第35話 新たなる来訪者!

『おじいさんは、誰?』


 血の雨が振る戦場に、深くフードを被った老人が立っていた。


『泣いている子がいた気がしての』

『ここは戦場よ。子供なんていないわ』


 少女は焼け焦げた死体を踏まないように、箒に腰掛け空に浮かぶ。


『ふうん。そうかの。ワシの前にいると思うが』

『私は、泣いてない』

『じゃからずっと真顔なのか。泣かない代わりに笑いもしない。なるほど。噂通りの鉄仮面じゃの』

『なんなの。おじいさんは、敵?』

『敵じゃないが、味方にもなれんの。古い友人との約束でな、お前さんに自由を渡しに来たんじゃ』

『さっきから、何の話をしているの』

『もし……“今”が嫌なら逃げるんじゃ。ここに、入学書類がある』

『……何それ』

『ロルモッド魔術学校。『王国』にある、魔術師の学校じゃよ』

『……………興味ない』

『友達が、出来るぞ』

『……友達』


 物語の中で、英雄たちは『友達』に囲まれていた。


『ねえ、おじいさん。そこに……』


 でも、自分アリシアは。


『ううん。何でもない』


 人を殺す兵器よりも、


『いるとも。お前さんを助け出す男が』


 お姫様になりたかった。


『……誰』

『ワシの、孫じゃ』

『名前は?』

『イグニ』


 それは“かぜ”のアリシアと、“極光”のルクスの最初の邂逅であい


 時に入学試験の、前日のことであった。


 ―――――――――


「……戻ってきた!」


 ユーリの声が聞こえる。

 ようやく王国に戻ってきたらしい。


 イグニはセリアから警戒を解かずに、見つめ続ける。


「……私は、帰ることにするよ」

「そうしてくれ」


 アリシアの魔術によって、セリアと同じ視線を保つイグニはそう言った。


「アンタは引く。その代わり、俺は“極点”が敗北したことを帝国市民に教えない。これで、良いだろう」

「ああ」


 こくり、とセリアは頷いた。


「取引、成立だな」


 イグニが笑う。


「脚、治してやろう」


 セリアはイグニの肩にぽん、と手を置くとすぐにイグニの両足が復元されていく。傷口を『ファイアボール』で焼いたというのに、それを1つも感じさせないような完璧な修復だ。


「アリシア。良い男を見つけたな」

「……うん」


 セリアが踵を返す。彼女のマントが風にたなびく。


「なるほど。市井の女が男を追うわけが分かった気がする」

「……?」


 イグニが首をかしげる。


「何、強い男はモテるという話だ。イグニ」

「えっ、あっ、うん」


 急にモテの話になって首をかしげるイグニ。


「鈍いな、イグニ。私はお前に告白しているのだぞ」

「……は、はぁ!?」


 びっくりしたイグニは声が裏返る。


(モテ期!? モテ期来た!!?)


 鈍った思考でそれだけ考える。


「ひどい男だな。100年間も私はお前を見つめていたというのに」

「なるほど……???」


 どういうこと? 100年間見てたからって人好きになるか??

 モテの作法のどこにもそんなん書いてないけど???


「姉さん! ダメに決まってるでしょ!!!」


 しかし、アリシアがセリアを押してイグニから遠ざける。


「姉さんは帝国の第1皇女! こんなに適当に婚約者を見つけれるはずがないでしょ!!」

「文句を言う相手なぞ倒してしまえばよいだろう」 

「ダメ!! 良いから帰って!!」


 アリシアがセリアを押す。


(えっ、何々!? 何が起きてるの……?)


 イグニは魔力切れの頭で一生懸命考えて、


(俺、もしかしてモテてる??)


 答えにたどり着いた瞬間、彼の思考は魔力切れによりブラックアウトした。


 ―――――――――


「おはよう。イグニ」

「どこだ……。ここは」


 イグニが目を覚ますと、見慣れないベッドの上だった。

 隣にはアリシアが座っている。アリシアの横にはイグニのベッドに突っ伏して、眠っているユーリがいた。


「学校の治療室よ。イグニが『魔力切れ』を起こしたから、運ばれたの」

「……なる、ほどね」


 上体を起こして、アリシアを見る。


 『魔王領』で『魔力切れ』状態が常であったイグニには些細ささいなことだが、一般的に『魔力切れ』とは下手したら死ぬかもしれないと言われているほどの物である。


 取り扱いが厳重になるのも、納得だ。


「ユーリは、さっきまで起きてたんだけどね。ちょうど、寝ちゃったわ」

「アリシアは……。大丈夫、なのか?」

「何が?」

「学校とか……」


 イグニは魔力切れの前を思い出そうとするが、記憶にもやがかかっているみたいでなにも思い出せない。


 何か……何か大事なことを忘れているような気が……するのに……。


 ……騎士。……姫……。

 『くっ殺せ』……?


 ……違うか。


「学校なら大丈夫。ミラ先生とエレノア先生のおかげで、明日から寮に住めることになったし」

「そういえば……今までどこに住んでたんだ?」


 てっきり家から通っているものだと思っていたイグニが尋ねると、


「えっとね、隠れ家」


 てへっ、とアリシアが笑った。


「……隠れ家、ね」


 イグニはどうリアクションを取っていいか分からず、アリシアの言葉をオウム返しする。


「あのね、イグニ」

「うん?」

「ありがとね」


 ちゅ、とイグニのほほに柔らかいものが触れて、


「また、明日」


 顔を真っ赤にして、アリシアが去っていく。


「……はえ?」


 残されたイグニは1人、奇妙な声をあげて。


「いっ、今の……。どっ、どっ、どういう……」


 脳がパンクして、イグニの口からついて出る言葉が壊れる。


「どういう……こと、なの……?」


 問い続けるイグニを、優しい月明かりが照らしていた。


 ―――――――――


「聖女様、ようやく見つかりました」


 サンタルマン神聖国。


 首都の中央にある大神殿。その最奥に用意された自室で祈りを捧げる1人の少女に声が掛けられた。青い瞳で空色の髪の少女は、声の主にふり向くことなく問いかける。


「そう。どこにいたの?」

「アンテム王国のロルモッド魔術学校に」

「……『学校』。神様は彼を見放さなかったのね」


 13歳の時に【聖】属性の才能を見極められた彼女は、神に感謝をささげてほほ笑んだ。


「大丈夫よ。大丈夫。この時のために祈りを捧げて来たんだから。私のことは、忘れていないわ」


 ぽつりぽつりと、自分に言い聞かせるように聖女は続ける。


「だって『』したんだもの。ああ、神様。やはり私たちは運命で結ばれているのですね。……すぐに出発します。用意してください」

「かしこまりました」

「2年間……。長かったわ。すごく、長かった」


 狂ったように、聖女は笑う。


「でも大丈夫。私たちは運命で結ばれてるんですもの。どれだけ反対されても、どれだけ否定されても私たちは出会うのね」


 を見つめながら、


「イグニ。もう大丈夫」


 ローズ・アクルマルンはほほ笑んだ。


「私が、いるわ」



 To be continued!!



――――――――――――

これにて1章終わりです!

次回からは2章のスタートです!


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