第3-09話 合宿と魔術師

「みんなぁ。来週に迫ってきたからね、ちゃんと言っておかなきゃいけないことがあってねぇ」


 エレノア先生の間延びした声がHR中に響く。


「来週から、二泊三日の合宿があるのぉ」

「……合宿」


 合宿??


 イグニの中で何かが高まる。


 元々は学校生活の中でキャッキャウフフなことがしたくてこの学校に入ったはずだ。だというのに、やっていることは“極点”と戦ったり『聖女』を助けたり。


 確かにモテへの行動に繋がっているのはいいのだが……もっと、こう……明るいイベントがあっても良いんじゃないだろうか……。


 そう思っていた矢先にこれが来た。


「合宿といってもねぇ。王都の端の方にあるフロントルの森でねぇ。サバイバルをしてもらうのぉ」


 ……あれ?


 なんか思っていた合宿と違ってイグニは首を傾げた。


「合宿目標はぁ、生き残ること。それでね、時々クエストが出て……それを達成したら加点しちゃうのぉ」


 そういってエレノアがほほ笑む。


「い、生き残ることって……危ないのかな?」


 隣にいたユーリがこそっと話しかけてくる。

 

 ちなみに席の並び的には、イグニの隣にユーリだったのだが今はイグニとユーリの間にサラがぽつんと座っている。


 授業中はイグニの隣に座って、頑張って文字を覚えている健気な良い娘である。


「危ない……んじゃないか? 俺はフロントルの森についてよく知らないんだが……」


 少なくとも『魔王領』よりは安全なんじゃないだろうかと考えるイグニ。


「だからぁ。みんなには、班分けでね6人班を作って欲しいのぉ。ほらぁ、ウチのクラス。リリィちゃんも含めてちょうど6人班作れるでしょう?」


 班分け!!


 イグニは1人で盛り上がった。


 このクラスにいる男は5人……っ!


 すなわち、イグニ、エドワード、エドワードの取り巻きA、エドワードの取り巻きB……あと入れたくないけどユーリッ!!


 代わりに女の子は25人……っ!!

 ロルモッド魔術学校が『女子校』と揶揄やゆされたように、優れた魔術師は女性が多く……したがってこの学校にいる学生のほとんどは女の子……っ!


 イグニの頭が高速で回転していく。


 もしエレノア先生が均等に生徒を割り振るのだとしたら、男5人はそれぞれ別の班に配属されるということになる。


 そうなれば6人班のうち、5人が女の子で1人が俺だけ……っ!!


 これは……勝った……っ!!!


「じゃあ、みんなぁ。適当に班決めて良いからぁ」


 エレノア先生がそう言うと、


「い、イグニ。一緒に班を組まない?」


 そうユーリが聞いてきて。


「お、おう……。良いぞ」


 と、友達の頼みを断るわけにも行かないのでイグニは承諾。


「じゃあ、私たちで班を組みましょ」

「私も入れてください! イグニ様!!」


 ということでアリシアとイリスも参加。


「あの……わっ、私も、一緒に入って、良いですか?」


 と、ちょっとだけクララっぽい喋りになったリリィも入ってきた。


 速攻で5人埋まってしまったので、あと1人誰か女の子を入れたいなぁ……と、思っていたところ、


「お、おい! 人が足りないなら入ってやっても良いぞ!」

「え、エドワード……っ!」


 エドワードがやって来た。


 確かにコイツは良い奴だ。

 良い奴なのだが……今じゃないッ!! 


 今じゃないんだ! エドワード……ッ!!


「べ、別に不満があるなら入らないが……」

「おい! エドワード様はお前らの中に治癒師ヒーラーがいないから心配してたんだぞ!」

「そうだぞ! サバイバルなら治癒師ヒーラーは必須だからな!」


 エドワードの取り巻きたちがそう教えてくれる。


 な、なるほど……。確かにそれは一理ある……。

 と、唸ってしまうイグニ。


「じゃ、じゃあエドワードにお願いする? イグニ」


 ユーリがイグニにエドワード参加の許可を取ってくる。


 確かにここでイグニがエドワードの参加を拒否する強い理由はない。


 ただイグニが女の子と組めなくてちょっと嫌な思いをするだけである。それにエドワードは治癒師ヒーラー。人材としては確実に欲しいところだ。


「じゃ、じゃあ……頼むよ……。エドワード……」


 ということで、残りの1名はエドワードに決定。

 同じクラスにいる男5人のうち、3人が1つの班に集まるという形になってしまった。


 イグニは人知れずひどく落ち込んだ。



 ――――――――――


 一週間が経った。


 場所はロルモッド魔術学校から遠く離れたフロントルの森。ロルモッド魔術学校の1年生たちが毎年のごとく行っている恒例のサバイバル合宿である。


 フロントルの森が通常の森と違って目を引くのは、やはり大樹の存在だろう。


 高さが50mを超えるような巨大な樹木がそこら中に乱立しているのだ。

 

「みんなぁ、クエストロールは持ったかなぁ? 時々それにクエストが出るからぁ、余裕がある人は達成してねぇ。じゃあ、先生たちはぁ、3日後に来るから……それまで頑張ってぇ」


 そう言って、エレノア先生が馬車に乗って帰っていく。


「1年生でサバイバルやるのかと思ってたらD組だけなんだな」


 と、言ったのはイグニ。


「AからCまで他の組は全部終わったんでしょ? ま、良かったじゃない。そんなに数も多くなくて」

「だな。あんまり数が増えても喧嘩とか起きそうだし」


 イグニはアリシアと喋りながら、大樹の根が隆起している場所をサラを抱きかかえて歩く。


「ねえイグニ。その娘もついてきてよかったの?」


 サラはアリシアと自分の間に必ずイグニを挟みながら移動する。


「んー。いま精神的に不安定になる方が危ないって先生たちが言ってたから。どっちかっていうとエレノア先生が勧めてきたんだよ。サラと一緒に合宿するの」


 長い間眠っていたから、イグニたちほど体力は無いはずなのに一生懸命歩幅を合わせて歩くその姿が愛おしくてイグニはサラの頭をそっとでた。


「大変ね」

「そうでもないさ」


 しばらく森の奥を目指して進んでいると、川が流れていたのでイグニたちは喉をうるおすと、その周辺を拠点キャンプにすることにした。


 エドワードとユーリがテントを建てる間、イグニたちは食料調達。


「イリス、動物の足跡があったら教えてくれ」

「はい! イグニ様!」


 疲れてしまったサラを抱きかかえて、イグニは狩りの真っ最中。


 二手に分かれて獲物を捜索そうさく中だ。


「あ、イグニ様! ありましたよ!!」

流石さすがはイリスだ」

「いえいえ、それほどでもありません!」


 そう言って胸を張るイリス。


 イグニはその足跡を見て……イリスを掴んでしゃがみこんだ。


「えっ。イグニ様……。強引♡」


 喜んでいるイリスをよそに、イグニは周囲を警戒。


 そして……ドンッ!!!


 と、大樹に何かが激突する音が響いた!


「なっ、なっ、なんですか!? イグニ様!」

「バレットラビットだ……ッ!」

「バレットラビットって……。足跡をあえて見せて、狩人を狩るって言う……あの?」

「正解!」

「も、申し訳ないです……。私のせいで……」

「何を言ってるんだ?」

「えっ?」


 イグニは本気で『?』の顔。


「イリスのおかげで食料を探す手間が省けたんじゃないか」


 イグニは『ファイアボール』を生成。


「『装焔イグニッション』」


 そして、魔力を込めた。


「『迎撃ファイア』」


 音の速さでイグニに接近するバレットラビットの頭を、イグニは綺麗に撃ち抜いた。


「わぁ……」


 イリスとサラが2人そろって声を上げる。


「もう何匹か狩って帰るか」

「は、はい!」


 イグニは知らぬ間に2人からの株を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る