第24話 先輩と魔術師

 2回戦、3回戦と何もなく進み、ついにやって来た準決勝。


「さあ皆さん! お待たせしましたぁ!! Aブロック準決勝出場者はこの2名っ!!」


 イグニがゲートをくぐって外に出る。


「初級魔術である『ファイアボール』しか使わずここまで上り詰めたイグニ選手っ!!!」


 一方、向こうからやってくるのは一度見た顔で、


「対するはここまで順調に駆け上がってきたフレンダ選手っッツ!! 彼女のトリッキーな魔術に誰も手が出せなかったああああああ!!!」


 フレンダ先輩だ。


「先輩。先輩もここまで勝ち上がってきたんですね」

「勿論っす。負けないっすよ! イグニ君!!」

「俺も、負けるつもりはありません」


 負けたらモテない。

 勝ったらモテる。


 こんなシンプルな出来事が今まであっただろうか?


 いや、ない。


「2人はお互いに魔術の名門! ロルモッド魔術学校の出身っ!!!! 奇しくもBブロックを勝ち抜いているのは“曙光しょこう”のフレイと“ゆがみ”のエルミー! なんとここまで全員がロルモッド魔術学校だっ!! 『黄金の世代』は伊達じゃないっ!!」


 実況の可愛い女の人がBブロックの様子を教えてくれた。


 ……そうか。フレイも勝ち上がってきているのか。


「どっちが勝っても恨みっ子なし! いきますよぉ。イグニ君!」

「ええ。俺も本気で行きます」


 イグニもフレンダも構える。


「試合ッ!! 開始ィっ!!!!」


 審判の勢いある合図で試合が始まったっ!!


「イグニくん! あたしの属性を言ってなかったすねっ!!」


 イグニとフレンダ、ともに掌に魔力が集まっていく。


「あたしの“適性”は【水:A】! イグニくんの天敵っす!!」

「水……っ!」

「いくっすよ! 『ウォーターブラスト』!!」


 まずは様子見の中級魔術。

フレンダから一直線に水流が飛んでくる!!


「当たりませんよ! フレンダ先輩!!」


 だが、イグニは回避。


「イグニ君なら避けると思ってたっす!!」


 しかし、フレンダは避けたイグニを見て笑った。


「狙い通りっすよ! 『水はアクア・捲いてコイル』!!」


 次の瞬間、水流が急速に回転を始めるとイグニの胸にドリルのように突き刺さったっ!!!


「このまま押し出しを狙うっすっ!!!!」


 フレンダが自信満々に言い切った瞬間、


 バシュゥウウウウウウウウウ!!!


 すさまじい水蒸気と湯気が発生した。


「な、何がおきたっすか!!」

「先輩。が足りてないっすよ!!!」


 いつの間にか口調がうつったイグニが吠える。


 その時、フレンダは見た。

 イグニと水流の間に、小さな火球が挟まっていることに!!


「な……ッ! あたしの魔術をそんな小さな『ファイアボール』で防いでるっていうんすか!?」

「そうです!!」


 イグニは『ファイアボール』を爆発させて水流を払うと、駆けだした。


「……くっ! 『水弾ウォーター・バレット』!!」


 接近してくるイグニに向かってフレンダが魔術を使う。


「『迎撃ファイア』っ!!」


 フレンダの魔術がイグニの魔術とぶつかると、一瞬にして気化! 


 水蒸気爆発とともに生まれた湯気が2人の間を埋める。


「そ、そんな! イグニ君の『ファイアボール』に負けるなんて!!」

「ただの『ファイアボール』じゃないですよ!! 『装焔イグニッション』」


 イグニは生み出した『ファイアボール』に魔力を込める。

 

 赤い炎が蒼く染まる。


「く……っ! 『水の壁ウォーター・ウォール』!!」

「『発射ファイア』っ!!」


 フレンダが使った防壁魔術を突き破って、イグニの火球がフレンダを押すっ!!!


「まだまだ行きますよっ!!」

「いいや、ここで終わりっす!!」


 フレンダの言葉とともに、莫大な魔力が渦巻く。


「『濁流竜巻アクア・トルネイド』っ!!!」


 そして、生み出されたのは巨大な


 ガリガリガリッ!!!


 と、フィールドを削りながらイグニとフレンダの間に立ちふさがったっ!!


「大規模魔術ですかっ!」

「そうっす! 悪いけど、イグニ君にはこのまま飛ばされてもらうっす!!」


 大規模魔術。


 言葉の通り、な魔術のことを指す。

 すなわちそれは、1つの街であれば簡単に壊せるだけの力を持つ魔術のことだ。


「……流石はフレンダ先輩です。大規模魔術は大人の魔術師でも使える人は少ないというのに……っ!!」

「ふふん! 少しは見直したっすか!? イグニ君!」

「何を! 俺は先輩のことは1度として見くびったことなんてありません!!」

「ふへへ。もう一度言ってほしいっす!」

「何度でも言います! 俺は先輩のことをすごいと思っています!!」

「ふへへ」


 フレンダ先輩がにやける。可愛い。


「でも……。でも、俺は負けませんよっ!!」

「来るがいいっす! イグニ君!」

「『装焔イグニッション徹甲弾ピアス』!!」


 イグニは『ファイアボール』を生み出す。


 そして、


 ギュルルルルルルル!!!!


 と、音が出る。


「先輩! 行きますっ!!」

「いつでも来るが良いっす!!」

「『発射ファイア』ッ!!!!」


 そして、撃ちだした。


 ドンンンンンンッッッッツツツツツツツ!!!!!


 極限の回転とともに『ファイアボール』が竜巻に激突! 回転とともに竜巻に穴をあける。


「良い魔術っす! でもこれくらいなら簡単に直るっすよ!! ……ってあれ? イグニ君はどこっす??」


 しかし、空いた穴の向こう側にイグニがおらずフレンダは首をかしげた。


「後ろっす」


 イグニはフレンダの背中に手を触れる。


「『撃発ファイア』っ!!!!」


 ドン!!


 と、指向性を与えて爆発。フレンダの身体を吹き飛ばす!!


「いつの間にか後ろにいるなんて思わなかったすぅううううう!!!」


 ぼちゃん! と、音を立ててフレンダの身体が水面に落ちた。


「決着ぅううううう!!!! Aブロック勝者はイグニ選手ぅ!!!」

「「「――ワァァァァアアアアアアアアアっ!!!!!」」」


 イグニの勝利に会場が沸く。


「おおっと! Bブロックの勝者も決まったようだっ!!!」


 実況の声が“闘技場コロシアム”に響く。


「Bブロック決勝戦出場者はもちろんこのっ!!」


 イグニはそれをどこか遠くに聞きながら、


「光の上位属性である【極光】属性に目覚めッ!! 今の今まで100戦連勝まさに無敗っ!!」


 一呼吸。


「フレイ・タルコイズだぁああああああああああっ!!!!!」

「「「――ワァァァァアアアアアアアアアアアアアっ!!!!!」」」


 両者が相まみえる時は、近い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る