第17話 オレっ娘と魔術師

「生徒会室はこっちだよ、イグニくん」

「ありがとうございます」


 授業が終わるや否やD組に生徒会長が突撃してきて、拉致のような勢いで外に連れ出されたイグニ。そのあとを追いかけて来たのはユーリだけである。


 アリシアもイリスも“占い部”に興味津々らしい。


「あんまり元気ないね。イグニくん」

「そうですか? これが普通です」


 イグニは会長の栗色の髪を追いながらそう言った。


「だってイグニくんが生徒会に入るって言った時の勢いすごかったんだもん」

「ああ、あれは……。すみません。少し、昂ぶりました」


 イグニの本性を知っている人間がいるならば何を言っているんだと言われるだろうが、幸いにしてこの学校にはまだ誰1人としていない。


 なのでイグニが何を言ってもそれっぽく聞こえてしまうのだ。


「それに、ユーリちゃん……だったっけ。君も生徒会に興味あるの?」

「いえ、ボクはイグニの付き添いです」

「ありゃ!? 2人はそういう関係!!?」

「いや、友達ですよ。こいつ男なんで」

「え、男の子!?」

「ボクはどっからどう見ても男の子です!」

「え……そんな…………」


 衝撃を受ける生徒会長。


「……あ、そういえば自己紹介がまだだったね! 私はミル。適性は【闇:SS】だよ。よろしくね」

「ミル……。会長はもしかして、『“ほころび”のミル』ですか?」


 ユーリが思い当たる節があるのか、そう尋ねた。


「うん! 良く知ってるね。私の2つ目の名前!!」


 だがあいにくとイグニは彼女のことを知らない。


《……有名人?》

《う、うん。13歳の時点でこの学校に決まってた天才だよ……!》

《すごい人じゃん》

《気を付けてね、イグニ。すっごく強いって噂だから!》


「さ、ここだよー!」


 ミルが生徒会と書かれた部屋の扉を開ける。


「じゃーん! 見学希望の1年生君です!」


 ジロ、と中にいた3人の視線がイグニたちに向けられる。


「ささ。イグニくん。自己紹介して!」

「イグニです。適性は【火:F】。よろしくお願いします」


 ぺこり、と綺麗に一礼。


「【火:F】だぁ!? おい! ミル!! テメエ、生徒会に入りたがる人間がいないからって適当なの捕まえてきてんじゃねえよっ!」

「まあまあ、ミコちゃん。そう怒らないでって。この子、【火:F】なのにこの学校に入学できたんだよ? すごい子じゃん」

「……先生、言ってた。今年、1人だけ……あの、“的”壊した、人がいる。イグニが……そう?」

「…………」


 3人のうち1人は狂暴そうな人。ミコちゃんって呼ばれてた人だ。

 1人はすごく落ち着いている人だ。言葉を途切れ途切れで話すのが気になる。


 ……最後の人はよく分からない。

 なんか包帯でぐるぐる巻きになってるし。


「はい」

「え、そうだったの!?」


 “的”の話でユーリが驚く。


 そういえばユーリには喋ってなかったわ。


「へぇ。面白れぇ! 一戦やろうぜ、イグニ!」

「……マジですか?」

「マジだ! よしやろう! 今すぐやろう!!」


 というわけで場所を移動。

 模擬戦場にやって来た。


 もちろん、生徒会のメンバーも一緒だ。

 ミルは応援してて、静かな人は黙りこくる。


 包帯の人は……。包帯の人は、良く分からない。


「ヴァリアが気になるか? あいつ今は呪い溜めてるから喋れねえんだよ」

「……なるほど」


 おそらくはそういう魔術なのだろう。


「ミコちゃん。イグニくん。準備はいい?」

「大丈夫です」

「オッケーだ」

「いくよ! よーい、スタート!」


 始まりにしてはいささか勢いのないままにスタートした模擬戦だったが、


「じゃあ、イグニ! オレを……楽しませてくれ!!」


 そう言って、ミコが前方に地面を蹴る。


 お、おっ、オレっ子だっ!?


 ―――――――――

『じいちゃん。ガサツな女の子って怖いよね』

『はぁ? 急に何を言っておるんじゃ。もっと修行に集中せい』

『俺、ボクッ子もダメだけど。オレっていう人もダメだよ』

『イグニ。今の発言は自分で自分の首を絞めるのに等しいぞ』

『?』

『そもそもお前は、オレっ子の良さを分かっておらん』

『だってよくないもん』


 バチン!!


『痛っ!? ええ!!? ガチビンタじゃん!』

『この馬鹿たれがッ!』

『そんなキレる!?』

『自分のことをオレと呼ぶ女は大抵がガサツじゃ! しかし、しかしな……っ! その中に見せる一瞬の優しさ! そのギャップが良いんじゃ!!』

『……わーかんね』


 バチン!!


『ええ!?』


 ―――――――――


 掴みかけた……俺っ子の良さ……!!


 イグニにとっての光明を、飲み込むよりも早く彼女はイグニの目の前にいた。

 その両足は、人間のものとは思えないほど膨れ上がっていて。


(【生】属性の身体強化。まともに食らえば戦闘不能か)

(すごい太ももだな。挟まれたい……)


 イグニの脳が並列思考。


 ミコの拳がイグニに迫る。


 だから、イグニは『ファイアボール』を生み出して……。


 ボヨン!!


「……っ!」


 と、『ファイアボール』をにして、ミコの拳を受け止めた。


 イグニが生み出した『ファイアボール』はぐにょん、と形を変えてミコの腕を包み込む。


「うわっ。何だこれ」


 そして、生み出した『ファイアボール』はイグニの支配下にある。

 ゆえに、


「『装焔イグニッション』」


 ギン、とイグニの魔力を送り込まれて『ファイアボール』が急速に熱を持ち始め……。


「『爆破ファイア』ッ!!」


 起爆させる。


 ズドンンンンン!!!!


 模擬戦場が大きく揺れるほどの衝撃。


 煙とともに、右腕を抑えたミコがイグニから距離を取るようにバックステップで外に飛び出した。


「あいつの魔術……。不気味だぜ」

「でしょー? イグニくん、いい子じゃない?」

「ミルは魔術が得意だったら何でもいい子っていうじゃねえか」

「そんなことないよー」


 そういってケラケラ笑うミル先輩。


「次はこっちから行きますよ。ミコちゃん先輩!」

「はっ。来いよ! イグニ!!」


 イグニは自分の周りに3つ『ファイアボール』を生成。


「『装焔イグニッション』」


 そして、魔力を込める。


 しかし、再びミコはイグニとの距離を一瞬にして詰める。


「ミコちゃん先輩。目が狙いすぎです」


 次の瞬間、2人の足元が赤熱化。


「『爆破ファイア』」


 ドォオオオンンンンン!!!!


 模擬戦場の地下に生成した『ファイアボール』をイグニは起爆。その爆炎の中からはじかれるようにして、イグニの身体が飛び出した。


 だが、ミコはそこに残ったまま。


「……案外、すばしっこいやつだな。お前」

「どうも」


 イグニは自分の『ファイアボール』を起爆させると同時に、生み出した小さな『ファイアボール』512個を連結させ、まるでサーフボードのようにすると爆風に乗って外に飛び出したのだ!!


 だが、足元を起爆させると思っていなかったミコは、イグニが生み出した『ファイアボール』の爆風に巻き込まれた。


「ミコちゃん先輩なら、これくらいは耐えると思ってましたよ」

「……はっ。いうねえ」


 煙と土の汚れに包まれたミコと、相対するはほぼ変化の無いイグニ。


 ミコはすでに自分の身体に治癒魔術を施している。


 ……誰がどう見ても、決着は明らかだった。


「ほらね。ミコちゃん。あの子、いい子でしょ?」

「……まーな」

「おい。イグニ! お前、ほっぺ怪我してるぞ」

「え?」


 指で拭ってみると、確かに血がついていた。


「こっち来い。治してやるから」


 そういってミコちゃん先輩はイグニをつかんでそっと頬に指を当てて治癒魔術を発動。


「ほら。これで治ったからよ」


 ……こっ、こっ、これだッ!!!


 イグニはその時全てをつかんだ。


(じいちゃん。俺、分かったよ……。オレっ子の良さ……)


 確かにミコちゃん先輩はガサツ……! 

 だが、チラりと見せる優しさ……!!


 これだ…………ッ!!!

 

 イグニは“答え”に至った。


「凄いよイグニ! 生徒会の人に勝っちゃうなんて!!」


 しかし突然、ユーリがそういってイグニに抱き着いてきた。


(……ユーリが女の子だったらなぁ)


 イグニのぼやきは誰にも届かなかった。

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