第22話 大会と魔術師!

「イグニ! ち、遅刻しちゃうよ!!」

「あと……5分だけ……」


 イグニはベッドの中で寝返りを打った。


「ほ、本当に取り返しがつかなくなっちゃうよ……! だ、だって今日だよ!?」

「今日は……久しぶりに……悪夢じゃないんだ……っ!」


 お姉さんに囲まれてムフフな夢である。


「ダメだって! “大会”始まっちゃうよっ!!!」

「……ッ!!!!」


 ばあん!!!


 毛布を信じられない速度で跳ねのけたイグニは背筋を使ってベッドから跳ね起きると、そのまま制服に直行ダイブ。連日の遅刻で鍛えた最速の着替えを実践すると同時に、ユーリに手を差し出した。


「飛ぶぞっ!」

「と、飛ぶって!?」


 ユーリは訳も分からずその手を取った。




「うわああああああああああっ!!!!」

 

 ユーリの悲鳴とともにイグニは着地。


 ずざざざざ……っ!


 地面をえぐりながらイグニは減速すると、“闘技場コロシアム”に到着。


「遅い! どこにいってたの!?」

「イグニ様! 始まっちゃいますよっ!!」

「い、いつもの寝坊だよ……!」


 “闘技場コロシアム”の入口ではアリシアとイリスが待ってくれていた。それに応えたのは空中を直線移動することによってグロッキーになったユーリ。顔はもうヘトヘトである。


「良かったわぁ。イグニ君。間に合って」

「先生も来てくれてたんですか」


 そこにはエレノア先生もいた。


「だって私の推薦だものぉ。推薦者がいないと、ダメでしょ?」

「ああ、なるほど」


 “大会”の出場者は2種類に分けられる。

 

 以前の大会にて優勝、もしくはそれに並ぶ成績を残した者によって大会に来た推薦者。

 己の腕一本で成り上がってきた一般登録者。


「いまはまだ予選中なのぉ」

「予選?」

「そうよぉ。一般の人たちは数が多いからぁ、25人まで減らすのぉ」

「初耳です」

「親睦会の時に説明したわよぉ」


 親睦会とは、全員の顔合わせの後にもう一度4人で顔を合わせた会だ。


 ちなみにイグニはフレンダ先輩が逃げ出そうとするのを必死になだめていた。


「推薦者は学園を合わせて7人。今回は少ないわねぇ」

「推薦者っていつ戦うんですか?」

「予選が終わった後のトーナメントで分かるわよぉ」


 エレノアはそう言ってほほ笑んだ。


「イグニじゃないか!」


 何やら聞きなれた声が聞こえてくる。


「おお、エドワードか!」


 “闘技場コロシアム”の人混みをかき分けてエドワードがやって来た。


「なんだお前も観戦か? 随分と暇なんだな」


 エドワードが吐き捨てるように言う。


「おいイグニ! せっかくエドワード様が応援に来たんだから恥ずかしいところを見せるんじゃないぞ!」

「エドワード様は昨日からずっとハラハラしてんだからな、負けるなよ! イグニ!!」

「お、おい! 余計なことをいうなっ!!」

「ありがとな。エドワード」

「ふん!」


 クラスメイトに応援されて悪い気はしない。


「確認が終わったからぁ。少しの間、予選を見ていきましょ~」


 エレノア先生がいつの間にか登録を終わらせてくれていたらしい。イグニたちはそろって“闘技場コロシアム”の中に入った。


「「ワァァアアアアアアアア―――――」」


 観客席に入っただけで分厚い歓声に包まれた。


「良いぞ! そこだ!!」

「ぶっ殺せぇええ!!」

「魔術使え!! 良いぞっ!!」


 ヤジを飛ばす観客たち。その先には地面から円形の大地と、それを取り囲むようにして出来ている


「水……?」

「そうよぉ。この“大会”は戦闘不能になるか、水に落ちたら負けだものぉ」


 そういってエレノアはどんどん客席の間を進んでいく。


「私が推薦したから、今回は特別席で見られるわよぉ」


 そう言って最前列に近い席に生徒を誘導するエレノア。


「ここならよく見えるでしょ」


 そういって満足げなエレノア。


 だがイグニはそれに返答するよりもある選手に釘付けになった。


 あ、あれは……っ!?


 イグニはその選手の凄まじさに息をのんで、目が釘付けになった。


 びっ、びッ、ビキニアーマーだッ!?


 ―――――――――

『じいちゃん! この防具考えた人頭悪いよ!』


 それはイグニの新しい服を買いに、一瞬だけ街に戻った日のことだった。


 防具屋の中にあるビキニアーマーを指差してイグニはそうルクスに言った。


『イグニよ。お前は馬鹿じゃのう』

『ば、馬鹿ってなんだよ! じいちゃんだって言っていいことと悪い事があるぞ!』

『はぁ……』

『な、何だよため息ついて……! だ、だって! こんなの、防御力も無くて簡単に傷ついちゃうじゃないよ!! 弱点も丸出しで……! 危ないよ……っ!!』

子供ガキがッ!!』

『……っ!?』

『イグニ……! お前はまだ子供ガキ……ッ!! 物の道理が分からぬ歳……ッ!!』

『じ、じいちゃん!?』

『お前は……『術式極化型スペル・ワン』をかっこ良いと言ったな……ッ!』

『う、うん。言ったけど……』

『じゃが、冷静に考えろ……ッ! たった1つの魔術しか使えぬ者は……優れているか……ッ?』

『……!?』


 わなわなと震えるイグニ。


『す、優れてない……!』

『じゃがカッコイイのは……?』

『す、『術式極化型スペル・ワン』……!』

『分かったか、イグニ。これが……浪漫ロマン、じゃよ』

『ろまん……! じ、じいちゃん! じいちゃん! 俺にもこの防具の良さが分かる日が来るかな!?』

『まあ、そう焦らずとも分かる日が来るじゃろう。さ、帰るぞ』


 ―――――――――


 ……分かったっ!!


 全てが分かった……ッ!!


 そう言うことだったんだな、じいちゃん……ッ!!

 防御力が低いことなんて関係ない……!!


 むしろ慢心を許さないからこその回避力……ッ!

 防御を捨てることよって得た攻撃力……!!


 何よりもその武器……!!

 大きな胸という2つの武器……ッ!!


 か、勝てない……ッ!!!

 男である以上、あれには……絶対に…………ッ!!!


 負ける……ッ!!


 これが……ッ!!

 これが……浪漫ロマン……ッ!!!!!

 

「あれ? イグニ? 凄い選手をもう見つけたの??」


 ユーリがイグニに尋ねる。だが、イグニの耳には届いてない。


「……す、すごい。もう試合に熱中している」

「流石はイグニ様よ!」

「相変わらずすごい集中力だな……」


 ユーリもイリスもエドワードもイグニを誉める。


「いや……。視線の先くらい見なさいよ……」


 アリシアにはイグニが何を見ているのかバレているようだった。


 だが、


(こんなところで1人にバレたところで関係あるかっ!!)


 イグニの本能は欲望に負けた。


(か、勝ってくれ……! 名も知らぬ選手よ……っ!!)


 ビキニアーマーを着た女性は剣を振るって周りの猛者どもを落としていた。


 通常、女性は魔術に優れる。彼女も女性である以上、魔術師として出場することも出来たはずだ。だが、それをしなかった。


(俺はその熱意に敬意を表したい……!)


 イグニは心の中でビキニアーマーの女性に最敬礼を捧げていた。


(そしてあわよくば戦いたい……!!!)


 そして、脳内は煩悩におぼれていた。


 だが、


「く、くそぉおお!!」


 ビキニアーマーの女性は魔術を食らって吹き飛んだ。


「あ」


 イグニがわずかに声をもらすと、ぼちゃん! と、音を立てて場外に飛び出ると水に落下。負けである。


「…………」

「きゅ、急にイグニの顔が険しくなったよっ!?」

「イグニ様! そんなにヤバい相手がいるんですか!?」

「お、おい! イグニ! 大丈夫なのかっ!?」


(……俺が押し出したかったなぁ)


 イグニは通常運転である。



――――――――――――

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