最終話 帰路




 ——————そして、戦いは終わった。


 リューリが保健室のベットから起き上がると、窓からオレンジの強い光が差し込んでいた。

 夕焼け——————否、この空気のツンとした感じからして、どうやら早朝のようだ。


「あっ、起きたんだ」

 ベットの横には、色んなところに絆創膏を付けたアシェッタが座っていた。

 どうやら、寝ずに看病していてくれたらしい。

「ああ……アシェッタ、怪我大丈夫か?」

「コロッセオから出たらすぐ治ったよ。リューリは勝負が終わったっきりずっと寝てたけどね」

「一晩中待っててくれたんだろ? ありがとうな」

「いや、大魔導祭が終わってから丸一日経ってるよ。今九月三日の朝ね。」

「じゃあ俺、丸二日ぐらい寝てたのか……」

「それだけ私とのバトルに頑張ってくれたからだよ〜っ! ぎゅっ!」

 アシェッタがリューリに抱き付く。

 すると、折れた骨やら傷口などがぐしゃっとなって——————


「ぎゃああああああああああ!!!」


 リューリの悲鳴が、早朝のシンとした学校に響き渡るのだった。




 ——————そして、挑戦は終わった。

 大魔導祭の九月一日、いや、もう零時を回っているから九月二日。九月二日の午前二時。

 ドラッグは、最後まで大魔導祭を観戦し切った観客達と同じく帰路についていた。

 所々包帯が巻かれているが、とぼとぼと歩く分には支障はない。

 (まだ頭がぽわぽわする。まるで夢でも見ていたみたいだよ……)

 自分を倒したエンターと、見ないうちにすごく強くなっていたリューリの激戦。

 調子悪そうなアシェッタと、完璧なアマミヤの激闘。

 そして、アシェッタとリューリの死闘。

 壮絶極まる。迫力満点で現実離れした一日だった。

 そんな中に、自分が食い込んでいるのが誇らしい。

 が、それと同時に——————


「あっ、あれだけのものを見せられたら、またっ、背中を追いたくなっちゃうよ……」


 ドラッグは変わらない。

 考え、試し、挑戦し続けるのだ。




 ——————そして、検証は終わった。

 コロッセオから離れた魔法学園エンドランドの本校舎。保健室で、エンターは遠くから響く歓声を聞いていた。

 データ上、自分との戦いで消耗していたリューリがアシェッタやアマミヤと戦った場合、99%勝ち目は無い。

 だと言うのにエンターは、残りの1%が起こっていると確信していた。

 データは嘘を付かない。

 99%負けるという事は、1%勝てるという事だ。

 少な過ぎる数字だが、データの探究者はこれを無視しない。切り捨てない。

 自分はその1%に負け、あの男はその1%に勝ったのだから。

 思考する。思考する。

 最終戦を見に行けないエンターは、思考する。

 リューリの勝負を。手の中にあるデータで。

 思考データ思考データを否定し、思考データ思考データを補強し、データは堅牢になってゆく。

 満足のするまで思考を進めると、エンターはゆっくり目を閉じた。

 ——————怪我が治ったらコロッセオに行こう。僕のデータがどれ程確かか確かめたい。くくくっ、楽しみだ……




 ——————そして、リベンジは終わった。

 アシェッタ戦を終えたアマミヤは、軽い治療を受けた後、決勝戦を見ずに帰路についた。

 背後のコロッセオから、時折歓声が聞こえる。

 帰り道に人は少なく、道は広い。

 夜の風が向かい風で、アマミヤの前髪が揺れる。

 風に吹かれると、涙の跡がヒリヒリした。


「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 向かい風、深夜。

 近所迷惑も気にせず、アマミヤは叫び、走った。

「何時だと思ってんだクソガキ!」

「っるせぇぇよぉ!」

「ゴハァ!」

 路地から出てきた大男を殴り倒し、アマミヤはズカズカ進む。

 もうあの場所に戻れない少女は、遮二無二走る。


 気付けば空は紅蓮に燃えていた。

 それは段々と薄くなっていき、やがて晴れ渡る青空となった。

 9/2日、今日は秋晴れ。

 澄んだ空気の中、日差しだけがやけに熱い。

 走り疲れたアマミヤは草むらに仰向けに倒れると、日差しの眩しさに目を細める。或いは、睨むように。


「決めたっ!」




 ——————物語は終わった。

 だが、彼等の人生は続く。


 三年後。

 リューリ、アシェッタ、ドラッグ、エンター卒業。

 学園からフェードアウトしたボンは、隣国でのクエスト中見かけた奴隷の少女に一目惚れし、更に借金を抱えて逃避行していた。


 四年後。

 アマミヤがジークフリードとの約束を果たすために設立した大物専門ギルド『ジャイアントキリング』に、リューリ、アシェッタ、エンターが加入。

 アマミヤの天才性はギルド経営でも遺憾なく発揮された。


 五年後。

 ドラッグが薬事法違反で逮捕される。

 ドラッグ救出の為、ジャイアントキリングが動く。


 七年後。

 リューリとアシェッタが新居に引っ越した。


 九年後。

 相応の力を手に入れたジャイアントキリングは天使ザラギアに挑戦する。

 だが、ザラギアは法を犯しまくった結果指名手配され、Sランク冒険者数十名と戦い地下牢へ捕らえられていた。

 アマミヤが鉄格子越しに散々煽った後、ザラギアを簀巻きにして運び出す。

 エンターがデータを纏めた『辞典』という本を出す。大ヒット。


 十年後。

 約束を果たす為、最強のドラゴン、ジークフリードに挑戦する。

 捕らえていたザラギアをここで解放し、三つ巴の戦いとなる。

 離島四つを消し飛ばす激戦の末、ジークフリードとザラギアは海底火山の火口へと沈んでいった。


 二十年後、三十年後……


 命の炎が燃え続ける限り、彼らは戦い続けるだろう。


                   完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法学園最低ランクの俺がガチで全勝してる理由 ばらん @barann

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ