名前が長すぎると追放されたけど実力あったから直ぐに仲間も出来て安泰です。え、俺の名前?ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルト~

プテラノプラス

名前が長すぎると追放されたけど実力あったから直ぐに仲間も出来て安泰です。え、俺の名前?ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルト~


「——お前は追放だ」


 世界の期待を一身に背負う勇者パーティを率いる青年、勇者アキヒコは酒場で対面に座る俺にそう告げた。俺は身体を、口唇を震わせながらゆっくりと口を開いた。


 「い、今……なんていったんだ?」

 

 「聞こえなかったのか?ならもう一回言ってやるよ」


 心底億劫そうに、しかし強い言葉で勇者アキヒコは再び宣告してきた。


 「ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルトコロニスムトコロ・ヤブラコウジノブラコウジ・パイポパイポパイポノシューリンガン・シューリンガンノグーリンダイ・グーリンダイノポンポコピーノポンポコナノ・チョウキュウメイノチョウスケ……お前をこのパーティから追放する!」


 ガーンだった。俺は思わず肩を落とすけどそれでもわずかな可能性に掛けてもう一度訪ねることにした。

 

 「お、おかしいな。聴こえなかったな~。もう一回……もう一回言ってくれるか……?」


 「ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルトコロニスムトコロ・ヤブラコウジノブラコウジ・パイポパイポ……アーッ!言わすな!!三度も!!!言わすな!!!!」


 一気にまくし立てぜぇーっ、ぜぇーっと肩で息をする勇者アキヒコを他所に俺は理由を問いかける。このまま引き下がるわけにはいかない。


 「何でだ……?俺たち一緒のパーティでうまくやってきたじゃないか。それなのに何だって急にクビだなんて……」


 「バッチリ聴こえてるじゃねえか。ほんとはお前だってわかってるだろ?お前は……」


 目を眇めたアキヒコは深く息を吸うとこれまでの鬱憤を一息で吐き出すように叫んだ。

 

 「なげぇんだよ!名前!!」


 あまりの大声に酒場は静まり返り、全ての視線がアキヒコと俺に向けられる。だがそんなものは気にしない、こんな理不尽なことでクビになってたまるか!


 「そ、そんなことで!?納得できない!考え直してくれ。俺たち仲間だろ!?この世界に来て右も左もわからなかった俺を拾ってくれたのはお前たちじゃないか……!!」


 この俺、ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルトコロニスムトコロ・ヤブラコウジノブラコウジ・パイポパイポパイポノシューリンガン・シューリンガンノグーリンダイ・グーリンダイノポンポコピーノポンポコナノ・チョウキュウメイノチョウスケはこの世界に生まれ落ちた人間じゃない。元の名は寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末喰う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助。日本という国で腕白に暮らしていた小僧だった。だけど俺は腕白が過ぎて川に落ちたことにより偶然この世界に流れ着いちまった。この世界じゃそういうやつは転移者と呼ばれててそんな俺を引き入れたのがアキヒコたちであった。俺にとってアキヒコたちはいわば恩人。離れたいわけななんてあるわけねえ。でも、アキヒコはさっきの言葉が気に障ったようで厳しい視線を投げ返してくる。


 「そんなことで……だとぉ?お前俺たちがお前の長い名前でどんだけ苦労してきたか想像したこともないんだな……いいさ、なら聞かせてやるよこれを見ろ」


 「なんだこれ……手紙?」


 アキヒコが差し出した便箋の中を見るとびっしりと文字が書かれていた。と、いっても俺はまだこの国の読み書きを習得していないのでそこに何が書かれているのかは想像するしかなった。


 「毎月王様に送っている報告書だ。どこまで進んだのか、どんな敵と遭遇したのか、仲間の様子はどうだとか全て報告してるんだ。そこでお前に触れるたびに毎度クソ長い字を書かされている俺の身にもなれ、報告書だけじゃないぞ。お前の名前を書かなきゃならないあらゆる局面で毎回俺が長い長い名前を書いてるんだからな。しかもお前名前に祝福がかかってるせいで短縮して書くこともできないしな!なんでそんなとこに祝福受けてるんだよ!」


 祝福とは、主に別世界からの転移者がこの世界の神から与えられる特典のようなものだ。大抵のものは一国とも戦えるような強大な戦闘力を授けられるものが多かったが俺には生憎そうではなかったようだ。


 「そ、そんなこと言われても……でも苦労をかけてたんだな。すまない。でも、それだけか?それなら俺も頑張って今から読み書き覚えるからさ……」


 「これで終わるわけないだろ!お前この前のボブボスゴブリンMKⅣとの戦闘の時、ユキナに治療された時のことを思い出してみろ」

 

 「ボブボスゴブリンMKⅣ……」

 

 そうして俺は当時のことを思いだし始めた。 


 ♦

 あれは一月ほど前のことだった。俺たち勇者パーティはこの一帯を荒らすメカゴブリンたちの長との決戦を行っていた。その時不意の攻撃を受けて回復職のユキナに回復魔法をかけてもらったんだ。確かその時は……


 「グワァアアアアア。血が……血が止まらねぇ!」


 「大丈夫か!?ユキナ!治療を!!ボブボスゴブリンMKⅣを抑えてるドルーガも傷ついてる。一刻も早く頼む!」


 「はい!」

 

 そういうとユキナは俺に向かって回復呪文を唱え始めた。


 「回復術士ユキナからジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルトコロニ「まずい、ドルーガがいいのを一発貰った!長くはもたんぞ!」」 


 この世界の魔術は精霊に使用者と対象者を明確に指示しなければならない。ユキナは少し手間取っているようだ。


 「スムトコロ・ヤブラコウジノブラコウジ・パイポパイポパイポノシューリンガン・シューリンガンノグーリンダイ・グーリンダイノポン「ユキナ!早く!ドルーガに術をかけてやってくれ!」」


 一度かけた呪文は基本的に中断することはできない。そんなことをすれば精霊たちの機嫌を損ねしばらくの間は著しく魔法の出力が落ちてしまうからだ。状況は刻一刻と悪くなっていっている。それでもユキナは最高の速度で俺の名前を言い切り。


 「ポコピーノポンポコナノ・チョウキュウメイノチョウスケへ癒しの力を授けん!バーンエイド!!よし次!」


 だがユキナの懸命な努力も虚しく。宙空には首が舞う。その髭面は紛れもなく俺たちの仲間のもので。


 「「ドルーガ逝った~~~~!?!!」」


 ♦

 かけてたわ。名前で迷惑。


 俺があ、と声を上げたことにアキヒコは少し気が済んだというように拳を解き。


 「思い出したみたいだな。言っておくがこんなことは日常茶飯事だ。俺たちの限界が来たのはまた別のことだ」


 「ま、まだ何かあるのか!?」


 「先週の戦いだ!ツノアリツノナシツノツノユニコーンを追い詰めたとき、お前呪文唱えたろ!」


 えーと、確かあの時は。

 

 ♦

 霊薬を作るために伝説の幻獣、ツノアリツノナシツノツノユニコーンを三日三晩かけて三方を壁に囲まれた土地に追い詰めたときのことだった。


 「よし、追い詰めた。もうすぐには逃げられねぇぞ。この隙に魔法で一気に削ってくれ!」


 「おう、任せとけ。みんな下がってろよ」


 俺は威勢よく叫び、そして呪文を唱えたんだ。まずは使用者の宣言。


 「ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルトコロニスムトコロ・ヤブラコウ」


 「まだか!?あいつなんか力ためてんぞ!?」


 まだだよ、まーみてなさいってって思ってたんだっけ。そして俺は……


「ジノブラコウジ・パイポパイポパイポノシューリンガン・シューリンガンノグーリンダイ・ダーリンダ……あ、ヤッベ」


 ♦

 「間違えるな!自分の名を!!」


 致命的なミスを思い出して死にたくなって来ている俺に畳みかけるようにアキヒコは言い捨てる。


 「あの後大ジャンプで逃げられて更に三日討伐にかかたよなぁ~オイ!読み書きとかはどうにかなっても名前間違って呪文不発になるのはもうどにもならね~じゃねえか!だって十数年付き合ってそれでもダメなんだもんな!終わりだよもう!」


 アキヒコは話を切り上げようとするが俺は最後の望みをかけて縋り付く。彼らとここで別れればもうどうやって生きていけばいいのかわからないからだ。


 「待って、待ってくれ……なんでもする……なんでもするから……だから追放は待ってくれ」


 「じゃあお前、改名しろそしたらドルーガとユキナには俺からとりなしてやる」


 アキヒコの冷たく言い放った言葉は俺の背筋を凍らせるには十分なものだったそしてここに来てようやく俺も意思を決めたのだった。


 「それは……できないこの名前は神に祝福を受けてるからどうあっても防がれるだろうし……それに」


 これだけは譲ることはできないたとえ異世界で一人のたれ死ぬことになったとしても。


 「この名前はおっとさんとおっかさんと住職さんが俺のことを思ってつけてくれた名前だから……この名前だけが俺と元の世界をつなぐ名前なんだ!」


 「ごめんねひどい要求して!!やんなくていいよマジで!でもな……俺たちもマジで限界なんだ……」


 「わかってる。今まで苦労をかけたな」


 「お前気づいてないみたいだけど呪文の出力はかなりのモンだから心配しなくても王都周辺なら引く手数多だと思うからさ。何なら王様に紹介状書いてもいいしさ」

 

 ありがたい評価と申し出だが流石に世界のために前線で戦う勇者にそれを頼むのは気が引けた。


 「いや、そこまでやってもらうわけにはいかねえよ。じゃあ……ここでお別れだな。これ、受け取ってくれよ」


 「ん、なんだこれ?マジックアイテム?売ってるやつじゃねえな。もしかして作ったのか?」


 俺には魔法だけでなく魔法の効果を宿した力を持つアイテム、マジックアイテムを作る才能もあった。その効果は、


 「ああ、何かあったときに祈りと共に俺の名前を呼んだらそれが反応して俺を近くまで転移させられる。ほんとは分断された時のためのものだったんだけどな……でも、そういうわけだからなんかあったら読んでくれよな勇者様」


 「……不満はあったけどお前との旅、楽しかったぜ。ありがとな」


 「それじゃ俺はもういくわ」


 そう、いつまでも留まっているわけにはいかない。俺は俺で新しい人生を歩まなければいけないのだから。


 ♦

 一カ月後。寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末喰う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助と別れたアキヒコ率いる勇者パーティは魔物の蔓延る妖林を傷だらけになりながら進んでいた。メンバーを一人補充したものの彼らの姿からは順風満帆とはいいがたいものが見て取れる。


 「クソ、罠に引っかかるのもモンスター共に見つかるのもこれで何度目だ……前はこんなじゃなかったよな?敵のレベルが上がって来てるってことなのか……?」


 「いや、どちらかというと我らがツキに見放されているだけではないか?」


 「どういうことだ?」


 ドルーガの返答にユキナが付け加える。


 「新しく来てくれたマジーネさんも含めて私たちみんな幸運のステータスが低めだから……もしかしたら今まであの人がそこをカバーしてくれたのかもしれないわね……」


 「なんだって……!?いや、そういえばアイツ、自分の名前のことを故郷では縁起のいい名前だって。もしかして俺たちがこれまで無事に旅をしてくれたのはアイツが俺たちの不運を打ち消してたからだってのか!?」


 己の失策を自覚し思わず声を荒げるアキヒコだったがそれが致命的だったのかもしれない。彼らの元に一陣の風が吹き。


 「えっ?」


 そして真っ赤な血しぶきが飛び交った。発生源はマジーヌだった。そして彼女のモノ言わぬ身体の上には巨大な獣の足が乗っていた。その持ち主は


 「アルティメットデスドラゴンデス!?」

 

 逃れられぬ死を象徴したようなドラゴンだった。


 「そんな……こんな奴がここにいるなんて聞いてねぇぞ……今の装備とレベルで……勝つどころか逃げるのも無理じゃねぇか。そんなの馬鹿みたいな幸運がなきゃ……あ」


 「どうしたの!?アキヒコ!?」


 困惑するドルーガとユキナを他所にアキヒコはぽっけをまさぐり希望を取り出す。


 「アイツからマジックアイテム……もしアイツがここに来てくれたら……何とかなるかもしれねぇ!みんな頼む、詠唱の時間を稼いでくれ」


 「なんだかわからんがお前の言うことだ。任せておけ」


 勇者は最後の希望に賭けるため、もてる魔力と祈りをマジックアイテムに注ぎ込むそして彼の名前を呼ぶ。


 「ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルトコロニ」


 始めに至近距離でアルティメットデスドラゴンデスを抑えていたドルーガが散った。


 「スムトコロ・ヤブラコウジノブラコウジ・パイポパイポイポパイポノシューリンガン・シューリンガンノ」


 次にドルーガの支援を行っていたユキナが散り。


 「グーリンダイ・グーリンダイノポンポコピーノポンポコ……ガッハッ……!!」

 

 そして勇者が散った。

 今際に勇者の脳裏によぎったのは仲間たちへの懺悔の念ともう一つ。


 ——やっぱアイツ名前長すぎるだろ……!!


 その後最寄りの教会で所持金を半分に減らして復活した勇者パーティは寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末喰う寝る処に住む処藪ら柑子の藪柑子パイポパイポパイポのシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助を呼び出しなんやかんやで和解、そして彼と既にパーティを組んでいたパブロディエゴ・アドルフ・ホセ・サンティアゴ・マリア・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセノ・チプリアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ と ルイ・ジョージ・モーリス・アドルフ・ロシュ・アルバート・アベル・アントニオ・アレクサンドル・ノエル・ジャン・ルシアン・ダニエル・ユージン・ジョセフルブラン・ジョセフバレム・トーマストーマストーマストーマスピエールモーレル・バルトロメオ・アルフォンス・ベルトランドデュドネ・エマニュエル・ジョシュア・ヴィンセント・リュック・ミケル・ジュールドプランジュール・バザンフリオ・セザールジュリアンの二人を新たにパーティに加えた。

 彼らの使命はただ一つ世界に混乱をまき散らす大魔王、バラバーン・ディオスバラモヌイブリスサタヌ・バロル・ラヴァアザスラーマラブブス・イブリムタソガレ・シドウアバドヌス・ネスピシャロ・モレウス・バルハドス・フルレティ・ランダゼムト・ドラゴニアス三世を討伐する任に邁進するのであった。旅は続く。 <完>

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名前が長すぎると追放されたけど実力あったから直ぐに仲間も出来て安泰です。え、俺の名前?ジュゲムジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルト~ プテラノプラス @purera

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