第26話 アルムの魔物退治3

 四人だったアルムのチームは、そのままエルフューレが加わり五人で行動をすることにした。クールな彼女でも流石にあそこまで熱い姿勢を見せつけられたら、エルフューレに対して期待値は多少でも上がってしまうものだ。北側のゼニスとの魔物退治にも同行していた彼だが、ここまでさほど疲れを見せていない。細身な見かけにも関わらず案外タフなようだ。

 五人になったチームは早速魔物退治を再開した。アルムが先頭を、その後ろに三人の戦士、後方に魔法使いのエルフューレといった陣形で進んだ。彼はアルムの魔法が目の前で見れる絶好の機会に胸が躍った。


 五人は南西側一帯を見回り魔物がいないことを確認すると、アルムがウォーターボールの合図を中央広場に向かって送った。これで住宅や倉庫がある南西一体はクリア。中央広場からは救助要因として新たに南西へと三チームが送られる。

 アルムたちは南西で三組ほど救助を要する人を見かけたが、重傷者がいなかったため、その場で待機させるか、もしくは救助隊が気づきやすい場所まで案内をする、そこまでに留めておいた。アルムのチームはあくまでも魔物退治がメインだからだ。


 続けてアルムたちは南東側に向かった。彼女たちは南西のエリアから出て南東エリアへと、魔物の鳴き声や足音など見逃しがないように注意深く聞き耳を立てながら歩いた。

 アルムは時折、通路の分岐点で片方の道にウォーターボールを飛ばして奥で破裂させた。そして彼女にしか分からない何かを確認すると、飛ばした反対側の通路へと歩みを進めた。その行為が三回行われた時にエルフューレがおもむろに聞いてきた。


「アルムさん、それで何か分かるんですか? その、ウォーターボールを飛ばすことで?」


 アルムはエルフューレを見て、視線を少し上げて宙を見て一時考えた。彼女は自分の魔法の説明を求められると、どうしても間ができてしまうようだ。


「魔力を持った者がいるか探知をしてるんだ。ウォーターボールを破裂させた範囲内なら、おおよその数と魔力の強さ、それに形状も大体だけど分かる」


「え! 探知ですか、すごい! 水魔法には探知魔法もあるんですね」


 エルフューレがまん丸の目をしながら言った。ぐっと握られた両こぶしが胸の前で嬉しそうに小刻みに動いていた。


「いや、水魔法に探知魔法はないよ。わたしが知る限りでは他の属性にもないはず。探知というか、透視魔法なら光魔法にあるけど、まぁそれぐらいかな」


「――ってことは、アルムさんオリジナルの魔法なんですね!」


「まぁ、そういうことになるかね。……簡単じゃないけど、やろうと思えばどんな属性の魔法使いでも出来ると思うよ」


「本当ですか!? それってどういう仕組なんですか?」


 アルムは余計なことを言っちゃったな、と後悔した。エルフューレの好奇心が大波のように彼女に押し寄せてくる。


「おい、よせよ! アルムさん困ってるだろ、エルフューレ」


 エルンストが言った。エルフューレは彼の方に顔を向けると、目を細めて肩を落として残念がった。干潮のように無理やり好奇心の波を引かせたようだった。

 アルムは辺りを見渡した。特に魔物の気配は感じられなかった。頭の中の地図で自分たちの現在位置を特定し、南東一体と村の最南端までの魔物の駆除および救助活動が終えるまでのおおよその時間を計算した。頭の中でおおよその時間の計算をし終えると彼女は四人に向かって言った。


「少し休憩にしようか。今のところは順調だしね」


「ふう〜、休憩はありがてぇ」


 小太りのエルンストが緊張の糸を切ったかのように息を吐いた。汗が吹き出した額を光らせながら自然と笑みがこぼれた。アルムはみんなの緊張感が切れ初め、疲れも見えていたので休ませることにした。

 無理もない。前線で気を張って行動すれば疲れは通常よりも早くなる。それに大量のオオサソリ以来、魔物が現れてない。いつ出くわすか分からないのに出てこないほど精神を削るものはなかった。


 三人の戦士は大きく息を吐き、緊張を解きほぐすように首や肩を回し、待ってました~、と言わんばかりの勢いで地べたに座った。そしておのおの円柱の木の容器に入った水を美味そうに飲んだ。きっとこの村のことだ、水もやけに美味いんだろうなとアルムは思った。

 彼女は寄り添って宙に浮いているウォーターボールから両手の平に水を出しそのまま飲んだ。


「そういうこともできるんですね。水不足に悩まなくていいですね」


 その光景を見てエルフューレがすかさず言った。相変わらずまん丸の目をアルムに向けてきた。その純粋すぎる目に彼女は自然と身を半歩引いた。この魔法への食いつきは何?ゼニスがエルフューレにわたしの魔法の有る事無い事でも吹き込んだのか?とアルムは思った。


「……水が飲めるかは人によるよ。水魔法を使う人によって味がまずかったり、美味しかったり、時には飲んで腹を壊したりする場合もある。何が左右してるのかは未だ良く分かってないけどね」


「へえ~、良ければ飲ましてください!」


 エルフューレのまん丸の目がアルムを凝視した。両手の平はすでにこちらを向いていた。


「まあ、いいけど……。なんだか物好きだね。水筒に水入ってるでしょうに」


 そう言いながらアルムは彼の両手の平にウォーターボールの水を渡し注いだ。それを物珍しそうに見つめ、グビっと飲む。


「おいしい!」


「そうかな?」


 そこまで言うほどでも。と彼女は思った。


「あのー、さっきのことなんですけど……聞いてもいいですか?」


「――ああ、探知魔法の話ね」


「そうです。僕ができるできないとかじゃなくて、ただ知りたいんです」


 エルフューレは前のめりになり、目を輝かせながら聞いた。彼女はその熱意に押され、少しのけ反り気味になり苦笑いを浮かべた。


「……はぁ、仕方ない」


 アルムは好奇心の圧に屈する形で探知魔法の原理を説明することにした。

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