男二人で、家一つ。

@MoonRock

第1話 あと10日?

「ピピピピッ・・・」「ピピピピッ・・・」


 朝の七時半にスマートフォンのアラームが鳴る。俺は朝に弱いから、起床すべき時刻の八時よりも三十分早くアラームを設定し、この残された猶予をスヌーズでダラダラと過ごすのが日課になっている。スヌーズは十分間隔に設定しているから、あと三回のアラームで起床する必要がある。布団からスマートフォンへと手を伸ばし、側面のボタンを押せば、十分間は現実から夢の中へ戻ることができる。


 しかし、今日は何故か目が冴えてしまい、スヌーズを待たずしてベッドから起き上がってしまった。「ま、たまにはこういう日があってもいいか。早起きは三文の徳と言うし。」と思った阿山あやまは、いつものモーニングルーティンをこなす。といっても、極々普通に朝の準備をするだけだ。歯磨き粉が少なくなっていることに気づき、帰りに買って帰ろうと思ったが、どうせ帰宅する頃には忘れているだろう。そうして無くなってから、毎回コンビニで購入するたびに、割高な価格にすこし後悔する。


 「だが、今日の俺は違う。なんたって三十分も早起きしたのだ。」そう思い、いつものようにドアにカギをかけ、会社に向かうため電車に乗った。


 「おい阿山!馬鹿野郎!何回言ったら分かるんだ!ここの記法は─・・・」上司の高田が、朝から声高らかに阿山を怒鳴りつける。「すみません・・・。」阿山は声を低くして謝罪した。プログラマーとして働く阿山は、今年の四月から中途入社した会社で、もう三か月にもなるのに、複雑な記法ルールのせいで未だに戦力どころか、足手まといの状態なのだ。プログラムというのは、会社によってその記述方法が事細かにルール化されているのが一般的だ。話し言葉にも地方によって方言があるように、ルールがなければ各々が好きなようにプログラミングしてしまい、本人しか意味の分からない、いわゆる俗人化状態になってしまう。それは前職もプログラマーであった阿山にとっても当然のことと知っていた。しかしながら、中途入社した会社の記法があまりにも複雑すぎるために、覚えられないというよりは、あまりの膨大な量に覚えることを半分諦めていた。


 「だからといってあんなに怒鳴るか?わざとやってるわけじゃねぇのに・・・。」阿山は、帰宅途中の電車でそう思った。嫌なこと、嫌な音を塞ぐように、耳にイヤホンをつけて、好きな音楽を再生した。「朝が来なければいいのに」という歌詞が、

印象的な曲だ。不自然にならないように、電車の揺れに合わせて好きな音楽のリズムで頭をすこし揺らした。


 帰り道で、歯磨き粉が少なくなっていることを奇跡的に思い出した阿山は、ドラッグストアに寄り、生活用品を買ってからアパートの階段を上がった。阿山の部屋は五階だが、このアパートにはエレベーターがないため、一気に買い貯めた生活用品の重みで、ビニール袋が手に食い込んですこし痛い。運動不足気味の阿山は息を切らしながら、アパートの五階まで上り、部屋へと通じる廊下に出ると人影が見えた。「なんかデカい男が立ってる・・・。しかも俺の家の前か?テレビの集金ならこの前断ったばかりなのに・・・。」と思った阿山は、ソロソロと廊下を進んだ。


すると、ガタイの良い男がこちらに気づいたのか、小走りで近寄ってきた。「阿山ぁ~~!!!」ガタイの良い男は、時間も場所も関係ないと主張せんばかりの大声で、名前を呼びながら近づいてきた。あっけらかんにとられている阿山に男が話しかけた。


「俺だよ!う・め・ぞ・の!阿山元気してたかぁ~!」声の主は、阿山の幼馴染である梅園うめぞのだった。五年ぶりくらいの再会で、阿山は「なぜここにいるんだろう」という困惑と、「久しぶりだなぁ」という嬉しさで複雑な気持ちになっていた。「梅園!声でけぇよ!」阿山は冷静に注意したあと、何だかんだ再開できて嬉しい気持ちを話した。「久しぶりだなぁ。梅園も元気そうじゃん。なんかガタイ良くなってね?」阿山は、まず目についたそのガタイの良さに驚いていた。5年前に飲みに行ったときよりも、一回りほど大きくなっていたからだ。「そうなんだよ!色々あってな。阿山!頼みがある!」梅園は笑顔で話した。「どうした?こんな夜に。てかなんでこんなところに?」阿山は当然の質問をしたが、その答えは返ってこなかった。


「阿山!突然で悪いんだが十日間、泊まらせてくれ!理由は十日後に話す!」梅園は、相変わらずの笑顔で阿山に突飛な頼みをした。梅園は続けて話す。「あ、ちなみに今日は十日間に含まず、明日から十日間!」阿山は「それって十一日間じゃねぇの」と思いつつ、立ち話も何だからと部屋に招き入れた。

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