第2-25話 そして師匠を超える者

「……え?」


 涙をためた目でイグニの顔を見るリリィ。


「だから、もう泣かないで」


 そっとイグニはリリィの涙をぬぐった。


「イグニ……?」


 イグニは既に覚悟を決めている。


「嬉しいんだ。リリィが、俺のために動いてくれたことが」

「でも……っ。でも! 私のせいで『聖女』様が……っ」

「良いんだ。それはもう終わったことだから」


 イグニはリリィを抱きしめる。


 ――――――――――

『イグニよ』

『何だよ。じいちゃん』


 それは『ファイアボール』しか使えないイグニが魔術を極めた瞬間だった。


『お前はどういう人間がモテると思う?』

『……強い男じゃないの?』

『それは……1つでしかない。あくまでも、要素のな』

『……どういうこと?』

『モテる要素を複数もった人間……。そっちの方がモテるとは思わんかっ!?』

『それは……っ。そうかも……!?』

『うむ。じゃからの、イグニ。良く聞け。モテる男とはな、いくつかあるが次にお前が目指すべきは……っ! 口説きじゃッ!!』

『く、口説き……!?』

『そうじゃ! 強さをお前は、次に女に対して価値を提供できる男にならねばならん……ッ!』

『か、価値……っ!?』

『そうじゃ……ッ! 心して聞け……それはな……ッ!』

『そ、それは……っ!』

『“一緒にいて楽しい男”じゃッ!』

『“一緒にいて楽しい男”!?』

『そうじゃ! 辛いときを明るく笑い飛ばし! 一緒に居て元気がもらえる……ッ! そんな男はモテる!!』

『……ッ!?』

『故にッ! モテの極意その6ッ! ――“喋りが上手い男はモテる”じゃ』

『じ、じいちゃん! 俺、馬鹿だよ!? 面白いことなんて言えないよ!!?』

『知っておる。じゃが、お前は最初から『魔法きせき』が使えたか?』

『で、でも! 無理なものは無理だよ!』


 バチンッ!!!


『やる前から諦めるなァッ!!』

『……っ!!!』

『手にするのじゃ……。“奇跡まほう”を……っ!』


 ――――――――――


 ……これは、不完全だ……っ!!


 イグニは誰にも知られないように歯を食いしばる。


 言葉は魔術のように目に見えるようなものじゃない。

 鍛えれば鍛えた分だけ確実に成長する物ではない。


 しかもこの技術は未だ不完全……っ!

 誰もいない『魔王領』で鍛えられる物ではないのだ……っ!


 しかし、やるしかない……っ!

 やらねば……女の子が、泣く……っ!!


「リリィ、聞いてくれ。俺の母上は、俺を産んでからすぐに死んだんだ。それで、12の時に父上から家を追放されたんだ」

「……イグニ?」

「だから、誰かが『俺のために』やってくれた経験ってのは……少なくてさ」


 相手が苦しんでいるなら、それを上向きポジティブに書き換える。


 ……俺に出来るか?


 いや。


 やるんだ。


「だから、嬉しかったんだ。リリィが動いてくれたことが」


 優しくほほ笑む。


「リリィ。そんなことされたら、好きになりそうだよ」


 そして、そっと手を握った。


「……イグニぃ」


 リリィは顔を真っ赤にしてイグニを見つめる。


「だから、リリィ。俺からのお願いだ」

「うん」

「あそこの姉妹を……相手に出来る?」

「うんっ」

「頼んだ」

「任せて!」


 リリィは涙を拭いて、笑顔を浮かべると『彗星メテオ』による『ファイアボール』にあたふたしている姉妹に向かっていった。


 リリィは強い。

 足止めは出来るはずだ。


「さっきから何をブツブツと言っていたの。イグニ」

「お願いをしてたんだよ」

「お願い? 何の??」

「俺とローズが2人きりで喋れるように……ってね」


 イグニは優しくほほ笑む。


「しょ、しょんなこと言っても許してあげないんだからぁ……」


 顔を真っ赤にしたローズが慌ててイグニを怒る。


「良いよ。許してくれなくても」


 だからイグニは、それに乗る。


「ローズは俺をどうしたい? 殺したい?」

「ううん……。死んだら……嫌ぁ」


 ローズはそう言って、イグニのもとにやってくる。


「私ね、イグニのことが好きなの」

「ありがとう」

「だからね。ずっと一緒にいたいの」

「いいよ」

「でも…………えっ?」


 ローズの目が驚きに見開かれる。


「俺は言っただろ? 『聖女』の任務からローズを解放するって」

「あ、あれは『魔族』を騙すための嘘でしょ……?」

「違うよ。俺はのために考えたんだ。ローズために」

「私……だけの……ために……?」


 ローズの瞳がとろんととろける。


「3年。待っててくれて、ありがとう」

「ううん。良いの」

「だから、ちょっとだけ待ってて欲しいんだ。俺が『魔王領』から、『魔王』の死体を持って帰ってくる時まで」

「待つ! 私、待つ! イグニが戻ってくるのを!!」

「そしたら、一緒に居れるな」


 イグニはそう言ってローズの目を見つめて、にっこり笑う。


 『彗星メテオ』は既にイグニたちの頭上まで落ちてきている。


「すぐに終わらせるよ」


 だから、イグニはそれを――消した。


 『彗星メテオ』はあくまでも威嚇に過ぎない。

 見た目を活かしたパフォーマンスに過ぎない。


「消えたです!?」


 そして、息を大きく吸い込むと、


「行くぞッ! 『ファイアボール』ッ!!」


 次の瞬間、天を覆うほどのの『ファイアボール』が発動!


「32768個の『ファイアボール』。そして……『装焔イグニッション追尾弾ホーミング』」


 くノ一の少女、そして新しく乱入してきた姉妹。


 その魔力を登録する。


「姉さま! 逃げないと!!」

「この子強いんだよっ!」


 リリィと戦っている姉の方がそう叫ぶ。


 妹の方は焦った様子を浮かべる。


「【金剛不壊】の型、です」


 くノ一の少女は逆に地面に両足をどっかりつけると、魔力をおこして……まとった。


「仕方ないです! 姉さま!! 緊急避難しますよ!」

「え!? あれやるの!!?」


 姉妹が逃げの姿勢を取った瞬間、


「『爆撃ファイア』」


 イグニはその『ファイアボール』全てを落とした。


 ズドドドドドドドッッツツツツ!!!!


 巨人族であるローロントの足踏みを思わせるような大地の揺れと爆撃音!!

 3万を超える膨大な『ファイアボール』がたった3人に向かって降り注ぐ!


 衝撃波が衝撃波と干渉しあい、地獄さながらの光景が描かれた。


 そして、


「……強い、です」


 服がボロボロになったくノ一の少女が、そう漏らした。

 意外と大きなおっぱいが両腕からこぼれないように抑えている。

 

 しかし、身体に大きなダメージはない。


「あっつぅ。逃げ遅れちゃったね」

「だからもっと早く逃げるべきだったんです!!」


 ドロり、とから這い出す2人の少女たち。


「ほら! 私が運命を導いたのは“極点”級の魔術師たちだよ! そんな簡単に終わらないからね!」


 いつの間にか縄で拘束されているクロが叫ぶ。


「……なるほどな」


 イグニはそれら全てをみて、1人で頷いた。


「イグニ! 3人とも無事だよ!?」

「いや。大丈夫だ。は終わったからな」


 イグニはユーリの言葉に自信を持って返す。


(目の前のおっぱいなんぞで……心が惑わされることは無い……っ!)


 イグニはくノ一の少女を見ながら、心の中で気合を入れる。


(俺は今……モテてるんだ……ッ!!)


 やる気ゲージも体力ゲージもかっこつけゲージもイグニが持ち得るプラス思考の全てがMAXを振り切っていた。


「む~! 戦えないです!」


 でも、何だかんだでおっぱいはチラチラ見ちゃうのが男の子イグニである。

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