第27話 アルムの魔物退治4
アルムはゼニスに話した時と同じようにウォーターボールの構造から話し始めた。彼女のウォーターボールは属性のない純粋な魔力の核の上に、水魔法が覆っている二重構造でつくられている。それによって一般のウォーターボールじゃ不可能な、その場で維持することや細かいコントロールが出来ることを話した。
あらかたのウォーターボールの原理をエルフューレに言い終えると、アルムは続けて探知魔法のことを話した。
「――純粋な魔力は攻撃性や防御性を持たないが、引き合う力が生まれる。その引き合う力をわたしは探知で利用してる。純粋な魔力はとても
エルフューレはここまで聞いて難しい顔をした。アルムはお構いなしに続けて話した。
「生き物や植物、鉱物、それに魔力だって消滅は望んでない。儚い小さな純粋な魔力でも命尽きる前には当然、融合相手を求める。
核としてウォーターボールの中で収まってたものを破裂させることにより、純粋な魔力が水魔法と共に飛び散る。その飛び散った儚い魔力が新たな魔力を求め融合しようと必死に探す。それはもう暴れ狂うようなイメージでね」
彼女はそう言うと、二センチにも満たないウォーターボールを手のひらから出し、エルフューレの目の前で破裂させた。暴れ狂うという程ではないが、たしかに水しぶきは左右に振るうように落ちていった。
「もちろん、純粋な魔力は無垢なままにすると一秒も待たずに消えてしまうから、ウォーターボールを破裂させた時は水魔法で一粒一粒細かくなった純粋な魔力をコーティングするようにしてる。そのコーティングされた純粋な魔力が新たな魔力を求めて、一番近くの安定した純粋な魔力の元へと向かう――」
アルムは挑戦的な視線をエルフューレに向けた。ここまで話したら誰だって分かるでしょ、という目だ。彼は右手を顎に置き、呟きながら考え始めた。どこの誰が見ても分かる、考えるポーズだ。アルムはそれを見てどこまでも純粋で真っ直ぐな男だなと思った。
「純粋な魔力の元……。魔力は通常、外に向けて放出する時は自然エネルギーと一体になってしまう。炎や水、土、風と……その時はもう既に純粋ではない状態だ。ってことは、一番純粋な魔力が安定していられる場所……それはそうか、体内だ! 人はやろうと思えばアルムさんみたいに純粋な魔力の核が作れる! 作れるという事は体の中では純粋な魔力のままで存在してる。
ウォーターボールで拡散された純粋な魔力入りの水しぶきは、体の中にある魔力を求める。そこに膨大な魔力はあるけど、体の皮膚が邪魔して融合できずに消滅する。その消滅の仕方によっていろいろな情報が分かる!――アルムさん、そういうことですね?」
「正解!」
アルムはもう一度二センチに満たないウォーターボールを手のひらから出して目の前で破裂させた。今度はさっきよりも純粋の魔力量を増やしてある。水しぶきは振る振ると揺れながら、エルフューレとアルムの方へとどことなく向かっていった。彼は目を丸くして、その光景を見つめた。
「もう少し詳しく言うとね。相手の魔力の強さによって反応が変わるんだ。魔力量が多ければ多いほど反応は大きくなる。それによって相手の魔力量はある程度なら分かる。それに細かい水しぶきが肌に付着して反応するから、十分に水しぶきがかかれば表面の形もなんとなくだけど分かる。予め魔物の形状と強さの知識を頭に入れとけば、魔力量と形でどんな魔物がそこにいるのか推測ができる。
そして純粋な魔力の原理を知ってれば、実は水魔法でなくても探知は可能なんだよ。ただ、炎系は残念ながら現実的に難しいかな……探知するたびに範囲一体を燃やすわけにはいかないでしょ?」
「くすっ……それは探知どころではない騒ぎになっちゃいますね! やはり、純粋な魔力でないとそういった事はできないんですか?」
「そうだね、わたしの知る限りではできないね。例えばエルフューレがファイヤーボールを飛ばした時、手元を離れるとどこに向かってるか目視しないと分からないでしょ? 純粋な魔力ならどこに行ったか目視しなくても分かる。わたしのウォーターボールが自由自在に動かせるのも純粋な魔力が核になってるからこそなんだ」
エルフューレはその話を聞き目を輝かせた。まるで赤ちゃんが目の前にいる人が初めて親だと認識できた時のような、そんな目の輝かせ方だ。
「アルムさん! あの……出来たらでいいので、ぼ、ぼくにそれを教えていただけませんか? もちろん、そのお礼はちゃんとします」
彼は真剣な目でアルムを見つめた。
「……ごめん、エルフューレそれは無理なんだ。純粋な魔力の核は、わたしが幼少期に毎日毎日アホみたいに反復練習をして何年もかけて身につけた技。今となっては体に染み込みすぎてて、服を着るようになにも考えなくとも自然に出来る。
改めて理論立てて教えるってなると、どうしても難しいんだ。感覚的にやってることがあまりにも多すぎて……ただ、わたしが一つ教えることが出来るとしたら、まずは毎日純粋な魔力に気づくことから始めることだね。
例えば、嫌な予感がする――それって実は純粋な魔力が近くの魔力持ちに反応して体の中で魔力が騒いでる。そういった場合があるんだ。やるとしたらそういうことを一つ一つ感じとることからだね」
エルフューレはそれを聞いて自分の体を見た。手、胸、脚と。ただそこにはいつもどおりの手と胸と脚だった。決して筋肉質ではない細身な腕と胸と脚だ。純粋な魔力がどうのこうのといった感じは、そこからは見受けられなかった。
「――さあ、休憩は終わり! 行きましょ」
アルムが言った。五人は腰をあげ、パンツについた砂を払って南東の魔物退治の続きを進めた。
***
アルムのチームの後方から真上にファイヤーボールが上がった。だいぶ距離はある。救助隊要請の合図だ。これで南のエリアでファイヤーボールが上がるのは三回目、ここからは見えないがみな効率よく救助活動を行っているように思えた。
アルムたち五人は入り組んだ南東の道を注意を払いながら進んでいた。
「北のエリアでゼニスはどうやって魔物たちを見つけたの?」
おもむろにアルムが一番後方にいるエルフューレに質問した。
「あ、ええっと……そうですね。ゼニスさんは野生のようでした。足跡を見つけて観察したり、その土の匂いを嗅いだり、糞尿なども手で触って見てましたよ」
「うえぇー!!」
エルンストはゼニスが糞尿を触っている様子でも想像したのだろう。
「ふ〜ん……ゼニスらしいね」
アルムはゼニスと会って一日しか経っていないが、知ったふうな口ぶりをした。どういった理屈で糞を触って魔物の居場所を特定できるのか彼女にはさっぱりだったが、ゼニスが経験を元にその行為をしていると思うと尊敬の念を抱いた。
「ゼニスさん、アルムさんのこと褒めてましたよ! 魔法のレベルも質も他の魔法使いとは違うって、誰にもあの魔法は真似できないって、そう言ってました。それに僕はアルムさんの魔法を見て学んだ方がいいって、そうも言ってました」
エルフューレは満面の笑みで言った。
「そう?……わたしはただ独学が過ぎるだけだよ。大したことじゃない。それにしてもゼニスは誰にも真似できないって言っといて、エルフューレには見て学べって言うのね。変なの」
「ははっ……確かにそうですね!」
エルフューレはあまり変だとは思っていない口ぶりで笑みを浮かべた。あんなにわたしの魔法に食いついてきたのはそういうことね。とアルムは思った。
「――おい、エルフューレ! 前に出過ぎだ」
エルンストが言った。
「合図役の魔法使いが先にやられちゃ困るからな」
細身で背の高いハーストという戦士が言った。
「そうだぞ!」
もう一人の異様に肩幅が広いノイズが続けて言った。
「ぁあ、すみません!」
気付いたら後方にいるはずのエルフューレはアルムの真後ろまで来ていた。
「――シッ!」
アルムが突然人差し指を口元にあてて言った。戦士たちの会話を聞きながらも彼女は注意を怠らなかった。彼女は長い耳をピクンとさせた。三人の戦士とエルフューレに緊張が走る。アルムの真剣な顔つきを見て、四人は魔物だ!と心の中で呟いた。
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