第2-4話 ツンデレと魔術師

「今日はここら辺で野営しよう。馬を休ませないといけないからね」


 日が暮れ始めた頃、ルーラがそう言って馬車を止めた。


「街には入らないんです? ルーラさん」

「イリスちゃんの言いたいことは分かるよ。宿に泊まらないのかってことだろう?」

「はい」

「うん。確かにこんなところで野営するよりも宿に泊まった方が安全だし、疲労も回復するね。でもね、理由があるんだ。分かるかい? エドワードくん」

「僕たちが『兵器』を輸送しているからだ」

「そう! そういうこと! だから宿が安全だとは限らないんだ。馬車を預けた先で中を盗まれたらどうする? 中身がバレたらどうする?? そういうことを考えて私たちが側で見守れる外の方が安全だってことなんだよ」

「なるほど……!」


 納得したイリスは首を大きく縦に振っている。


「じゃあ、今日の夜の見張りの順番を決めましょうか」

「私はルーラ隊長と一緒がいいです!!」


 そう言って手を挙げたのは、移動中1つも喋らなかったリリィ。


 ……よっぽどの人間嫌いなんだろうなぁ。


「駄目だよ、リリィ。仲良くならないと。そうだ! イグニくんと一緒にしよう!」

「ちょっ!? ルーラ隊長!!?」

「いいかい? イグニくん」

「はい。大丈夫ですよ」


 イグニは笑顔。

 この男は女の子なら誰でも笑顔になるので、いつも通りである。


「最初はエドワードくんと私だ。今日はイリスちゃんのお休み。それでいこう」

「わああああっ! 嫌です!! なんでよりによって人間と一緒なんですか!!」

「イグニ君は『術式極化型スペル・ワン』だよ?」

「ああ、俺は『術式極化型スペル・ワン』だぞ」


 ルーラの言葉に同調してイグニはドヤ顔。


「『術式極化型スペル・ワン』が何だって言うんですか! 1つの魔術しか使えないろくでなしじゃないですか!!」

「うぐ……っ」


 イグニの心は折れた。


「リリィ。たくさん魔術が使えればいいってものじゃないよ?」

「うう……。隊長ぉ……」

「隊長命令だ。さあ、枝木を集めよう。夜になる。あ、ちゃんと枯れて地面に落ちているやつだよ? 木から折ったら承知しないからね??」


 というルーラ隊長の厳しい視線を後に、イグニたちは枝木を集めはじめた。




 パチパチと枝木が爆ぜる音がする。


「交代だ。イグニ」

「ん……。エドワードか」


 眠っていたイグニはエドワードに起こされて、目を覚ます。


「なんかあったか? エドワード」

「ゴブリンが2体でた。それくらいだな」


 エドワードはあくびをすると、眠るために横になった。イグニは腕を回して目を覚ますと焚火の側に座った。


「……おはよう。リリィさん」

「ふん!!」


 イグニが座っていると、リリィがやってきた。


 声をかけたが、リリィはそっぽを向いた。


 イグニは少し息を吐いて、焚火を見た。


 ああ、こうしていると昔を思い出す。



 ―――――――――


 バチン!!


『痛った!? 何!!? 俺、何も言って無いけど!!!』

『イグニ。お前はいま、女の子にモテモテになって何もしなくても女の子が寄ってきて欲しいなぁと思ったじゃろ』

『お、思ったけど……! なんで分かったの……!?』

『そういう顔をしておった』

『そんな馬鹿な』

『イグニよ。確かにワシほどモテれば出来るかも知れんが、今のお前にそれは無理じゃっ!』

『む、無理……!?』


 イグニは折れそうになる心を必死に支えて、ルクスの次の言葉を待った。


『ああ……! 何しろお前は……っ! 『知られていない』っ!!』

『し、知られてない……!? どういうこと……!!?』

『知られない男は……モテない……!!』

『そ、そんな……! だってモテの極意に“ミステリアスな男”はモテるって……!!』

『相手の立場で考えてみろ……! 街を歩いていてすれ違う女……! お前は好きになるか……??』

『な、ならない……』

『そう、“ミステリアス”というのはあくまでも……!!』

『……っ!? い、入口!!?』

『そこでお前に興味を持たせ、自分を魅せることで初めてモテる……ッ!!』

『…………っ!!!!!!』

『イグニよ、良く聞けェっ!! モテの極意その4。――“ミステリアスな男はモテる”』

『……ミステリアスな男は、モテる…………!』

『“そこから自分を魅せる男がさらにモテる”……ッ!!!』

『……っ!!?』

『知らない相手を好きになることは無い……っ! じゃが、知らないからと興味を持たせることは可能……ッ!!』

『な、なんという完璧な理論……っ』

『興味で引き寄せ、魅せることでモテる……! これが、

『す、すげええええええええっ!!!』


 後にはドヤ顔のルクスが残された。


 ―――――――――


 ……俺もまだまだだな。


 イグニはふっ、と溜息をつく。


 そう、イグニはリリィと何も喋っていない!

 これではリリィからするとイグニなんぞよく分からない人間の1人!!


 これではモテの対極……!

 有象無象のうちの1人でしかない……!!


 モテるために『自分語り』は必須……!!


 問題はそのタイミング……!!


 今……っ!

 それは今……!!


「リリィさん」

「…………ふん」


 そっぽを向くリリィ。


「……っ!? リリィ!!」


 イグニはとっさにリリィを突き飛ばす。

 次の瞬間、リリィが居た場所を巨大な魔鳥が通過した!


「な、何よ……!」


 上空でぐるり、と魔鳥が向きを変える。


「アブダクターオウルだ!」

「え……っ!?」


 アブダクターオウルとは体長2mのモンスターである。


 人間の子供が好物で、村の子供をさらっては食料にしている。


「な、なんで私が狙われるのよ!」

「餌にするつもりだ」

「う、嘘でしょう!?」

「本当だ! 俺も一回さらわれたことがある!!」


 『魔王領』のアブダクターオウルは普通の3倍ほどの大きさではあったが、


「『装焔イグニッション狙撃弾スナイプ』」


 イグニの周囲に『ファイアボール』が生成され、キュルキュルと回転開始。


 上空をぐるりと回ったアブダクターオウルはリリィめがけて襲い掛かって、


「『発射ファイア』」


 ドン! と、イグニの魔術で頭を撃ち抜かれて、地面に落ちた。


「これで大丈夫だ」

「…………………」


 リリィはイグニを見て、アブダクターオウルの死体を見て、もう一度イグニを見た。


「…………あ、ありがと」

「どういたしまして」


 イグニはリリィにほほ笑む。

 

 女の子を守れて気分は上機嫌である。


「……あ、あのさ」

「うん?」

「もうちょっとそっちに行ってもいい?」


 向かいに座っていたリリィはイグニに尋ねる。


「ち、違うわよ! アンタの側にいたら守ってくれそうって思ったわけじゃなくて、アンタの側の方が安全だと思ったからよ!!」

「…………良いよ」


 イグニはどうリアクションを取っていいか分からず、横を促した。


(……やっぱりツンデレじゃん)


 イグニのテンションは最高潮になった。



――――――――――――

【作者からのお願い】


「ヤンデレが好き……っ!」って方は、


☆☆☆評価お願いします!


「絶対にツンデレ……!」って方は、

☆☆☆評価+フォローお願いします!!


「クーデレ派だが?」って方は『☆3』でお願いします!


執筆の励みになりますので、何卒お願いいたします!!

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