり、狼を離し前かがみになり周りを警戒しだした。

「あの、どうしたんですか…?」

「しっ、黙ってろ。そして、少し離れてろじゃねーと、怪我するぞ」

ポケットから拳銃を取り出した。

そして、その銃を狼に向けて引き金を引いた。

「お前はここにいるべきじゃねぇ」

その放った弾は狼をすり抜けた。

うわぁーーーーーー。と狼の後ろで悲鳴が上がり、後ろを恐る恐る見るとお化けが苦しそうに倒れ込んでいた。

こんなに悲鳴をあげて、しかも銃弾を放っているのに、周りの人は騒がすそのまま通りすぎている。

「どっ、どういう……」

男はポケットから手帳を取り出し、倒れていた者を吸い込んだ。

「ほら、行くぞ。」と狼に手を差しのべた。

狼は男の手を取り、立ち上がりそのまま男について行った。

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「あの……」

「なんだ?」

「お名前お伺いしてもよろしいでしょうか…?」

狼は恐る恐る男を聞いてみた。

「あぁ。名乗ってなかったな。俺様は魁士(かいと)。鮫島魁士だ。これから、お前の世話役だ。覚えておけ!」

歯を見せ、狼に指を指して笑った。

「よ……よろしくお願いいたします。あの……さっきの人?ってなんで、他の人には見えてないというか……。」

「それはねぇ……」

気配を出さず、狼の背後から肩に腕を回し男が近寄ってきた。

「うっ……うわぁ!!?!」と狼は近づいてきた男にビックリし、尻もちをついた。

「どうした!!?オオカミ!」

魁士が振り向くと、そこにはニコニコ笑いながら男は魁士に手を振っていた。

「おっ、お前!持ち場違うはずだろうが!」

「早く終わったから、沙奈さんに魁士くん達と合流しろって言われたんだぁ…」

そして、男は狼に近づきしゃがみこんだ。

「驚かせてごめんねぇ。僕の名前は霧島叶(きりしまかなと)。これからよろしくねぇ」

独特な雰囲気を醸しながらも、狼は大丈夫だと雰囲気で察し、狼は驚きながらもペコりと頭を下げた。

「よっ……よろしくお願いいたします……!」

「そうだ。狼くん。これ、沙奈さんから預かったんだぁー」と叶が狼に銃を手渡した。

「これ、さっき魁士さんが使ってた銃と似てる気が……」

狼は手の平で銃を眺めていた。

「そうそう!それはね、悪い幽霊さん達を退治する銃だよぉ。」

「悪い幽霊さん?」と狼は首を傾げた。

「簡単に言えば幽霊退治だ。まぁ、ただの幽霊じゃねぇ奴らがうじゃうじゃしてる。人間に化ける奴だって居るから厄介だ」

「さっき、魁士くんが倒してたのも悪い幽霊さん。そして、狼くんが言ってた周りの人が気づかないのはこの銃を握ると自然とフィールドが張られて外部からはなにも見えないんだぁ。」

叶がそう言うと拳銃を握った。

「それに!人間には害はねぇ!こうやって……」

魁士が叶を目掛けて、銃を打ったがさっきの幽霊が倒れたようにはならず、無傷だった。

「魁士くんみたいに無駄うちはしないようにねぇ。」

「おいっ!」

「この銃は特殊でねぇ、その人によって形は変わるんだぁ。例えば僕は……」

叶が銃を取り出し、トリガーを引くと拳銃が真っ白に染まった。

「僕の銃の能力は、普通の銃と似てるけど何発も放てるのと、お化けさんを砂みたいに溶かすことが出来るくらいかなぁ」

ニコッと叶と狼に微笑んだ。

(この人サラッと恐ろしいことを言った気が……)

「そして、俺様の銃はさっきも見せた通り1発で敵を仕留められる。そして、この手帳でお化け共を吸い込めんだ!他の連中も色々性格によっちゃあ、違う能力がある!まぁ、俺様の銃が1番だけどな!」

魁士は腰に手を当てて自慢げに話をしていた。

叶がしっ。と口元に手を当てた。すると、4体程のお化け達にいつの間にか囲まれていた。

「成仏。成仏。」と叶がブツブツと言いながら、4体に銃弾を打ち付けた。

すると、砂のように溶け、その砂を瓶に詰め始めた。

「はぁー。これで今日の任務は完了かなぁ」

「おい!叶!俺様の仕事とってんじゃねぇー」

魁士が声を荒らげ、叶に近づいた。

すると、一瞬で魁士の所に移動し、ナイフを魁士の首元に近づけ、ニコッと笑った。

「資料にするんだから、それ以上近寄ったら」と表情を変え、目を座らせた。

「……殺すよ」と低い声になり、殺気だっていた。

「わっ、わりぃ……」と魁士が額から汗を垂らした。

その光景を見ていた狼は鳥肌を立ていた。

「叶……さん?」と怯えながら、話かけると、なぁに?とさっきの穏やかな表情に戻った。

叶は、砂を回収し終わると、銃をポケットへと閉まった。

シールドはとけ、狼に笑いかけ”帰ろう。”と言って前を歩き始めた。

そして、3人はそのまま事務所へ戻っていった。

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「ただいま戻りましたぁ」と叶が事務所のドアを開けて入り、その後に2人も続いた。

「あら、随分早かったのね。」と沙奈が椅子に持たれかけながらニコッと優しく微笑んだ。

「うん。魁士くんも居たしね。今回のはハズレだったかなぁ。」

「ハズレ?ですか?」と狼が気になり質問した。

「俺らが仕留めたのは、ゲームでいうザコキャラだ」

魁士が顎の当たりを触り、ムクっと口を膨らませ、はぁー。と深くため息をついた。

「奴らのしっぽは?」

「ザコだったっすからね~。そう簡単にはしっぽ見せねぇっすね。」

「そう。」と沙奈は少し頭を下げて暗い顔をしていた。

「それなら、僕の弟に検索してもらったよぉ」と叶がタブレットを取り出し、沙奈へと見せた。

そこには、さっき叶が採取した砂の結果だった。

「んだこれ?」

「数字ばっかりですね」

狼と魁士も画面を覗きこんだ。

「これはねぇ……」

「血液ね。」

「沙奈さん、正解ぃ。」と叶はパチパチと拍手をしながら、笑っていた。

「血液ですか?幽霊に?」

「奴らは、幽霊を血液から作り出し自分の駒にしているのよ。そして、人間を襲っては殺しては幽霊を作り出すって訳。叶くん、これ至急全員に送ってちょうだい。」

「わかったぁー」

叶は指示を受けて、自分の部屋へと戻っていった。

「魁ちゃん、狼くんを連れて新宿へ行ってきて」

「了解です。ほら、オオカミ行くぞ!」

「はい!ってあの、ずっと思ってたんですけど、僕オオカミじゃなくてラウ……」

「つべこべ言わずに行くぞ。」

狼は文句を言いながらも魁士の後ろをついて行った。

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「えーと。ここら辺かいるって言う噂の所は。」

魁士はスマホを眺めながら、周囲を警戒していた。

「おっと、失礼。大丈夫かい?」

狼の肩にぶつかった男性が狼の肩に触れた。

「だっ…大丈夫です。僕こそ失礼しました……」

狼は肩に触れられた瞬間になにか嫌な気配を察した。

呼吸を荒らげ、その場にしゃがみこんだ。

「おい、大丈夫か?」

「はぁ……はぃ。さっきの人から嫌な気配が……」

その瞬間に狼を目掛けてなにかが飛んできた。

すぐさま、魁士は銃を持ちシールドを張った。

「おい!狼!大丈夫か!!」と魁士がしゃがみ込んだままの狼に寄り添った。

槍が無数に狼を目掛けて放っていた。

「クソがぁ!!!」

魁士が両手で銃を持ち、1発放った。

すると、後ろにいた狼に血が顔にかかった。

狼を庇った魁士が膝から崩れ落ちた。

「魁士さん!魁士さん!しっかり……!」

狼が魁士に駆け寄り、上体を起こそうとしていた。

「逃げろ……。」と魁士が掠れた声で狼の胸ぐらを掴んだ。

魁士をその場に寝かせて狼が立ち上がった。

(僕がやらないと…)

「俺が……!!!」

狼がポケットから銃を取り出し、両手でトリガーを引いた。

トリガーを引くと、光が放たれ敵の的が定まった。

「ごめんなさい……」ともう一度トリガーを引くと風船のように膨れ上がった銃弾を放ち、幽霊は悲鳴を上げて、魁士の開いていた手帳へと吸い込まれていった。

「ちっ……」と狼達の様子を上で見ていたハットを被った男性が去っていった。

狼はその場で倒れ込み、意識を失ってしまった。

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「おーい。」と狼の頭をツンツンとつつかれていた。

はっ!と勢いよく起き上がるとそこに居たのは、結蘭だった。

「起きたんだな。」

結蘭はスマホをイジりながら、立ち上がり狼にお茶を出した。

「あっ、あの……ここは?」

「ここは事務所の一室」

「あっ、あの!魁士さんは無事何でしょうか?僕より傷が酷かったと思うんです!」

おぼつかない体で狼が起き上がった。

「あぁ。あいつならぐっすり眠ってるよ。」

「よかったー。」と狼はホっとして、ベットへ座り込んだ。

「あのバカも凄い傷だったのに、狼を運ぶためにカッコつけてたな、ありゃ。事務所まではたどり着いたみたいだけど、そこで力尽きたのか今は眠ってる。」

「そうですか……」

狼はグッとズボンを握り顔を下げた。

「まぁ、でも今は遥が看病してるみたいだし、大丈夫だと思うぜ。」

「遥さん?」

狼が知らない名前だったので、首を傾けた。

「あぁ。遥は、叶の弟で、そしてあのバカの一番弟子。」

「弟さん、魁士さんの一番弟子なんですね」

結蘭と話をしていると扉が開く音がした。

「あっ、噂をすればだ」

「結蘭さん、新人さんの看病は終わったんすか?」

扉から入ってきたのは、叶の弟である遥だった。

「看病なんていらないっぽかったよ!ほら、現に起きてるし!」

結蘭が顎を使って狼をさした。

「そういう問題じゃないっすよ!」

遥は狼に近づき、体を軽く触った。

「うーん。肩にアザできてるっすよ」

そう言われ、狼が服を脱ぐと男とぶつかった肩がアザになっていた。

「凄いっすね、遥さんは」

「俺は銃を使いこなせなかったんで、この事務所の研究員っすからね」

「でも、魁士さんの一番弟子じゃ……?」

「あれは、2年前の話っすよ!」

狼にテーピングを貼りながら話をしていた。

「……まぁ、俺は人を殺しちゃったんで戦闘に出るのは辞めたんす。っと!これで暫く安静にしといてくださいね!」

遥は救急箱を直して、ニコッと狼に笑いかけた。

「あっ、あの……遥さん」

「この話はまた今度っす!じゃあ、あとは結蘭さんお願いするっす!」

ポケットから飴玉を取り出し、口にくわえてその場から立ち去っていった。

「狼!!!!!!」と勢いよくドアを開けて、魁士が入ってきた。

「おい。クソバカ。ドア壊すんじゃねぇーよ」

結蘭が魁士を睨みつけた。

「その呼び方そろそろ止めろ。それより、狼は?」

魁士が結蘭のおでこをひっつけて、睨みをきかせていた。

「あっ……あの…」と冷や汗を垂らしながら狼が間に入った。

「おっ!狼!!命の恩人!!!」と魁士が肩に手を置いた。

「いっ……命の恩人は魁士さんかと…」

目を泳がせながら、驚いていた。

「お前、あの時俺様を助けてくれただろう?」

狼はきょとんした顔で首を傾けた。

「おい、バカ。いきなり入ってきて狼を刺激してんじゃねぇ。」

結蘭が魁士の後ろから引っぱたいた。

「はぁ?!なにがだよ」

「さっき、狼が眠っている間に遥に聞いたんだよ。自分が戦ったことは覚えてねぇ。戦いの間はこいつじゃない奴が戦っている」

狼は顔を少し青ざめ、下を向き手のひらを見た。

「僕じゃない……誰か…」

結蘭が狼の肩に手を置いた。

「お前は凄い力を持っている。大丈夫だ。なにかあったら、俺が狼を止めるから。なっ!」

結蘭はニコッと優しく微笑みかけた。

「結蘭さん。ありがとうございます!」

「おう!」

狼の髪の毛をぐしゃぐしゃと撫でた。

「俺様もいるから安心しろ!なんたって、お前の保護者的役割だからな!」

魁士はニコニコしながら、腰を当てて高らかに笑っていた。

「バカが移るから狼に近寄るなよな」

結蘭は後ろから抱きつき狼をギュッと体を引き寄せ、シッシッと魁士をあしらっていた。

「んだと!!俺はな、紗奈さんからこいつ任されてんだよ!昔は可愛い奴だったのに、あん時のお前はどこに言っちまったんだよ!」

2人の言い合いを見て狼はクスッと笑った。

「アハハ……」

2人は言い合いを止めて、狼を見た。

「すっ……すみません。けど、なんかこういう家族というか、友達とかと笑いあえたことなんてなくて……」

結蘭は狼の頭を撫でた。

「狼を1人になんてさせないよ」

「結蘭さん。」

「俺様だって!!今までがどんな道を歩んできたのか知らねぇけど、お前は今は1人なんかじゃねぇ!ここにはインフェスタードの皆もいる。だから、そんな顔するな」

「魁士さん……」

狼は目に涙が溜まっていた。

「バカにしてみればいいこというじゃねぇか」

「バカバカ言うんじゃねぇよ!おっ、おい、オオカミ涙出てるぞ!?」

自然と狼は涙を流していて、涙は流れて止まらなかった。

「すっ、すみません…!」

「ほら、これで拭けよ」

さっと魁士がハンカチを狼に渡した。

「ありがとうございます!!」

ハンカチで涙を拭い、ニコッと2人に笑いかけた。

「これから、僕皆さんのお役に立てるように頑張ります!」

狼の物語はこれから始まる。

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幽霊退治 咲輝 @china-15

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