第23話 初戦の魔術師
「イグニくん、そろそろ時間よぉ」
エレノア先生がイグニの手を引いて立ち上がる。
(柔らか……っ!)
役得だなぁとイグニの顔がほころぶ。
「じゃあ、先生はイグニ君を待機室に案内するからぁ。みんなはここで待ってるのよぉ」
「イグニ、頑張りなさいよ!」
「イグニさま! 応援してます!」
アリシアとイリスが応援してくれる。
「イグニ! ボク一生懸命応援するよ」
「D組で出るのはお前だけなんだから負けるなよ!」
「分かってる」
男連中からの応援もありがたく受け取る。
「じゃあ、いきましょう」
エレノアに引かれるまま、イグニは前に進んでいく。
「先生、最初に“適性”表を見た時ビックリしちゃったんだぁ」
「【火:F】ですもんね」
もはや何のしがらみもなく、イグニは淡々と言い放った。
「うん。でも、すっごく頑張ったんだなって思ったのぉ。だって、先生もそうだったからぁ」
「【生:B】……。Aランク未満で、初めて“大会”で優勝した魔術師」
「あらぁ。イグニくん、先生のこと調べてくれたの? 嬉しいわぁ」
彼我の戦力分析。それはお互いの力量を知るためには必須の技術である。
そして、それは強ければ強い魔術師ほど呼吸をするように行っている。
「イリスの一件を見て、先生のことを少しだけ……調べたんです」
「あらあら。先生、照れちゃうわぁ」
「『“
「ふふっ。そうよぉ。でも、みんな私のことを油断してただけだわぁ」
「……俺がその記録、塗り替えますよ」
モテの極意その3。――“目立つ男はモテる”。
ここで目立たなければいつ目立つというのだ……ッ!!
「期待してるわぁ」
控え室に到着。トーナメント開始からは選手同士が喧嘩しないようにそれぞれ別室だ。
イグニは彼のためだけに用意された部屋に入ると、腰を掛けた。
「先生ねぇ。【生】属性だけに“適性”があるんだけどぉ、
「あの胞子のやつですか?」
「そうよぉ。イグニくんも、たった1つの魔術なんでしょう?」
「俺は『ファイアボール』ですね」
初級の初級。
【火】属性に適性が無いものですら、簡単に使える魔術。
「だからねぇ。先生とイグニくんって、似た者同士だと思うのぉ」
「確かに似てますね」
エレノア先生に軽く返したイグニはここではっとした。
(……モテの作法。その11っ!!)
――“女性とは共通点を探せ”。
(先生からしてくるってことは……っ!)
女性は“同じ”が好きだと聞く。
(勝ったっ!!!)
“大会”に出場する選手の中で誰よりも先に優勝を決意したイグニ。
モテさえすれば“大会”なんてどうでもいいのである。
「うん。それでぇ。先生、イグニ君に期待してるのぉ」
「……期待?」
(あれ? 話の矛先がおかしくない??)
自分が口説かれているものだと思っていたイグニは本気で首をかしげた。
「うん。才能なくてもぉ、何とかなるんだって、王国のみんなに伝えられるかなぁって」
「任せてください」
イグニは深くうなずいた。
「先生の期待、絶対かなえますよ!」
モテの作法その10。――“期待は必ず超えていけ”。
「相手が誰だろうと、俺は優勝しますよ!!」
「しっかり応援するわぁ」
エレノア先生はほほ笑んだ。
『Aブロック出場者の方はC8ゲートまで来てください。繰り返します……』
【風】魔術を使った拡声魔術の声が聞こえる。
「先生、俺行ってきますよ!」
「頑張ってねぇ~」
エレノア先生の応援を背に、ゲートに向かった。
開始準備位置にいたのは、イケメンだった。
彼の背中には大きな剣。きっと冒険者なのだろう。
ガタイが良く、顔の掘りが深いタイプのイケメンである。
(……イケメンが…………っ)
イグニの中で何かに火がつく。
『第1回戦Aブロック出場者はイグニ選手VSドバン選手! 両者位置につきます!!』
「……っ!」
綺麗な女の人の声が聞こえたのでイグニが反射的に声のする方にふり向くと、実況席と書かれたところにくっそ可愛い女の人がいた。
『おおっと! イグニ選手がこっちを見ている!! どうした!? 私が可愛いからかぁ!!?』
今すぐ『そうだっ!』と叫びたかったがモテの極意その4――“ミステリアスな男はモテる。を、思い出してイグニは思いとどまる。
(危ない。危うくモテない男になるところだった)
イグニはほっと胸をなでおろした。
―――――――――
「イグニ様、急に実況席見てどうしたんでしょう?」
観客席にいるイリスたちはイグニの奇行に首をかしげた。
「喧嘩売るつもりだったとか……」
「せ、宣戦布告だったのかもしれない……」
「いや、アンタたち……イグニを見てなさすぎじゃない?」
1人だけ分かっているアリシアは誰も気が付かないことに諦めのため息をついた。
―――――――――
『試合開始ッ!!』
かわいいが熱のある声が“
「お前、若いなぁ。学生か?」
すると試合開始だというのに、目の前にいるドバンが語り掛けて来た。
歓声に紛れて何を言っているのか聞き取りづらいが、イグニの聴覚はしっかりそれをとらえる。
「ああ。ロルモッド魔術学校の1年生だ」
「良いなぁ。才能あるやつはよぉ……。うらやましいぜ!」
ドバンはそう言うなり急に駆けだしたっ!
「才能か」
イグニは目の前に『ファイアボール』を生み出す。
「『
そして、
魔力を注ぎ込むことによって、『ファイアボール』を巨大にしていく。
「な……っ! こんなのありかよっ!!」
フィールド全てを覆いつくすほどの巨大な『ファイアボール』を生み出したことによってドバンはじりじりと後退を迫られる。
「すげええっ!!」
「あんな『ファイアボール』初めて見たっ!!」
「どんな魔力量してんだよ! あいつ!!」
「デカすぎんだろ……」
観客からの歓声が気持ち良い。
「……なあ、ドバン。俺もお前の気持ち……分かるよ」
「な、急に何言いだすんだよっ! お前は十分才能もってるじゃねえか!!」
「生まれながらにして……イケメンなやつって……羨ましいよなっ!!!」
「はぁ!? 急に何言いだして……」
「……分かるよ。分かるさ…………。こっちがどれだけ努力しても、生まれ持った顔には勝てねえもんなぁ……ッ!!」
「ちょっ! おま!! でかいデカい! 『ファイアボール』がデカすぎる!! あっつ!? うわ!!? お前これ撃つ気か!!? 火傷じゃすまねえよ!!!」
「このイケメンがぁああああああっ!!!!」
「おわああああああっ!!!!」
ドバンは自分から水に飛び込んだ。
『一回戦の勝者はイグニ選手っ!!!!!!』
「「わああああああああああああああ」」
歓声の中で、イグニはこれまでにない達成感を味わっていた。
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