第2-26話 撃退の魔術師
(くノ一の子は魔力をどうにかして『ファイアボール』を防御したな……)
イグニは一生懸命抑えられて形が変わっているおっぱいを一生懸命見ないようにして……でもチラチラみながら考える。
(この子は【地】属性の魔術師。【地】属性は一番防御力に秀でた属性のはず……)
「動けないです! でも聖女は捕まえたいです……」
「何のためにローズを捕まえるんだ?」
「お金に決まってるです!」
(でも、あえて【地】属性の魔術を使わなかった。そこに意味があるのか……?)
「お金か……。お金なら多分、払われないぞ?」
「え? 何を言ってるです? おかしいです!」
「だって依頼を出したのってクロ……『魔族』だぞ?」
「それが何だって言うんですか! お金さえもらえればこっちは何だって良いです!」
「『聖女』奪還をするなら金貨150枚出して確実性の高い傭兵を雇わないか? それも複数人」
「……はぅ?」
首を傾げるくノ一の少女。
イグニの頭が珍しく回っているのはモテているという実感がわいているからである。
それ以外にない。
「知らないかもしれないが、クロが雇った傭兵は“支配”のマリオネッタただ一人だけ……。相当、高い買い物だっただろうが……金貨150枚を追加で払うならもう1人や2人雇ってもおかしくない。そうだろ?」
「む! それはおかしいです! 『魔族』が依頼者だったから引き受けなかっただけかも知れないです!」
「金さえもらえれば故郷にすら弓を引くのが傭兵だぞ?」
くノ一は忠義に厚いという話を聞いたことがあるから、そこら辺の考えとズレるのだろうか?
「……むむむ! おかしいです! 騙されたです」
「で、どうする?」
「むー!!」
くノ一の少女はそう言って、逃げ出した。
そして、そのまま街の方向に向かっていく。
(良い物が見れた……)
何だかんだで心に正直な男は、次に姉妹を向く。
「……で、誰なんだ。アンタたちは」
「私たち? フリーの傭兵だよ!」
リリィと戦っていた『姉』の方が答える。
「『聖女』の情報を掴んだからやって来たんだ! どっかに売り飛ばせばお金になるかなって!」
「……金に困ってるのか?」
「んー? 別に??」
しかし、姉の方は笑いながら返した。
「『聖女』の誘拐なんてしたら歴史に名前が残るじゃん? だからだよ!」
「悪いが、それは阻止する」
イグニはそう言って、リリィがバックステップするのと入れ替わるように前に出た。
「『装焔(イグニッション):重装化(ヘヴィ)』」
イグニの生み出した『ファイアボール』は3つ。
それら全てに尋常でない魔力が蓄えられ、重くなる。
「『砲撃(ファイア)』」
「『融影(ロスト)』」
イグニの詠唱と同時に詠唱したのは後ろの『妹』。
次の瞬間、イグニの撃ちだした『ファイアボール』はドロリ……と、融けるとそのまま地面に消えて行く。
「【闇】属性か……!」
イグニがうめく。
「ありがとう! 妹ちゃん!」
「姉さま! 前見てください!!」
「……妹のこと、妹って呼んでるのか?」
イグニはちょっと引きながら返す。
「うん。だって本当の妹じゃないから」
姉の方が前に飛び出てくる。
右手には短剣。刀身がわずかに発光している。
ダンジョンから手に入れた特別な武器だろうか。
「拾った子か?」
その短剣を器用によけるイグニ。
『魔王領』での特訓からすると、あまりに振りも速度も遅い。
「違うよ! キャラ付け!」
「きゃ、キャラ……?」
「そう! 冒険者にも、魔術師にも英雄がいるように、傭兵にも英雄がいるの!」
「それは……そうだな。いるな」
一歩間違えれば命が飛びかねない戦いの場において、2人は平然と言葉を交わしあう。
「しかも今の時代、冒険者から傭兵になってる人がすっごい多いんだよ! だから、仕事を貰うのだって大変なわけ! 分かる!?」
「……まあ」
魔術師からすると自分へのクエストが来ないようなものだ。
だから、色んな所に自分の実力をアピールしなきゃいけない。
「だから私たちは名前を上げるためにあの手この手で頑張ってるってわけ! というわけでさッ!」
刹那、持っている短剣が発光。
「『聖女』渡してくれないかなッ!」
「駄目に決まってるだろ」
「じゃあ斬る! せいッ!!」
姉の方が短剣を縦に振った。
ヒュパ!
と、イグニの耳に届いたのは空気が斬れる音。
イグニが斬撃の跡を見る。
そこには雲が斬れており、大地が避けており、まっすぐ地平線の果てまで斬撃の跡が残っていた。
「ありゃ!? ズレた!」
「ちょっと姉さま!」
「イグニ様。姉の相手は私がします」
『姉』が振り下ろした後に生まれた隙を縫うようにして、フローリアが飛び出す。片手剣を手に姉と打ち合いを始めた。
「お願いします!」
イグニはそう言うと、『姉』の横を通り抜けて『妹』の前に向かう。
「降伏しろ」
「まだ姉さまが戦っています!」
「……なるべく痛くしないからな」
「なんでもう勝ったつもりなんですか! 『捕影(バインド)』!」
シュルル!
と、イグニの影から足に向かって影が伸びると足を掴んだ。
「『装焔(イグニッション)』」
「またですか! 『ファイアボール』なら融かしますよ」
「『発射(ファイア)』」
「だから融かすって――きゃあっ」
先ほどとは違ってイグニは地面に発射!
大地を吹き飛ばすと2人の身体を吹き飛ばす!!
刹那、地面が崩壊してマリオネッタが生み出した工房へと『妹』の身体が落ちていく。
「『装焔機動(アクセル・ブート)』ッ!」
イグニは空中を直線で移動すると、『妹』の身体を拾い上げる。
「……降伏しないと、ここから落とす」
「ひっ……」
『妹』の方は真下を見て黙りこくった。
そんなものは当然嘘である。
だが、『妹』の方からするとそれは事実に聞こえてしまう。
地面までは20m近く。
ここから落ちれば魔術師であっても無事じゃすまないだろう。
「聞いてるか! 姉の方!!」
「あーっ! 人質取るなんて卑怯だよ!」
「ローズを攫(さら)おうとしてたやつのセリフじゃないだろ」
「ぐぬぬ……。分かったよ! 降伏する!! だから妹ちゃんを返して!!」
フローリアはその言葉を聞いて、剣を止めた。
『姉』の方も短剣をしまい込み、両手を上げる。
「ほら! 武器をしまったから返してよ!!」
「分かった」
イグニは『姉』の近くに移動して、『妹』を解放した。
「しょうがないからここで退散するけど!」
「ああ。そうしてくれ」
「その前に自己紹介を聞いていきなさい! 私は“白”のラニア!」
「え、姉さまここでやるんですか!?」
「爪痕残さないと!」
「わ、私は“夜(くろ)”のニエ!」
「二人合わせて」
疑似の姉妹は「せーの」で息を合わせると、
「「“白夜(しろくろ)姉妹”!」」
ばーん!
と、『姉』であるラニアが胸を張り、『妹』であるニエはおずおずと胸をはる。
「ちゃんと覚えててよね!」
ラニアがそう言い残し、2人は影に消えて行った。
「な、何だったの……?」
残されたメンバーに沈黙が降りる中、ユーリが全員の気持ちを代弁してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます