第28話 打ち上げと魔術師!
「「「乾杯~!」」」
イグニたちのジョッキが互いにぶつかる。
「最初、エドワードがいいお店を知ってるって聞いた時はどんな高級店かと思ったけど、普通の酒場なのね」
「こういう時だと、いいお店よりも騒げるお店の方が良いだろ?」
「エドワード、意外と気が利くんだな」
イグニが珍しくエドワードをほめた。
「ふん! お前に褒められても嬉しくないぞ!」
「お前たちが騒げる場所をエドワード様は一生懸命探したんだぞ!」
「一番口コミがいいお店がここだったんだ!」
「ありがとな。エドワード」
「ふんっ!!」
そっぽを向くエドワード。
相変わらずである。
「イグニさま! 最後の魔術凄かったです!」
「ありがとう」
「あれどうやってるんですか?」
「どうやってるって……。ちっちゃい『ファイアボール』を光の速さまで加速させて撃ってるだけだよ」
「……???」
意味が分からずイリスが首をかしげる。
「ま、イリスには必要ないだろうな。俺よりも威力の強い魔術を使えるだろうし」
イグニは『ファイアボール』しか使えなかった。
だから、それを鍛えただけ。
しかし、イリスには必要ない。
【地:S】の適性を持っているイリスにはイグニほどの修練も、訓練も必要とせずに軽々と越えていくだろう。
「そんな! イグニさまが一番ですよ!!」
「……一番、ね」
そのワードを聞くとある人を思い出してしまう。
「それにしてもイグニが『ファイアボール』しか使えないっていうのは本当だったんだね」
「ああ。適性が【F】だからな」
ユーリが感心したように漏らす。
「そういえば、アンタ。フレイと何を喋ってたの?」
「何をって……。別に、何も?」
イグニの脳からは既に消えつつある記憶である。
とぼけるわけでもなく、イグニはそう言った。
「フレイ君があんなに必死な顔してるの先生初めてみたわぁ」
「そうなんですか?」
イグニは会うたびにフレイの顔が歪んでいるのを見ているので、てっきりそれが普通なのだと思っていたのだが……。
(あれ? もしかして俺、嫌われてるのか?)
と、イグニは真実にたどり着いたが、
(まあ、男に嫌われたっていいか)
すぐに流した。
「イグニはさ、どうやってそこまで強くなったの?」
アリシアは料理が運ばれてくるまでの間、イグニの顔を見てそう尋ねる。
イグニは果実酒を口に含んで、
「……執念、かな」
かっこよく、濁した。
「「「おお……っ」」」
それで、席がどっと沸いた。
(決まった……っ!)
顔にドヤ顔がでるイグニ。
ちなみにアリシアにはそのドヤ顔はばっちりみられている。
なんてことをやっていたら、席に料理が運ばれてきたのでイグニへの質問会は流れた。
「イグニって食べれないものとかある?」
隣に座ったユーリがイグニの分のサラダを取り分けながら聞いてくる。
「女子力たか……」
それを見ながらわずかに引いた様子のアリシア。ちなみにイグニも、ユーリの流れるような気づかいに目を瞠っていた。
(……なるほど! これは、使えるな……っ!!)
『気を使う男はモテる』とかいう当たり前すぎて作法にも極意にも入っていない言葉を頭の中で反芻しながらイグニはユーリの行動を見ていた。
「いや、何でも食べるよ」
「そっか。じゃあ適当に入れるね」
そう言ってユーリはイグニの分と、自分の隣に座っているエドワードの取り巻きAの分の料理を取り分けていく。
「……あ、ありがと」
若干照れた様子のエドワードの取り巻きA。
名前も知らない君よ、ユーリは男だぞ……。
イグニは心の中で忠告しておいた。
「さあ、食べよう!」
エドワードの言葉を皮切りに、みんなが食事に手を付け始めた。
―――――――――
「ねえ、アリシア。芸とかないの?」
「芸? イリス、あんた無茶振りするわねぇ」
いい感じにお酒が入っているイリスが、急にアリシアにだる絡みを始める。
「もちろん、あるわよ」
だが、アリシアはそう言って手元からカードを取り出した。
「じゃーん。何でしょう」
「占いっ!!」
イリスのリアクションがいちいち大きい。
もしかして打ち合わせしてたのかなぁ、と口に酒を含みながらイグニは考えた。
「さぁ。“天才”占い師アリシア様が何でも占ってあげるわよっ!」
「アリシアのは災いの方でしょ」
イリスが笑う。
「は?」
全くもって2人は仲良しである。
「何でも占えるわよ」
「あ、じゃあ僕からでも良いか?」
「いいわよ」
エドワードが率先して手を挙げた。
「ちゃ、ちゃんと僕がこの学校を卒業できるか……! それを占って欲しい!!」
「え、なに? 不安なの??」
「……ちょっと」
「しょうもないわね。もっと面白いのはないの」
「ボクも占って欲しいことがあるんだ」
「なに?」
「10年後もみんなでこうやってお酒を飲めるか……ってのを占って欲しいんだ」
しん、と一瞬テーブルが静かになった。
「ユーリ、あんた……。いい子ね」
「だ、ダメかな?」
「いいわよ! 私に任せなさい!!」
アリシアが胸を張って答えると、カードを数枚ほどテーブルの上に並べ始めた。
「さあ、見てなさい!」
ばん! と、そう言ってアリシアが1枚のカードをめくった。
「……
そこには死神のような姿をした骸骨が踊っていた。
明らかにヤバそうなカード。
一瞬にして場が凍り付いた。
「……あのー。アリシアさん」
「ち、違うわ! 私のミス!!」
「ほら~。やっぱりアリシアは災いの“天災”占い師っ!」
「は!? 違うし! もう一回!!」
ワイのワイのと会話が盛り上がる。
それをニコニコしながらイグニが眺めていると、隣に座っていたエレノア先生がイグニの耳に口を寄せてきた。
「イグニ君。何でフレイ君との戦いで本気、出さなかったのぉ?」
「何の話です?」
「だってイグニ君、
「……魔法なんて使ったらフレイが死んじゃいますよ」
「あらぁ? それは答えってことで良いのかしらぁ」
エレノアがニコニコしている。
だから、イグニも笑顔で返した。
「先生は、どうなんですか?」
「使えないわよぉ」
エレノア先生がほほ笑む。
「あ~! エレノア先生がイグニさまとイチャついてる!」
「は~い」
エレノア先生がイグニを抱き寄せる。
おっぱいいっぱいっ!
「ああああっ!! イグニさまが陥落しちゃう! 先生だめですよ!! 生徒に手を出しちゃ!!」
「出してないわよぉ」
「ダメです! 先生!! イグニさまを離して! ちょっとアリシアも手伝いなさいよっ! エレノア先生は危険だわっ!」
「危険って……。イグニは喜んでるみたいだし、良いんじゃない?」
「ダメに決まってるでしょ! あとイグニさまはこんなので喜ばないっ!!」
内心大喜びしていたイグニは少しだけ微妙な気持ちになった。
しかし、気持ちはすぐにおっぱいに傾いた。
おっぱい最強!
――――――――――――
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