第5-09話 騎士と魔術師
「君がイグニ君か! よろしく頼むよ!!」
騎士団長、というものだからどれだけ厳つい男が出てくるのかと若干警戒していたイグニだが、出てきたのは気さくな男性だった。
「色々聞いてるよ? 何でも公国で聖女様を守り切ったんだろう?」
「ええ」
「それに、“咎人”も1人捕まえているとか。それにアリシア皇女とも仲がいいとか。期待しているよ!」
そういってイグニの背中をバンバン叩く騎士団長。
この期待してるって、どういう意味なんだろう?
と、強さ以外のことにも期待されているような気がするイグニは首を傾げるが、それよりも目の前にいる若い騎士が笑顔で立っているもの気になった。
「君はとても強いんだろう?」
「強いですよ」
「良い試合にしよう!」
……何で誰も彼もこんなに笑顔なの……?
イグニが助けを求めるようにアリシアを見ると、彼女は肩をすくめて教えてくれた。
「イグニは帝国が実力主義って知ってる?」
「一応、教わったけど」
「つまりね、強い人が偉いの」
「それが、どうこれに繋がるんだ?」
「何言ってるの。強い人と戦ったら、自分も強くなれるでしょ?」
「ああ、そういうこと……」
もしかして騎士団には
「イグニやろう! 今すぐやろう!!」
そう言うのは先ほどからテンション上げっぱなしの、新人騎士。
イグニの戦う相手だ。
なんかこのテンション見てると、ミコちゃん先輩を思い出すなぁ……と思いながらイグニは模擬戦場に足を踏み入れた。
模擬戦場の広さはロルモッド魔術学校のそれと比べてわずかに広い。
学生が使う模擬戦場ではなく、成人が使うためのものだろう。
魔術ではなく、『戦い方』を究めるための騎士たちがどこまでやれるのか、見せてもらおう。
イグニは気合いを引き締めると、頭の中を戦闘に切り替えた。
「よし、はじめッ!」
騎士団長の合図とともに、イグニは後方にバックステップ。
それと同時に目の前にいた騎士が踏み込んで、先ほどまでイグニが居た場所に剣を振り下ろす。
魔術師を倒すには、魔術を詠唱するよりも先に気絶させてしまえばいい。
それが魔術師との戦い方であり、故にイグニはそれを
「……ふッ」
短く息を吐きながら、自身の周囲に展開した5つの『ファイアボール』を新人騎士に向けて、
「『
撃ち込んだッ!!
「せイッ!!」
だが、新人騎士は大きく叫んで気合いを入れると同時に魔力を帯びた剣で5つの『ファイアボール』を弾く。
「こんなものか! イグニ!!」
「まさか」
ドドゥ!! と、弾いた『ファイアボール』が地面に着弾して、爆発。
爆風と爆炎が模擬戦場を支配する。
「『
そこに、1つの『ファイアボール』が生み出される。
赤から蒼へ。
魔力が込められ変色していくそれを、見逃す戦士はどこにもいない。
新人騎士は大きく踏みこんで、纏わりつく爆風と爆炎を追い払い大きく駆けた。
「剣士の弱点は、
イグニの紡ぐそれは、剣士であれば必ず抱える弱点である。
自分の知覚できる範囲全てが
だからイグニは、誘い込む。
イグニを木剣で切り裂こうとしている新人騎士の胸元に向けて、万全の初速度を保ったまま、
「『
ドンッ!!
凄まじい音を立てて撃ち込まれた『ファイアボール』が新人騎士の身体を後ろに吹き飛ばした!!
「
それで終わらせるつもりだったイグニは、後ろに吹き飛ばした騎士が立ち上がった時に流石に面食らった。
だが、しかし相手は打たれ強いことで有名な騎士だ。
優れた体力と受け能力によって国民の盾となる者たちである。
「……これを食らって立てるのか」
「おうとも!」
「流石だな。『
ならば、それ以上の火力で叩き潰すのみ。
イグニの目の前に生まれた先ほどよりも大きな『ファイアボール』を前に、新人騎士もイグニが何をしたいのかを理解したのか一気に距離を詰めてきた。
「シッ!」
そして、短く息を吐きながら抜刀。
だが、イグニはもはや地上にいない。
『
足元に数千の『ファイアボール』を生成して、空に浮かび上がる彼の技によって上空から新人騎士を狙っている。
空ぶった剣の行き先を探るように、上をみた新人騎士とイグニの視線が一瞬だけ交差して、
「『
キュド!!!
空気と擦れて摩擦音を唸らせていた砲弾が射出。
新人騎士は木剣を掲げて攻撃を防ごうとしたが、簡単にそれを砕くと新人騎士に激突した。
そして、騎士は衝撃に耐えきれず気絶。
「よし!」
遅れてイグニが着地。脇に控えていた治療班が近寄って騎士の身体を治す。
とはいっても、わずかに火傷があるくらいで目立った傷はない。
イグニも対人戦での手加減に慣れてきた頃合いだ。
「うむ! 流石だ! イグニ君!!」
部下を一瞬で倒したイグニに近寄ってくる騎士団長。
先ほどよりも微妙にテンションが高い。
「強いな! うむ! 強い!!」
どうして帝国の騎士たちはこうも大きな声を出すの……?
「その強さでこの若さ! 羨ましいな!!」
部下1人を気絶させた相手にニコニコで近寄ってくる団長。
少しサイコパス気味を感じるのは俺だけだろうかとイグニは考えた。
「これで十分でしょう」
「うむ! 申し分ない! 早速馬車を準備しよう」
「ん? 馬車ですか?」
竜車じゃないのか、とイグニが不思議に思って尋ねると、
「竜車は寒さに弱いのだ! それに、自分より強い竜がいると怯えてしまって動かんからな!!」
と、騎士団長から返ってきた。
竜車の思わぬ弱点を知ったイグニは「はぇー」と唸る。
「イグニ様。報酬についてなのですが」
「ん? 報酬?」
にこやかな表情のセバスチャンがやってくる。
「はい。我が国に降り立った竜の討伐に異国の人間を頼り、報酬を出さないとなれば帝国としての威厳に関わります」
「……報酬か」
女の子……それもアリシアにお願いされたことなので、素直にうなずいてしまったイグニは報酬については全く考えていなかった。
「はい。いかがいたしましょうか……?」
イグニの腹の内を探るように尋ねてくるセバスチャン。
「報酬というと、どんなものがありますか?」
「一般的にはお金ですな」
「金かあ……」
イグニの懐には大会での優勝賞金の残りがかなりある。
なので、別にお金には困っていない。
「お金には余裕があるのですか。ふむ、どういたしましょう?」
少し思案するセバスチャン。
だが、イグニはぽつりと呟いた。
「……獣人」
ぴくり、とセバスチャンの耳が動く。
「女の子、もふもふ」
続けて2言イグニが呟いた瞬間、セバスチャンは彼に手を差し出した。
「ええ。この爺やにお任せください」
優れた執事はニッコリほほ笑んで、胸を張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます