第2話:思わぬ出来事
その神殿の中も、外と同じくまるで異世界であるかのような雰囲気の空間だった。
豪華な装飾の施された台座に、謎の球体が浮かんでいるものが一つだけあり、その他の台座には浮かんでいない。
「こりゃすげえな…」
「ねえ、この扉って開くのかしら?」
ナリアが指差したのは、建物の一番奥にある大きな扉だ。家の地下にあったものよりも遥かに大きいその扉にエリオスが触れてみるが…
「うわっ!?」
「ち、ちょっと!大丈夫?」
「うん。大丈夫だけど…なんかこう、バチッと弾き飛ばされたみたいな感覚がしたよ。」
「…まだ開けれない、ってことか。それより気になるのはあの球体だな。どうやって浮いてんだろうなあれ。」
その一言で台座の周りに集まる三人。
「ねえナリア、これなんか書いてない?」
「ほんとだ。えーっと、『時は…』だめだ。ここまでしか読めないみたい。劣化が酷いわねこれ。」
「じゃあ仕方ないか。なあ、これ触れてみてもいいかなあ?」
「またバチッとなるかもしれないでしょ!」
「でも、三人一緒ならみんなバチッとなるし大丈夫だと思うけど。」
「ちょっとエリオス、あなた人の話聞いてた!?」
「はは。まあいいじゃんか。よし、皆で一斉に触るぞ!」
「アゼルまで、ああもう、分かったわよ!」
「よし。それじゃあ、3、2、1!」
その声と共に、三人の意識は飛んだ。
―――――――――――――――――――――――
「イテテ…おい二人とも、大丈夫か?」
「う、うん。エリオスは?」
「僕も大丈夫だよ。それより、ここは…?」
そこはどこかの砂浜であるようだった。周りに特に建物はなく、ただ波の音がするだけだ。だが、それよりも目を引くものがあった。
「なあ、あれって…」
「………結界。」
砂浜から数キロ先のことだろうか。そこに見えるのは紫色をした結界。学院でその存在を習っている三人には容易に推測できるものだった。
「ってことは、ここは。」
「『封印』された島か大陸か、そのどっちかってことになりそう…だね。」
「嘘でしょ…!?」
ふと空を見上げると、天まで続く結界の中を、数羽の鳥が飛んでいた。
「なあ、『封印』の中って確か時が止まってるんじゃなかったっけ。」
「うん、僕もそう習ったよ。」
「授業中寝てたエリオスの代わりに私が教えたから、ね。」
「あー、まあ寝てたのはいいとして。…時が止まってるなら今俺達や鳥が動けてるのはなんでなんだ?」
「さあ、何でだろう。」
「……………」
「そ、それよりも私達帰れるのかしら?」
「………外からの援助は望めなさそうだしなあ。
取り敢えず街か何かがないか探してみるしか無さそうだよな。」
「うん。いまここで動かなかったら餓死するだけだし、動こう。ナリア。」
「…わかった。」
そうしてしばらく歩くと、近くに村らしき住居があることを発見した。
「よかった。あそこでまずは情報収集を…って、うわっ!?」
「な、なによこれ!」
「僕に聞かれて知ってるわけないだろ!」
三人の前に立ち塞がったのは、まるで猫のような姿をした生物だ。だが、明らかに『猫』と呼べる姿をしていない。全身の毛が立ち、鋭い牙を向けて敵意を顕にしている。
「おい!木の枝でも何でもいい!なにか手にとって『アーツ』を、でないと殺されるぞ!」
アゼルのその叫びで二人も我に返った。手頃な所にあった枝を手に取り、構える。
「全く、護身用とは言われてたけどこんな状況を想定してた訳じゃないだろうに!」
そう言いながらエリオスが動いた。彼が放ったのは
「シングルスパイク」だ。直線の軌道を描いた刺突がその獣に直撃する。しかし獣も負けじと噛みつこうとしたところで、頭に強い衝撃が走り中断する。
「こ、これで…どうだ!」
アゼルの放った「スタンプクラッシュ」によりよろける姿を見せた。本来は金槌や斧を持って使うことを前提としているため威力は半減しており、倒せるまでには至っていない。
しかしその攻撃によりできた大きな隙に、ナリアの「シングルストライク」によって獣は倒れ、動かなくなった。
「はあ、はあ…倒した、のか…?」
「そうみたいね…実戦で使うの初めてだから、上手くいくかわからなかったけど…」
「はは、なんだ。俺達みたいなのでもやればでき…って…がぁっ!?」
「ちょっと!?」「おい、大丈夫か!?」
背後からの奇襲。流石に防げなかったアゼルは肩を切り裂かれ、荒い息をしている。
「くそ、もう1匹いるなんて聞いてないぞ…」
「喋っちゃダメ!今止血するから。エリオス、逃げるわよ!」
と、その時だった。
「皆さん、伏せてください!」
「なっ………!!」
その直後、三人の背後で爆発が起こった。咄嗟に身を伏せたことで回避できたが、少しでも遅れれば巻き込まれていたかもしれない。それと同時に、大きな獣の叫び声も聞こえる。恐らく今の一撃で絶命したのだろう。
「間に合って良かったな。」
そこにいたのは長い金髪をした女性だった。腰に剣を身につけ、何やら不思議な指輪を身につけている。
「そこの青年は怪我をしているようですね。見せてください。治しますので。」
「治すって、あなたは…」
『メディナ』
その言葉と共に傷口がふさがっていく。まるで奇跡とも言えるような現象だった。
「な、何が…」
「ふう。ひとまずこれで大丈夫。私はシーナ。村の警備隊長をしています。あなた方は?」
「私はナリア。そこにいるのが双子のエリオスと幼馴染のアゼルです。助けて頂いてありがとうございました!」
「このような所にいたとなると何か事情がありそうですね。ひとまず村まで案内しますのでついてきてください。」
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