第25話 弟と魔術師・上

「さぁ! ついにこの時がやってきたぁあああっ!!!」


 イグニの前にはフレイがいる。


「100年に一度の逸材っ!!! 【極光】属性に目覚めてっ!! “適性”はなんとSSっ!! 次代の“極点”候補……!! フレイっ!! タルコイズッ!!!!!」

「フレイくん勝ってえええ!!!!」

「頑張ってフレイくん!!!」

「フレイくんこっち見てええ!!!!」

「その甘い顔に女性ファンも多いっ!!! 一方、相対するのはこの男ッ!!!!」


(……フレイが、も、モテてる…………っ!)


 イグニは勝負開始前から嫌に弱気になった。


「ここまで『ファイアボール』しか使わないっ!! 【火】属性の“適性”はなんとFッ!!! たった1つの魔術でのし上がってきたダークホースッ!! イグニっ!!!!」

「イグニっ!! 頑張れぇえええ!!!」

「俺たちの希望の星っ!!!」

「魔術の“適性”がなくたって優勝するところを見せてくれッ!!!」

「そのイケメンをボコボコにしてくれえええっ!!」


 イグニの歓声は男ばっかりである。


(……いや、優勝すればモテるはずだ…………っ!!)


 イグニの中で優勝への決意が固まる。

 それももう、盤石に。


「どうして『ファイアボール』しか使えないイグニがここにいる」


 しかしそんなイグニの気持ちは知らず、フレイはイグニを睨みつけた。


「俺が、強いからだ」

「はッ! 強いだと!? “適性”がFの癖にッ!!」

「確かに俺はFだよ。魔術も『ファイアボール』しか使えねえ」

「ああ。でも、決勝戦の相手がイグニで良かったよ。“くぐつ”のエレノアの試合時間を超えて記録は僕がもらう」

「いや、優勝は俺だ」

「『ファイアボール』しか使えない雑魚が何を言うっ!!!」

「『ファイアボール』しか使えないからこそ、だ」


 審判が2人を見る。


「俺はたった1つの魔術を


 そして、イグニはフレイの真正面からそう言い切った。


「極めた? 極めただと??」


 フレイの顔が怒気に染まる。


「お前がッ! 魔術を極められるはずがないっ!!!」

「試合ッ!!! 開始ッ!!!!!」


 フレイの怒号とともに試合が始まるっ!!!


「『極光刃アウローラ・ジン』ッ!!!」


 フレイの詠唱とともに掌がキラリと光るっ!! 

 次の瞬間、イグニの真後ろにある観客席の土台が大きく裂けたッ!!!


「フレイ選手ッ! 開幕から大技だぁッ!!!」

「当たんねえよっ!!」


 だがイグニはすでにその魔術を回避。


「『装焔イグニッション』」


 そして、魔力を込めて、


「『発射ファイア』ッ!!!」

「『極光散乱アウローラ・プリズム』」


 パアッ! と、光を散らしてイグニの『ファイアボール』が消えて行く。


「魔力散乱! 高度な防御魔術だなっ!!」

「当り前だっ! 僕は、天才だぞッ!!!」


 フィールドを走り回りながら、イグニは再び『ファイアボール』を連射っ!!


「そんな幼稚な魔術が効くかっ!! 『極光刃アウローラ・ジン』ッ!!!」


 ドンッ!!! 

 と、再びイグニの後方で音が鳴る。


「……馬鹿なっ! なぜ!!」


 イグニに魔術が当たらない。


「見え見えなんだよ。『装焔イグニッション』」

「……ッ!! 『極光太刃アウローラ・ブレイド』ッ!!!」


 ぶんッ!!


 魔術が通り抜けた後に、空気が避ける音が響く。

 だが、イグニには当たらない。


「『回転スピン』ッ!!」

「『極光散乱アウローラ・プリズム』ッ!!」

「『発射ファイア』」


 イグニの手元から『ファイアボール』が飛ぶ。

 それはを描くと、『極光散乱アウローラ・プリズム』を回り込んでフレイに激突……ッ!!!


 ズドンっ!!!


 爆炎をまき散らしてフレイの身体を大きく後退させたっ!


「くそッ! 『極光線レーザー』ッ!!」


 ひゅんッ!


 爆炎を一直線に貫いて、光が進む。

 だが、イグニは避ける。


「何故……ッ! なぜ、当たらないっ!!!!」


 フレイが叫ぶ。


「僕の魔術は……ッ! だぞっ!!!!」


 フレイが魔術を連射する。

 しかし、イグニには当たらない。


 イグニの脳裏には記憶が流れていく。


 ―――――――――

『この世で一番速いものは何か知っておるか?』

『んー……。ワイバーン!』

『違う。光じゃ』

『へー。そうなんだ』

『なんじゃその反応は。これから大切な話をするというのに』

『なに? おっぱいの話?』

『違う。待て、イグニ。お前の頭はどうなっとるんじゃ』

『冗談に決まってるじゃん』

『まあ冗談なら良いが……。ワシがこれから教えるのは、最強になるために必須の技じゃよ。心して聞け』

『どんな話?』

『最速の魔術を使う魔術師たちと戦う方法。つまりな、【光】の魔術師と戦う話じゃよ』


 ―――――――――


 イグニはフレイのを見ている。

 それ自体は何も不思議なことではない。


 魔術師であれば誰でも程度の差はあれ、魔力を知覚している。

 イグニのそれは、魔術の使えない彼にルクスが教えたであった。


「はッ! 丸見えだぞ!! フレイっ!!」


 魔術の発動は単純だ。


 体内で魔力がおこり、身体の周囲に形作って、発動する。

 

 そこには必ず、がある。


「当たれっ!! 当たれ当たれ当たれっ!!! 当たれぇえええええっ!!!」


 フレイが周囲に魔術を撃ち続ける。


 だが、イグニはその隙間を縫っていく。


「フレイ! お前の魔術はじいちゃんの足元にも及んでねえっ!!!」


 熟練の魔術師であれば、発動までのタイムラグがほとんどない。

“極点”と呼ばれる魔術を極めた者たちのタイムラグはほぼ0だ。


 ならば、その“極点”に2年間も休みなく鍛えられたイグニには。


「ふざけるなっ! 僕の邪魔をするなっ!! イグニッ!!!」

「邪魔なんてしてねえよ」


 フレイの魔術は、稚拙に過ぎる。


「僕は、“極点”になるんだッ!!

「『装焔イグニッション』」


 イグニは詠唱。

 その背後に生まれるのは1024個の『ファイアボール』ッ!!!!


 それら全てが赤から白へと染まっていく――。


「『爆撃ファイア』」


 ズドドドドドドドドドドドドッッツツツツツ!!!!!


 耳が吹き飛ぶんじゃないかというほどの轟音!

 観客席にいてもなお、身体が浮きそうになるほどの衝撃波っ!!


「…………僕は、勝つ……………!」


 全ての『ファイアボール』の爆撃が終わった後に残ったのは、かろうじて立っているフレイだった。


「『装焔イグニッション』」

「勝つんだっ!!」

「『発射ファイア』」


 爆発。


 だが、フレイが水に落ちた音はしない。


「『威光フレイア・バースト』」


 ぼろぼろのフレイは、片膝をついて立ちながらイグニを睨みつける。


 フレイの周りを包むように光が覆った。


「イグニ! ここからが僕の本気だっ!!」

「……そうか」


 イグニは息を吐く。


「俺は、お前を倒す」


 ……イグニはフレイに宣言する。


「俺は……いつだって本気だからな」


 イグニは目の前に広がっている夢の景色をかみしめながら、


(夢のモテモテライフまであと一歩ォッ!!!!)


 イグニの中身はまだ、バレない。

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