好きな人が優しかった
川谷パルテノン
勇者、立つ
世界は暴力と金の支配する時代、ネメシスへと突入していた。倫理なき現代では人間の尊厳などティッシュペーパーよりも軽く、世が世なら世も末ヨガファイヤーであった。
そんな時代に七人の若者が立ち上がって六人が座り直した。そして残った一人の名はこの時代に於いて「救世主」を意味する言葉、ミニスカポリトカといった。
ミニスカポリトカは嘆いた。一緒にやるって言ってたじゃん、と。そうは言っても六人はもうなにもかもを諦めてなんの意義も持たないマ○オパーティー耐久配信から帰っては来ない。ならば一人でやるしかない、ミニスカポリトカは全ての元凶である邪神にして頂点捕食者にして年間読了冊数二万冊はくだらないというマウントニウス三七五六四世の討伐へと単独で向かったのである。
ミニスカポリトカはその孤独の旅路の中で様々な出会いに恵まれた。ミズキ、ヨシエ、サクラコ、ジェファーソン。みんなお金を払い終えるまでは優しかった。そして本当の優しさとは何かといつも苦悩した。けれどもミニスカポリトカには未だに答えが出せない。人並みにチェンジもした。チェンジと口にする度に自分は何様だという気分にはなったがそれもやがて麻痺した。
そんなある日、ミニスカポリトカは珍しい体験をした。いつものように待合所で待機していると、よく見る顔のジジイが声をかけてきたのである。いくらいつもいるからといってこんな場で他人に干渉してくるとは何事かとミニスカポリトカは内心憤慨していたが、ジジイの申し出が些か風変わりだったので受けてみることにした。ジジイに案内されるとそこは荒廃した世界の中では今や珍しい大平原であった。草木が豊かに生っており、時折動物が顔を覗かせた。ジジイが下卑た笑い声でしばらく待つようにとミニスカポリトカに伝えると彼は言われたとおりに全裸で股間にタオル一枚を被せただけの姿で、渡された段ボールを敷いた上に仰向けになって寝転がった。ミニスカポリトカはその姿勢になってみて、しばらく気にも留めてこなかった空の青さをあらためて感じることとなり目頭が熱くなった。そんな感動も束の間、ミニスカポリトカは股の間を抜けていく微風に全身を震わせた。おもわず立ちあがろうとしたが「ダメよお客さん」と女の声がして、かと思うと筋肉が弛緩して動けなくなってしまった。ミニスカポリトカはヤバい薬でも打たれたんじゃないかと冷や汗が止まらなかったが、またタオルを被せただけの股の隙間を風が抜けて金○袋の表面を撫でていくではないか。ミニスカポリトカは気づいた。先ほどの声の女がどういうわけか無抵抗の自分の○玉袋に息を吹きかけている。そしてそこにはむず痒さの奥に未だ巡り合わなかった謎の気持ちよさが快楽中枢を刺激していく心地よさがあった。ミニスカポリトカは思った。コレどーゆープレイ? だがしかしありがとうジジイ、と。
女の顔はわからないが声だけで想像するときっと女神のようなヴィーナスなんだろうなという思いが馳せた。女が○○袋に息を吹きかける度にミニスカポリトカは宇宙へと誘われ銀河を旅しながら、今いる自分たちの世界はなんとちっぽけなんだろうと思った。あの時、世界を変えてやろうと立ち上がってよかったと思ったし今も立ちっぱなしだった。手足の自由は効かないのにソコだけは活き活きしていてどちらにしても不自由じゃないかと気づいてみれば可笑しくって少し笑ってしまった。
大平原の中で空の青さと野鳥の囀りを感じながら、股間に絶えず送風される吐息によって宇宙が構築されるともはや自分などどうでもよく一生この状態をキープしてくれまいかと誰にともなく大声で叫んだミニスカポリトカである。自分には大義があったはずだ。憂いがあったはずだ。願いが、理想が、夢が。もうどうでもよくなっていた。
「おにいさん、コレ好き?」
「はい!」
好きな人が優しかった 川谷パルテノン @pefnk
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