第3-08話 新しい入会者!

「うぇッ!? イグニ! 誰だその子!?」

「サラです。今学校で保護してる娘ですよ」

「学校で? ああ、そういえばエレノア先生が言ってたな」


 放課後、生徒会の教室に入るなりミコちゃん先輩が大声でサラを指さした。


「どうにも懐かれちゃったみたいで」

「へー。子供に好かれる男だとは思わなかったけどなぁ」

「ちょっとミコちゃん先輩。失礼ですよ」

「ははっ」


 ミコが笑う。


「で、なんでそんなにお前にくっついてんの?」


 ミコちゃん先輩が指さしたのはイグニの後ろに隠れるサラ。


「人見知りなんです。先輩と初対面だから恥ずかしいんだと思いますよ」

「おう? まあ、オレは子供にゃ好かれねえからなあ」

「嘘っだぁ。ミコちゃんは子供大好きだし、お世話も得意じゃん」


 横から突っ込んだのは書類仕事をしていたミル生徒会長だ。


「ミコちゃん先輩、そうなんですか?」

「あー。オレは孤児院出身だからな……」

「ミコちゃんなんで嘘ついたの?」


 こてっと首を傾げるミル会長。可愛い。


「おまっ……。そう言わないとショックがデカいだろ」

「何だぁ。そんなこと気にしてたの。可愛いなあ」


 そういってにこにこ笑うミル会長。可愛い。

 あと顔を真っ赤にして恥ずかしがるミコちゃん先輩も可愛い。


「で、いつまで預かっとくんだ?」

「今のところ決まってないっぽいです」


 サラは身寄りのない子供だが、このまま孤児院に預けるわけにはいかない。


 何故なら、


「腕輪? 何だかいかつい腕輪つけてるんだな」

「あ、これは魔導具です。触っちゃだめですよ」

「ふうん? 体質か?」

「そんなところです」


 帝国の魔導具がないと、まともに外にも出られないのだから。


「どんな魔導具なんだ?」

「魔力を抑制する……とか何とか。サラは魔力が身体から勝手に抜けちゃう体質なんです」

「あー、何だっけ。そんな病気あったよな」

「そうなんです。これはその治療で……」


 なのでイグニはエレノアが作った偽情報カバーストーリーを丸々説明した。


 曰く、サラは魔力放出をコントロールできない難病である。

 サラはその病気の研究と治療のために学校で保護されている。

 イグニに懐いているので、学校見学も含めてある程度の同行が認められている。


「………」


 サラはイグニの後ろに隠れながら、ミコとミル。そして……生徒会室の端っこの方にぽつりと座っている包帯でグルグル巻きになったヴァリアを見た。


「おなまえ……は?」


 そして、サラは震えるような小さい声でそう尋ねた。


「名前か? オレはミコだ!」

「私はミルだよー。よろしくね」


 サラはぺこりと頭を下げる。


 ちょっとだけ言葉を聞いたミラ曰く、サラが喋っているのは100年以上前に実在北の国の言葉らしい。『魔王』のせいで消えてしまった国だ。


 なぜサラがその言葉を喋れるのか。

 どうしてあそこに閉じ込められていたのか分からない。


 聞こうにも、その国の言葉を喋れる人はほぼいない。


 なので、サラに共通語を覚えてもらうことになったのだ。


 とはいっても数日で覚えられるような言葉は少ない。

 今は幼児用の学習教材で基礎を学んでいる。


「そいや、イグニ。新しい体験入会者がいるぜ」

「体験入会者? 俺とユーリ以外のですか?」

「そうそう。そこのヴァリアが引っ張ってきたんだ」


 包帯でグルグル巻きになったヴァリア先輩がイグニの視線に気づき、ピースをする。


 相変わらずどんな人なのか分からない人だ。

 シルエットからかろうじて女の人であることが分かる、がそれだけである。


「誰なんです?」

「そろそろ来るんじゃないか?」

「お、遅れてごめんなさい! ここが生徒会室で合ってます!?」


 と、入ってきたのは。


「り、リリィ!?」

「イグニ!」

「あ、ボクもいるよ」


 ユーリがリリィを連れて生徒会室にやって来た。


「え!? じゃあ、体験入会って!」

「エルフの国からの留学生。リリィちゃんです!」


 ミル会長が書類を書く手を止めることなく、そう言う。

 パチパチと気の抜けた拍手を送るヴァリア。


「リリィも生徒会に入るのか! 一緒に頑張ろうな」

「も、もちろんです!」


 胸を張るリリィ。


「じゃあ、今日の見回りはイグニくんとリリィちゃんが組んでやってきてもらっても良い?」

「あ、あのボクは?」

「ユーリ君はミコちゃんと戦闘訓練。生徒会メンバーは強くないとね」

「は、はい……」


 戦闘系の魔術が一切使えないユーリは顔を真っ青にして頷いた。


 ということでリリィとイグニとサラは3人で見回りに向かったのだが、


「サラちゃん。私には全然顔を見せてくれないんですけど!」


 開始早々不満が飛んできた。


「人見知りだからな」

「おかしくないですか!? イリスとユーリにはあんなに笑顔を見せてたじゃないですか! あと、エドワード!!」


 少しだけ不満を見せるリリィ。

 もしかして子供が好きなんだろうか?


「お、怒るな怒るな。多分、エルフが珍しいからじゃないかなぁ」

「珍しい……。確かに、言われてみれば」

「ミラ先生に初めて会った時も怯えてるっぽかったし、そういうことなのかもな」


 イグニの脚にしがみついたまま、顔を伏せるサラの頭をなでてイグニはサラを抱き上げた。


「……ん」


 くすぐったそうにサラが笑う。


 廊下を歩いている生徒たちは子供を抱きかかえているイグニを奇異の目線で見るどころか、何事も無かったかのようにスルーする。


 この学校の放課後になれば、子供を連れていることくらいは珍しいことにも入らないのだ。


「そういえば、リリィ。見回りって何するか聞いてるか?」

「ま、まだ聞いてませんでした……」

「見回りってのは、部活動が何かしらやらかした時とか……やらかしそうな時に止めに入るんだ」

「やらかしそうって……。ここ学校ですよね? そんな変なことは起きないんじゃないんですか?」


 と、首を傾げるリリィは数日前のイグニと全く同じリアクションである。


「いや。やらかすんだ。要注意なのは生物研究部と、魔術薬学部、ゴーレム開発サークル、あとは召喚部……。他にもいろいろあるけど、ここら辺に気を付けてれば……」


 ドン!!!


 と、落雷のような衝撃音がグラウンドから鳴った。


「多分、どっかがやらかしたな」

「ちょっと!? なんか対応するの早くないですか!? びっくりしてるのは私だけなんですか!!?」


 涙目で驚くリリィ。


「大丈夫だ。すぐに慣れる」


 イグニたちはグラウンドに向かう。

 サラもびっくりしたのか、イグニに強く抱き着いてくる。


「リリィ。得意な戦闘スタイルは?」

「接近戦です!」

「分かった。そこは任せる」


 やり取りをしながら外に出ると、ビックリするくらいの笑顔をした女子学生が走ってきた。


「失敗しちゃった!」

「分かった」


 あれはゴーレム研究サークルの1人だったと思う。


「ちょっと!? なんで失敗したのにあんな笑顔なんですか!」

「俺にも分からん」


 否定する男はモテないので全てを受け入れているだけである。


 グラウンドにいたのは暴れまわる1体のゴーレム。


 大きな着地音があるので特別棟の方を見ると壁を突き破った痕があった。おそらく、ゴーレム研究サークルの部屋を突き破ってグラウンドに飛んだのだろう。


「イグニ。ここは私に任せてください」

「だ、大丈夫か?」

「はい。かっこいいとこ見せます」


 そう言ってリリィは短剣を取り出した。


 そして、地面を蹴った。


「『押し出せプロテロ』!」


 遅れて爆風が吹き荒れてリリィの身体を押す!

 そして、己の身体を風に任せたリリィはゴーレムのコアを貫いた!!


 ……見え、見え…………。


 風が吹き荒れ、リリィのスカートがはためく。


「ふふん。どうですか。すごいでしょう!」


 ……見えた……ッ!?


 崩れ落ちていくゴーレムを背景に、


 リリィはドヤ顔。

 イグニは歓喜した。

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