第10話 新学期と魔術師!

「イグニく~ん」

「イ~グニっ!」

「イグニちゃん!!」


 海! ここは海!!


 水着になったお姉さんたちがイグニを呼ぶ。


「ちょっと! イグニちゃんは私と遊ぶのよ」

「違うわよ! イグニは私と遊ぶの!」

「何言ってるの? イグニ君は私と遊ぶのよ」


 おっと、3人が喧嘩している。

 ここはクールに止めなきゃな。


 イグニは「ふぅ……」と、わざわざ聞こえる様に溜息をついて肩をすくめた。


「簡単な話だ。3人と遊べばいいだけだろ?」

「きゃ~! イグニくん、天才よ~!!」

「た、確かに! その発想はなかったわ! イグニって天才ね!」

「流石イグニちゃん! かっこいいわ~」

「ふふふ。だろうだろう。俺はかっこいいだろう」


 煌めく太陽を背にイグニがドヤる。


《イグニ!!》


 どこからか声が聞こえる。


 だが、無視だ。


(こんなかわいいお姉さん相手に遊ばないなんて選択肢が取れるか……っ!)

 

《イグニ!! 朝だよ!》


 だが、声の主は相変わらずイグニに語り掛ける。


「何が朝だっ! こっちは真っ昼間だッ!!」

「イグニちゃん。どうかしたの?」

「イグニ。遊びに行くわよ」

「イグニ君?」


 3人が不思議そうにイグニを見る。


《イグニまずいよ! 初日から遅刻しちゃうよ!!》


 その瞬間、目が覚めた。


「良かった。ようやく起きた」


 ほう、とユーリがため息をつく。


「……あれ、海、は?」

「海? 何を言ってるの? はやく着替えないと遅刻するよ」

「…………」


 すべてを察したイグニは朝から死んだような顔をして、ベッドから降りた。


「……起こしてくれて、ありがとな。ユーリ」


 同居人にイグニは感謝。

 絶望的に朝が弱い彼に代わって、ユーリは毎日イグニを起こしてくれるのだ。


 例えそれが、夢の一番良いシーンだったとしても。


「ううん。気にしないで! 故郷で妹たちの面倒見てたから!」


 にこっと笑うユーリはかわいい。


 朝日に綺麗な白髪がきらめいて、幻想的に見える。男だけど。ひょっとしたら絶滅したと言われる妖精種(フェアリー)なんじゃないかと思ってしまうほどに綺麗だ。男だけど。


「……助かるよ……。俺、朝弱いから」

「今日は良い顔してたけど、どんな夢見てたの?」


 イグニが学校から支給された制服に着替えている間、ユーリは椅子の上に座って足をプラプラさせながらにこにこ笑う。動作の節々を切り抜けば本当にかわいい。男だけど。


「……海、だ」

「そういえばそんなこと言ってたね」

「ああ。海で、闘う……夢、だった」


 嘘もここに極まれりである。


 だが、しかし。

 モテたいと叫ぶ男がモテないことなどイグニとて100も承知。


 がっついてはモテないし、がっつく様子を見せてもモテない。

 だからイグニは“学園”で、戦ってばかりいる戦闘狂になることにした。


 モテの極意その5。――“芯のある男はモテる”、である。


「戦ってるにしては笑顔だったけど」

「楽勝だったんだ」

「なるほど」


 ようやく目が覚めて来たイグニはユーリが食堂から持ってきてくれたパンをつかんで、外に出た。


「いやあ。ようやく始業式だね!」

「そうだな。あっという間だったよ」


 ユーリはイグニよりも背が低い。

 だから2人並んで歩くと必然的にイグニがユーリを見下ろす形になってしまう。


 しかもユーリは男のくせに男との距離が近い。本人曰く田舎育ちが原因だと言っているが、近くで見ても可愛いのだから手に負えない。まあ、ユーリは男なんだけど。


 男なんだけどな……ッ!!!!


「イグニが部屋の片づけ手伝ってくれたおかげで、思ったより早く片付いたよ」

「あそこは俺の部屋でもあるからな」

「ふふっ。3年間一緒だね」


 ユーリが少し顔を赤らめて言う。


 ……こいつは本当に…………っ!


「なあ、ユーリ」

「どうしたの? イグニ」

「何でお前、男なの」

「ええっ!? すごい質問だね!!?」


 そんなこんなで学校に到着。


 寮なだけあって歩いて5分もかからないのがメリットだ。

 ちなみにデメリットは女の子を連れ込めないことだ。


「お、見ろよ。クラス分け貼ってあるぜ」

「本当だ! みんな集まってるね。行ってみようよ!」


 ユーリがイグニの手をつかんで走り出す。


 ユーリの手は田舎育ちで農業をやっていたと本人が言っているのにも関わらず死ぬほど柔らかい。柔らかいうえに、あったかい。


「……はぁ」

「ん? イグニ、ため息ついた?」

「いや、ついてないぞ……」


(……はぁ)


 とりあえず心の中でもう一度ついておく。ついておいて損は無いだろう。


「わっ! 見てみてイグニ! 僕たち同じクラスだよ! Dクラスだ」

「え!? D!!?」


 流石に聞き捨てならないとイグニが立ち上がる。


「上から4番目じゃん!?」


(ま、まずい。強い男はモテるというのに……ッ!!)


 だが、イグニ。

 ここで天才的に閃いた。


(い、いや。ここでDクラスを取ったが2年でAになればその努力でモテるか……ッ!?)


 イグニの中でこの1年に対するモチベーションが最大級にアップした瞬間である。


 しかし、ユーリが笑顔で教えてくれた。


「イグニ、1年生の時のクラスは成績関係ないんだよ?」

「え、そうなの?」

「うん。成績順になるのは2年生からなんだ。入学試験の時に先生が言ってた」

「そ、そうだったっけ……」


 あの時はルクスを殺す事しか考えてなかったイグニ。

 バツの悪そうな顔でひるむ。


「あれ? イグニじゃない!」


 ユーリと雑談していると、上から声が降ってきた。

 イグニが空を見上げると、そこには箒にのった魔女が1人。


 ……みえ、みえ……っ!


「アリシアか。久しぶりだな」


 女の子ということで、ユーリとは違うキレッキレの態度で迎える。


「別にそんな演技っぽくしなくていいわよ。私もDクラスなの、よろしくね」


 だが、あっさりと受け流された。


「君もDクラスなの? ボクもなんだ! よろしくね」

「ぼ、ぼ、ボクっ子!?」


 初めてイグニがユーリと出会った時のようなリアクションを取りつつ目を輝かせてアリシアがユーリの手を取る。


「私はアリシア。よろしくね」

「うん。アリシアさん。よろしく」


 2人ともにこやかに握手。


 その後、アリシアがイグニに駆け寄った。


(ボクッ子じゃない! どこで知り合ったのよ!?)

(寮が一緒なんだ)

(寮が!? この学校、男子と女子が同じ寮なの?)

(そんなわけないだろう)


 イグニがしたり顔でそういう。

 数週間前の自分のことなど彼の頭ではとっくに忘れていた。


(だよね……)


 少しアリシアは考え込んで、


(え、じゃあ。アンタ、女子寮なの!?)

(そんなわけないだろう。もっと簡単な答えだよ)

(……?)

(あいつ、男だぞ)


 アリシアは膝から崩れ落ちた。


――――――――――――

【作者からのお願い】


「俺もモテたいっ!」と思った方は、


☆☆☆評価や、フォローをお願いいたします!

「いや、モテなくていいよ……」って方は『☆1』でお願いします!



執筆の励みになりますので、何卒お願いいたします!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る