第4-20話 先輩と後輩
鉱山から出て、イグニはまっすぐ村に向かった。エリーナたちはいったん小屋で待機。ここは友達同士の方が話しやすいだろうと思って、気を利かせて残ってくれたのだ。
ということでイグニは村に戻る。
村に降りてすぐのところで、ユーリが老夫に付き添っていた。
「おじいちゃん。もう歳なんだから、そんなに動くと危ないよ」
「なぁに。ワシが若いころはもっと元気なジジィがたくさんおったんじゃ」
「ユーリ。今良いか?」
「あ、イグニ。うん。大丈夫だよ。じゃあね、おじいちゃん」
「うむ。君はユーリの友達かね?」
「はい。いつもお世話になっております。イグニです」
イグニは老人に向かって礼をした。
「いやいや、それはこっちのセリフじゃ。ユーリはワシの大切な孫じゃからの。よろしく頼む」
そう言って老人は頭を深く下げた。
孫。ということは、ユーリのおじいちゃんということだろうか?
それにしては、あまり似ていないが……。
「い、行こっ。イグニ」
「あ、ああ……」
珍しくユーリがイグニの袖を引っ張りながら、祖父から離れようとするのを見てイグニは彼のことを意外に思った。
「ところで、イグニ。どうしたの?」
「少し話したいことがあってな」
「うん、良いよ。どこで話す?」
「あまり人気が無いところが良い」
「じゃあ、イグニたちが泊ってる小屋にしようか。あそこなら、村の人たちはめったに入って来ないと思うし」
ユーリがそう言って、イグニの手を引いて小屋の中に入った。小屋の外でエラさんがイグニたちの洗濯物を干していた。感謝。
「それで、話って何かな」
「……ん。どっから話したもんかな」
イグニは机の上に手をついて、考えた。
そして、結局最初から話すことにした。
“
実はそれがモンスターではなく人の澱みだったこと。
そして、それがユーリを探していること。
「……ボク、を」
「それで、ユーリに聞きたいことがある。……その、言いづらかったら言わなくても良いんだが……何か、したか?」
「鉱山で……ってこと?」
「ああ」
ガタ、と音を立ててユーリが立ち上がった。
「ぼ、ボクは何もしてない!!」
「うおっ。わ、分かったよ」
急に大声を出すもんだからイグニは驚愕。
「悪かったって。俺だってユーリが何かをしたとは思って無い。ただ、何か手がかりが欲しかっただけなんだよ」
「手がかり……。そ、そうだよね。ごめん。大きな声だしちゃって」
「いや、良いよ。俺も聞き方が悪かった」
そりゃあ、意識を持つまでに成長した人の澱みのことを何か知っているかと聞かれたら、人によっては良い思いもしないだろう。イグニは聞き方が悪かったなぁと反省。こういうところはちゃんと出来るのである。
「でも……ごめん。ボクは何も知らない、かな」
「……そ、そうか。ありがとう、ユーリ。それで、何かこう……知ってることとかないか? あの鉱山であったことだ。こういうのも何だが、ユーリって名前も珍しいわけじゃないだろ? だから、ユーリと同じ名前の誰かが何かをやったって可能性もあるわけだし」
「……うん、そうだね。そうかも知れない。けど、ごめん。ボク、ずっと学校にいたから、あんまり鉱山のことは詳しくないんだ。イグニも、ボクに手紙がそんなに届かないこと知ってるでしょ?」
「そういえば、そうだな」
イグニはユーリの言葉に納得。
確かにユーリは村から手紙をほとんど貰っていなかった。
貰ったのは夏休み前に帰ってくるのか、と帰省を確認するものだけ。
冷静に考えてみて、ユーリが鉱山のことを知っているわけがない。
だが、あの人の澱みが言っていた特徴は間違いなくユーリのことだった。
だから、イグニはふっ……と息を吐き出した。
「ま、そういうことなら仕方ない。時間を取って悪かったな」
「良いよ。ボクとイグニの仲じゃないか」
ユーリはほほ笑む。
「その……いつでも、情報は待ってるからさ。何かあったら教えてくれ」
「うん。ボクもできるだけ協力するよ」
ユーリが手を差し出す。イグニもその手を取った。
「じゃあ、俺は戻るよ。ユーリもこっちで仕事があるんだろ?」
「仕事っていうか、農作業の手伝いだけどね」
ユーリはそう言って少し恥ずかしそうに笑うと、踵を返した。
「なぁユーリ」
「……どしたの、イグニ」
ユーリが振り返らずに応える。
「俺はユーリのことを大切な友達だと思ってる」
「ボクもだよ」
「
イグニの言葉に、ユーリがわずかに息をのんで。
「……やっぱりイグニは、かっこいいね」
それだけ言って、ユーリは小屋の外に出た。
イグニもしばらくして、待たせている3人のところに向かうため小屋を出た。
村の近くに鉱山があるとは言っても、わずかに離れているため片道で十分以上はかかる。その道を歩きながら、イグニがどうしたものかと考えていると、
「やぁ! イグニ君!! 元気してたかい!!!」
くっそデカい声が右側から聞こえてきて、イグニは心臓が止まるかと思った。
「おわっ! 声でっか!! 何!? 誰!!?」
「俺だよ!! 元気してたかい!!!」
「は、ハウエル……さん」
とってつけたように敬称をつけるイグニ。
「うむ! ハウエルだ! しかし君はエリーナと付き合ってるんだろう!? ハウエル兄さんでも良いぞ!!」
そう言ってガハハと笑う巨漢は間違いなく、アウライト家3男のハウエルだった。
「な、なんでここに?」
「なに! 君たちがちょっと心配になって飛んできたのさ! 俺も実家では暇でね!! 生きているなら安心安心」
「……どうも」
いまいち人柄を掴みかねているのでイグニは警戒しながら、適当に挨拶。そのまま離れようとした瞬間、ハウエルがにっと笑った。
「しかし、イグニ君。浮かない顔をしているね! 何か問題でもあったのかい!」
「問題って言うか……。困ってることはありますよ」
「教えたまえよ! ロルモッド魔術学校を全て首席で卒業した俺なら分かるかもしれないよ!!」
確かにそれは一理あるな、と思ったイグニは肝心要の部分を濁しながらあったことを伝えた。
「ふむ! 人の澱みが意志を!! それは面白い! ぜひとも俺の卒業研究にしたかった!!」
そういってまた盛大に笑うハウエル。
「しかし、イグニ君! 何がどうなって人の澱みが意志をもったかは知らないが、人の澱みがそこまで集まった理由は心当たりがあるぞ!」
「……本当ですか?」
「もちろんだとも! 先達を信じたまえよ! 後輩君!!」
そう言ってハウエルが胸をはる。
「……教えてもらってもいいですか」
イグニの脳裏にチクりと過去が刺す。
――――――――――――
『2つ目のお願いなんだが……三男のハウエルの鼻を折って欲しい』
『鼻を折る……? 天狗の鼻をってことですか』
『そうだ。あいつは今、とんとん拍子にことが進み過ぎて調子に乗っているんだ。ぜひ、イグニ君。ハウエルと戦って鼻を折ってくれないだろうか』
『それは、セッタさんがやれば良いのでは』
『私に負けたとて、あやつは挫折とは思わんだろうよ』
セッタが困ったようにパイプをふかす。
『少し前から、あれは少し手が付けられないのだ』
イグニはそれに困ったように顔をしかめてから。
『それを俺に頼むのですか』
と、返した。
――――――――――――
しかし、蛇の道は蛇だ。
イグニはハウエルに任せた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます