策士策にはまり剣士郷に従う
「なるほど。問題は山積みなんだなー。」
手にカラスをとまらせ、少年は呟いた。
黒髪に赤目、黒いマントに身を包み、首には赤いマフラーを巻いている。
色白の肌に整った顔立ち、腕には金の腕輪をつけている。
「ありがとう。コルヴォ。」
カラスは黒い影の塊となって腕輪に吸い込まれていった。
後には暗い路地に腕輪に付いた赤い宝石がほのかに光るだけだった。
近くを通りかかった水売りの老人はこの光景を驚いて見ていたが、次の瞬きの後には少年は消えていた。
「危ない、危ない。あやうく俺の正体がばれるとこだった。」
「ルイス、また盗み聞きかい?」
少年はびくっとしながら後ろを振り返る。
「なんだ、レオか。」
そこには紺色のローブに身を包んだ少年が立っていた。
こちらも色白の肌に整った顔をしていた。
髪は白く右側の伸びた髪に、水色のピンをクロスと横にまっすぐ留めている。目は深い青色をしていて、腰には大剣を携えていた。
「影動法を市街地で使ったのかい?」
影動法は影を使って移動する魔法であり、影魔法の一種である。
「コルヴォを通りすがりのおじさんに見られて仕方なく……。」
「10年ぶりの王都だからってはしゃぎたくなる気持ちはわかるけど、ルイスは王子なんだから気を付けなよ。」
「俺が王になって天魔人大戦に勝つんだ。」
「そうそう。だからそのためにも変なことをしないようにね。」
「あ、ああ。」
日は傾き夜へとなった。
ノワール国王宮第5番党西口では黒いフードに身を包んだ少年が立っていた。
壁にもたれ掛かって様子を伺う少年は懐から瓶を取り出す。
門前には見張りの兵士が2人立っている。
「いけ、コルヴォ。」
夜の闇から黒いカラスが飛び立つ。
ほとんど闇で見分けがつかないのだが、門番は夜でも目が利く。
目を凝らせば闇に紛れたカラスを見つけるのは容易だ。
ルイスは瓶の蓋を開け、手に透明な液体をのせる。
手にのった液体は固まり、レモン色の結晶になった。
見張りが剣を構える。
「これでどうだ!」
ルイスは見張りの間に石を放る。
同時に角から飛び出て、クナイを勢いよく投げる。
クナイは石に刺さり、あたりは閃光に包まれる。
見張りは急な光をくらい目が見えなくなる。
そこを目隠しをしたルイスは風のように通り過ぎた。
見張りが次に目を開けた時には夜の闇がただそこにあった。
「成功、成功。」
見張りの注意をカラスに向け、そこから閃光で目を閉じさせる。
見張りは暗闇に目が慣れている一方、急な光には弱い。
巧妙なルイスの作戦である。
腕輪にカラスを戻し、ルイスは王宮の中へと入る。
王宮魔術師は門の外から中へと向かってはいる移動系の魔法には気づきやすい。
そのためどうしても門は突破しなくてはいけない。
門を突破した今、ルイスは影動法を使うことができた。
影動法は物や人を影を媒介として入れ替える魔法である。
しかし発動には術者の血液が必要である。
そのため手紙のサインを自分の血で書き、王宮に送り付けたのだった。
「完璧だな。これで書斎に飛べる。」
ルイスが自画自賛していると瞬間移動した場所は書斎ではなかった。
「まずい、ここは……。」
そこは王宮にあるルイスの兄の部屋だった。
「なんでこんなところに飛んだんだ? 手紙は書斎に保管されるはずじゃなかったのかな。」
ルイスは暗闇の中おそるおそる入口へと向かう。
本棚が並べられ、真ん中には机があってその上には地球儀や魔力観測板などが置いてある。
なるべく足音を立てないように歩きながら、ルイスは兄が寝ているであろうベッドの方を見た。
ルイスには顔までは見ることはできなかったが、動きはないことがわかった。
「良かった、兄さんはまだ寝ているみたいだ。」
ドアを静かに開け、閉めようとしたその時。
「おやルイス、もう帰ってきたんだね。」
ルイスの後ろに金髪でルイスの兄であるオルカが立っていた。
白い修道服を纏い、翡翠の色の目のその男はじっとルイスを見つめている。
一方のルイスはあせりのあまり身動き一つとれなかった。
オルカはそっとルイスに近づく。
「僕の部屋にわざわざテレポートして王宮内で何をしようとしていたのかは知らないけど、君が無邪気に遊んでいたあのころとは違う。これで家に戻るんだ。」
そっと耳打ちをしてルイスの手に石を握らせる。
ルイスが気付くとそこは夜の路地だった。
頭上には煌々と月が輝いている。
「怖かった。」
どうして寝ているはずの兄が廊下に立っていたのか。
どうやってルイスの存在に気付いたのか。
ルイスにはわからなかった。
昼間のレオの言葉がルイスの脳裏によぎる。
「ここはかつての場所ではないんだな。」
ため息をつき、ルイスは宿へと戻った。
セプテンクロバー rapipi @rapipi
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