第4-6話 テストと魔術師
「よし、出来たぞ。見てくれ、エリーナ」
「ふむふむ。おっと、イグニ。ここの計算式間違えてるぞ」
「……あ、本当だ」
誰も使わないということで生徒会室を借りて、3人は勉強中。サラもいたのだが、3人の勉強を邪魔しないようにと端の方にいたのが、今では完全に眠り切っている。
「エリーナさん。これはどう?」
「うん。ユーリのは正解だ」
エリーナがいることで勉強の進みが早い早い。イグニは間違えた計算式を解き直していると、ふとエリーナのことが気になった。
「エリーナってさ」
「どうした?」
彼女は彼女でイグニたちが次に勉強をしようとしている場所の予習をしていた。彼女はとても頑張っている努力家だ。
「どうしてそんなに主席を目指すんだ?」
彼女はとても努力家で、成績や勉強に関することはひどく熱心だ。だが、それでも彼女の首席を狙う理由には何かあると思わざるを得ない。確かに首席になれば、この先の進路も明るい。だが、それにしてもエリーナの首席にこだわる姿勢には何かがあると思わざるを得ない。
イグニの問いかけにエリーナの黒い髪が揺れる。そして、彼女は考えるそぶりも見せずにすぐに答えた。
「それが、私の存在意義だからだ」
ただまっすぐ。イグニの赤い瞳を覗きこみながら、彼女は微笑んだ。
「そうか」
イグニはそれ以上、彼女に追及することは無かった。だから、ただ友達として出来るだけの
――――――――――――
それからエリーナとの勉強会は1週間みっちり続けた。イグニは首席を狙う者は普段からの勉強を頑張るだけではなく、テスト対策もしっかりと行うんだということを理解できる良い一週間であった。
そして、1週間経ったということは試験開始である。
ロルモッド魔術学校のテストは大きく2つに分けられる。
1つ目は紙で渡された問題を解いて、その正誤を問うペーパー試験。
2つ目は錬金術や
イグニたちは前回の試験をクエストの参加者ということで免除されたが、今回はクエストがないのでしっかりテストを受けなければならない。さらにイグニは紙の試験を通さずに入ってきた特別生なので、ペーパー試験での成績を問われない。
だが、2つ目の試験の成績は求められるのだ。
イグニたちがいるのは実技棟、錬金術部屋の中。
3人チームに分けられて、大釜の前に立たされていた。
「今日のテストは中級治癒ポーションの生成です。試験期間は90分の砂時計が落ちるまで。では、試験開始」
最前列にいた教師が砂時計をひっくり返すと、イグニたちは試験に取り掛かった。
イグニのチームはエドワードとイリス。前回のクエスト組だ。
「中級治癒ポーションの生成は難しくない。落ち着いてやれば良いからな!」
エドワードがそう言って、大釜の下にある魔導具のスイッチを入れた。次の瞬間、魔石を燃料して熱が生まれて大釜の中にたっぷり入った水に熱を加える。
「ポーションの位を決めているのは薬草の質もあるが、きっちり時間を計って薬草の成分を抽出しないといけないんだ」
エドワードがそう言っている間に、イグニは山のように積まれた薬草の中から質の悪いものを弾いていく。『魔王領』で負った傷はルクスの持っていたエリクサーで治していたが、いつでもそれが使えるわけではない。
だから、怪我を負ったままでモンスターと戦うことも少なくなかった。そのため、『魔王領』にある薬草の中から質の良いものと悪いものを見分ける能力は必然的に身についた。
「こっちの薬草の方が質の高い薬草だ。こっちを使ってくれ」
イグニは間違えないように質の悪い薬草を別の場所に移動。
「もう沸騰しているよ。エドワード、中級治癒ポーションの抽出時間は?」
「22分30秒だ」
「分かった。作るね」
イリスはそう言って、22分30秒が図れる砂時計を
「イグニ様、入れてください」
「ああ」
イグニは薬草を網で包むと、薬草を沸騰している大釜の中に入れた。同時にイリスが砂時計をひっくり返す。だが、ただそれを待っているわけでは無い。ポーションの即時治癒能力を引き出すために、これから色々と細工をしなければならないのだ。
だが、その準備をする時間はたっぷり20分ある。
エドワードが覚えている材料をイグニの目利きと、イリスが生み出した秤で適切な量だけ取り出して大釜に入れていく。
すると、水の色がわずかに変色し始めた。
「よし。ここで、火を消してあとは余熱でしっかり煮出すぞ」
エドワードが大釜の下にある魔導具のスイッチを押して、熱を消す。砂時計の砂が全部落ち切るまで暇なのでイグニが教室の中を見渡すと、うまく行っているチームとそうでないチームで両極端にわかれていた。
上手く行っているチームはイグニたちと同じように薬草から成分が抽出されるまでの時間を暇にしているか、その手前で一生懸命材料を入れている。上手く行っていないチームは、大鍋から噴き出していたり、煮汁が茶色く変色していたりと大変そうだ。
「イリス。今のうちにガラス瓶を作っててくれないか?」
「分かりました! イグニ様」
そういってイリスがガラス瓶を生み出す。【地】属性の魔術は瞬間的な火力には見劣りするが、防御術や小回りは効きやすい属性だ。イグニにはできないそれを、凄いと思いながら見つめた。
「できました!」
適性Sということにかまけず、何だかんだで普段から努力しているイリスはそう言ってポーションを入れるガラス瓶を生み出した。
「流石だな」
「ありがとうございます!」
まるで犬がしっぽを振っているかのように、笑顔になるイリス。動物で例えたら間違いなく犬だ。可愛い。
砂時計にはしばらく余裕がある。暇になったイグニが外を見ると、ちょうどCクラスが実技の魔術試験を行っていた。
ちょうどエリーナの番が回ってきて、圧倒的な成績を残していた。流石はエリーナだ。頑張っている。
「イグニ。そろそろだぞ」
「ああ」
エドワードの声で教室に意識が戻される。
エリーナも頑張っているんだから、俺も頑張らないとな。
イグニは気合いを入れると、砂時計の砂が落ち切ると同時に薬草を取り出した。
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